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【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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30.尻ソリーからの、絶望

「さ、寒いですわ……夏だからと、舐めてましたわ……」


 ガタガタと震えながら、岩の窪みで冷たい風をやり過ごす。


「テ、テントが欲しいですわあぁぁぁ!」

――わあぁぁぁ! あぁぁぁ……ぁぁ……。


 順調だったテント生活を恋しく思いながら叫ぶも、虚しく木霊して、シーンとした。


「うっうっ、どうして、こうなるんですのぉ……うっうっ」


 涙を浮かべて、打ちひしがれる。


 ロッティーとのテント生活は順調だった。

目当ての物も見つけて、ひとまず必要そうな量も確保した。


 荷造りしたついでに、自分のリュックもロッティーの背中に載せて、私は手綱を引いて歩いて山を下りていた。


 はひぃ〜、はひぃ〜、すう〜、すう〜、と息を上げつつ、頑張って歩いた。


 予定より2日ほど山に長居してしまったからと、頑張った。


 そうして人が一人通れる、片方が急斜面になっている道に差し掛かる。

ロッティーと並行して歩くには難しいくらいの狭さだった。


 その時、悲劇が起きた。


『あいたっ』


 前触れなく、ツキンと膝に痛みが走る。


 短く痛みを叫んだ私は、思わずロッティーに繋がる手綱を手放した。

痛みの走った膝へ反射的に手をやり、かがみかけた。


――ビュウゥゥゥ!


 次いで、斜面から上に吹き抜けるように突風が吹いた。


『へ?

……ンガッ!?』


 かがみかけた私は上半身でもろに風を受け、まずは片方の壁になっていた草木に覆われた斜面に肩を強打。


 からの、肩肉がポヨンとバウンド。


 からの、痛む足に力が入らず、ズルンと滑って転びながら、もう片方の斜面へと尻持ち。


 からの、尻ソリーをしながら、そのままお尻で草の上を滑り落ち(下り)て行く。


『きゃあぁぁぁ!?』

『ブフヒン!?』


 自分の野太い悲鳴と、ロッティーの「ちょっ、待てよ!?」的な嘶きが虚しく木霊する。


『ヒイィィィ!

崖ぇ〜!』


 どんどん下に向かうにつれ、その先にある崖が口を開けているのが見える。


『神様、お助け下さいまし〜!

ヒイィィィ!』


 私をこの世界のマルクの体に突き落とした神様に向けて叫ぶ。


 そうして真っ逆さまに落ちると覚悟した。


 とにかく両手でがむしゃらに草を掴んで、千切れては掴んでを繰り返す。


 そうして崖まで足先が落ちた時、間一髪、縄を掴んで……。


『と、止まりましたわ……』


 縄だと思ったのは、太い蔦。


 斜面に寝そべってバンザイした状態で、太ももの真ん中まで落ちていた。


『ギリギリ、セーフでしたわ』


 ホッとした。


 のも、束の間。


――ブチィッ。


 蔦、切れましたわ。

体重、少しは減ったはずですのよ……。


『ヒイィィィ!』


 誰にともなく、刹那の言い訳をかましつつ、再びほとばしる野太い悲鳴。


 体は崖を落ちて……。


――ドシン。

『あ、あら?』


 落ちれば確実に死にそうな崖の途中に、偶然できていた人が一人寝そべった程度の地肌が顕になった段。


 恐らく勢い良く滑り落ちれば、飛び越えていただろう程度の地面に着地して、尻持ちを突いた。


 助かった事にホッとし、ホッとしたからこそ、今度は恐怖に襲われる。


 膝がガクガク、腰は抜け、立ち上がれない。


『せせせせせせ、セーフ!

セーフですわ!

おほほほほ!』


 人間、恐慌状態に陥ると、笑うんですのね。


 なんて考えながら、震える声で笑いつつ、抜けた腰でどうにか崖肌に背中をつけるように移動する。


 下は急転直下の崖。

崖下には、地肌が覗く山道が見える。


 落ちたら死ぬ。


 上を見上げれば、自分の身長より幾らか高い場所に切れた蔦がブラブラしている。


 そんな状態で、かれこれ数時間が経過した。


「そろそろ日が暮れますわね。

抜けた腰は戻ったものの、蔦にジャンプして飛びつくなんてできませんわ。

腹がつかえて、壁にポヨンと反射しようものなら……」


 今一度、下を見やる。


「むむむ無理。

絶対、無理ですわ」


 ゾッとして、再び壁に背をつける。


「頼みの綱は、ロッティーですわね」


 せめてロッティーが邸の方へ戻れば、誰かが気づいて助けに来てくれるかもしれない。


「でも……また見捨てられたら……」


 少し落ち着いたとはいえ、非常事態という恐怖に依然として見舞われている。


 そのせいだと、頭のどこかでわかっている。


 わかっていても、フローネ=アンカスとして処刑された時に見た、婚約者や使用人達の顔がちらつく。


 誰も助けてくれなかった。

裏切られた。

きっとマルクだって……。


「うっ、うっ、そんな事、ありませんわ……」


 必死に、フローネの記憶を打ち消す。


「ありません……ありませんのに……」


 駄目だ、消えてくれない。


 日が沈み始めてしまい、風がどんどん冷たくなり、絶望感を更に煽られる。


「うっ、うっ……うわあぁぁぁ!

うわあぁぁぁん!

うわあぁぁぁん!」


 とうとう、タガが外れたように泣き叫ぶ。


「助けてえぇぇぇ!

誰かあぁぁぁ!

誰か助けてえぇぇぇ!」


 きっとフローネの最期の時のような、情けない鳴き声だろう。


 いや、今はオッサンだ。

もっとずっと見苦しいはず。


「助けてえぇぇぇ!

誰かあぁぁぁ!

誰か助けてえぇぇぇ!」


 それでも声の限り、フローネの分も叫ばずにはいられなくて……。


「うっ、うっ……ふふっ……無駄、ですのに……どうせ、どうせ……」


 暫く泣いて、声がさすがに枯れかけて……笑いが漏れた。


 どうせ、誰も私のことなんて助けてくれない。


 そう続けようとした時。


「……ぃ、……しゃく……」


 ふと、聞き覚えのある声がして、顔を上げる。


「お~い!」


 今度こそ、誰かの声が下からはっきりと聞こえた。

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