表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/81

34.ポンポン、ヒイィィィ!

「ヘリーにも、もちろんマルクから贈られた帽子とサンダルを渡しておいたよ?」

「え、えと……お手間を取らせてしまって、ごめんなさい、ですわ?」


 何となく……何となくですけれど……ファビア様のエレガントな全方位完璧王子様モードが一変してますわ?


 ヘリーの話をした途端、ファビア様の微笑みに圧が増した気がする。


 どうしてか淑女時代に嗜んだ大衆小説を思い出した。


 確か、あの小説には腹黒王子やら、ヤンデレ王子やらと表現されてましたのよね。

どうして今、ファビア様を見て思い出したのかしら?


「ねえ、マルク?」


 緑茶を飲み干したファビア様が、洗練された動きで茶器を置く。

優雅に立ち上がって……。


「あああ、あの!?」


 私の隣に腰掛けた!?

近いですわ!

ファビア様のお顔が、ズイッと近づきましたわ!?


「マルクは、ヘリーが、随分と、気に入ったんだね?」

「!? !? !?」


 何を言っているのか、頭に入ってきませんわ!

何で短く区切って話してますの!?

はっ、口臭!


 思わず体を離す。

あまりに近づきすぎだ。


 お風呂に入った時、体だけでなく歯も磨いた。

念には念をと、庭に植わったローズマリーの新芽を口に放りこんで、噛み砕いて飲みこんでから応接間に入った。


 けれど、オッサンの口臭と胃臭、舐めんじゃねえですわ!


「そんなに気に入った?」


 ファビア様!?

どうして更に体を近づけますの!?

近いですわ!


 息がかからないよう、体を仰け反らせたまま、顔を背ける。


 パニック、パニック、パニーック!

頭の中が真っ白になりますわ!


 ファビア様、何か怒ってますの!?

何がいけなかったのかしら!?


 必死に状況を整理して、ある事に思い当たった。


 そうですわ!

ヘリーは平民!

その上、ファビア様の使用人だ!


「ききき、気に入ってませんわ!」


 口元を両手で覆って、叫ぶ。

ファビア様と目を合わせた。


 き、綺麗なお顔ですわね!

まつ毛も長くて、顔の造りがあまりに繊細!

小顔で殿方ですのに、女性にも見えますわ!

外見はオッサン、中身が乙女な私の中で、色々な意味で危ない扉を開きそうな、やべえ感覚に陥りそうですわ!


「あああ、あくまで、お世話になったからですわ!

ち、近いので、少し離れて下さいませ!」


 そう言って片手は口元を覆ったまま、もう片方の手でファビア様の胸元を押す。


 ファビア様の目が、大きく見開いた気がした。


 もう臭えんですの!?

それはそうですわね!

変な脂汗が噴出しそうですもの!


 涙がちょちょぎれ、火が出そうなくらい顔が熱くなる。

更なるパニックに陥りながら、再び両手で口元を覆った。


「あああ、あまりに近いと、臭え(にお)いがしますわよ!

私から!

とにかく離れて、距離を取って下さいまし!」


 何故か固まるファビア様。

もう顔を合わせていられない。


「破廉恥ですわぁぁぁ!」


 もう駄目!

恥ずかしいですわ!


 今度は顔を両手で覆ってうつむく。


「あー、ごめんね、マルク」


 ややあって、ファビア様の体が少し離れる気配がした。


「マルクが可愛くて、つい顔を見つめたくなったんだ」


 可愛いって何ですの!?

まさかオッサン顔が、お好き!?

何の性癖を暴露してますの!?


 なんて混乱していれば……マルクの薄毛頭皮をポンポンとソフトタッチ……えぇぇぇ!?

ポンポンタッチですのぉぉぉ!?


 手つきはとっても優しく、恐らく反省なさっているのが窺える。


 しかし……しかしだ!


「ヒイィィィ!」


 野太い悲鳴をほとばしらせながら、片手でバッとファビア様の華奢な手首を掴む。


「うーん、そんなに嫌だった?」


 ファビア様が苦笑するも、無視してもう片方の手で、おしぼりを握る。


「違いますわぁぁぁ!

臭え脂がつきましたのよぉぉぉ!」


 華奢な手を上向けて、おしぼりで擦りつけるように拭う。


 唖然としたファビア様は、私にされるがままだ。


 やがて、くすくすと笑い始めるファビア様。

さっきとは打って変わって、優しげな、女性のような柔らかな笑み。


 あら?

この、眉が八の字になったような、クスクスと笑う口元を、拳を握って笑う、淑女らしくない笑い方……。


 窓からさしこんだ陽光が、ファビア様の白金髪に当たり、薄く青く煌めく。


「エンヤ……嬢……」


 思わず、淑女時代に縁のあった子爵令嬢の名を呟いてしまう。


 するとファビア様が、ふふ、と今度は嬉しそうに、懐かしそうに微笑んだ。


 私の言葉に驚くでもなく、聞き返すでもなく……。


「あの……ファビア様?」


 過去の令嬢の名前を失言する私から、ただただ微笑んで、ファビア様は再び対面に座る。


「それでね、業務提携の事なんだけど……」

「前触れなき貴族紳士スマイルですわ。

本題に入るの、唐突すぎますわ……」

「マルクにとっても、バルハ領にとっても、悪くない話だと思うよ」

「つ、続けますのね……」


 気持ちの切り替え、お流石ですわ。

オッサン、ついてけませんわ。


「続けない方が良いかな?」

「い、いえ、続けて下さいまし!」


 もちろん私は現バルハ領主であり、前世は女伯爵だったのだ。

矜持を奮い立たせ、背筋を正してファビア様と話し合う事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ