表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/81

28.ギフト効果

「茶の木が……はあ、はあ、枯れるかもしれねえ、はあ、はあ」


 突然、私の住む邸を訪れたかと思えば、玄関先で絶望的な顔をしてポツリと漏らしたのは、ダン。


 恐らく慌てて、山の麓から駆けてきたのだろう。


 まだ午前中の比較的涼しい時間帯とはいえ、今の季節は真夏。

ダンは汗だくだ。


「……どういう事か、まずは中に入って聞かせてくださいまし」

「……ああ」


 まずはダンを落ち着かせつつ、邸の応接間へとダンを通すべく、邸の中へと招き入れる。


 そう言えば、応接間に人を通すのは初めてですわね。


 今日は使っていない客室を掃除しようと、朝から動いていた。

まだ掃除に取り掛かる前で良かったと安堵し、通りがけにドアを開けっ放しにしていた客室へとサッと寄る。


 自分用のおしぼりと、冷茶を載せた盆を取り、ドアを閉める。


「……臭え」

「!?」


 ボソリと呟かれた声に、思わず後ろをついてきていたダンを見やる。


 するとダンは浮かない顔をして、何やら考えこんでいた。


 ダン……今、無意識に呟きましたわね!?

心ここにあらずな顔をしてますわ!?

絶対、無意識ですわ!

てことは今の発言、絶対に心から出た本心ですわね!?


 ダンの一言を責めるよりも、今部屋を掃除しようとしていたんだと言い訳をするよりも、自分の感覚に対して愕然とする。


 臭え部屋だと、気づいていませんでしたわ!

鼻が麻痺してますわ!

私、完全に臭え(にお)いを、臭えと認識してませんでしたわ!


 もはや無臭にすら感じるほど、この邸の臭いは自分のベースホームな臭いになっていたとは!


 ああ……絶望してしまいますわ。

嗅覚死んでますわ……。

乙女心も瀕死ですわ……。


 泣きたくなる気持ちを抑えて、ダンの呟きなど聞こえていなかった体を装いつつ、応接間へと迎え入れる。


「お茶とおしぼりをどうぞ。

汗を拭いて落ち着いたら、話して下さいな」


 邸に侍女がいない為、自分でお茶を出す。

ダンは暗い表情のまま、私の言う通りにした。


 向かい合わせで座ろうと腰かける。

するとソファが思った以上に沈んでしまった。


 くっ、空気がソファからバフンと漏れ出て、上昇しましたわ!

臭い、大丈夫ですわよね!?

応接間はこの邸に住むようになって、真っ先に掃除しましたもの!

ずっと定期的に、換気も拭き掃除もしてきましたわ!


 内心ではアワアワと慌てふためきつつも、キリッとした外面を何とか維持する。


 ダンの顔をガン見してしまいますわ!

ああ、変な汗が!?

おしぼりはもうありませんのに!


「くそっ、何でだ……例年通りに、茶の木の周りに肥料だって撒いたのに……」


 良かったですわ!

良くないけれど、良かったですわ!

ダンの心は、茶の木にゾッコンですわ!


 ダンの様子に、ホッとしつつ、領主としての体裁を保とうと口を開く。


「ダン、まずは三番茶を収穫しましょう。

先週まで、三番茶用の芽は無事でしたわ。

芽から枯れているわけではないのでしょう?」

「そりゃ、そうだが……」

「少し考えがありますの」

「考え?」

「ええ。

今年の冬頃に撒く肥料も含めて、土壌の改良をするのですわ」

「土壌の改良……でも、失敗すりゃ……」

「うちの畑で育てていた苗木は、順調……順調以上に育ってますの」

「順調以上って、何だよ……」

「とにかく!

新たに植樹する苗はありますし、ダンのお陰で渋柿液もありますわ。

あと少しすれば小麦も収穫時期を迎えますが、今年は比較的豊作。

縄の糸で編んだサンダルも、現段階で生産可能な数分だけ、既に受注を受けてますわ。

一番茶と二番茶の卸し先も、既に確保できておりますし、トータルすれば、去年の領収は上回っておりましてよ。

ダンが心配している事を分析するなら、それは来年の茶葉の生産量が減る事では?

今ではありませんわよね?」


 人は未来への恐怖や不安を、今時点のものと勘違いしやすい。


 だからダンの不安がどの時点で起こるものか、あえて指摘する。


「それは……そうだな。

できれば三番茶は来週収穫したかったが、明日から収穫しても問題は……まあ、ねえか。

どういうわけか今年は、新芽が伸びるのも速えしな」

「そうでしょうとも、そうでしょうとも」


 最近、やはりと自覚している事がある。


 庭に植えたハーブや、茶の木の苗木も含めて成長が速い。


 神様のギフト効果が、まさかこのタイミングで発揮されるとは思わなかった。

神様の言う通り、確かにマルク=コニーにはうってつけの【植物なんかがほんのり早く成長するくらい】なギフトだ。


「それでは明日、三番茶を急いで収穫ですわね!

近くの領民達にも手伝ってもらうよう、お願いしてみますわ!」

「……ああ、よろしく頼む。

にしても、随分と領主っぽくなったもんだなあ」

「そうでしょうとも、そうでしょうとも!

私は領主として、目覚めたのですわ!」


 ダンの感慨深げな物言いに、気を良くした私。

しっかりと相槌を……。


「臭えだけの泣き虫なオッサンだったのになあ」


 相槌の出鼻を挫きにきたやつですわね。

しかもダンからは悪意の類が一切感じられない。

むしろできの悪い子供の成長を喜ぶ、親戚のオッサンみたいな顔になってますわ。


「ふぐっ……そうですわね」


 心で大泣きしても、目尻に涙が浮かんても、絶対泣いてやりませんことよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ