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【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?  作者: 嵐華子@【稀代の悪女】複数重版&4巻販売中


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11.いたずらにイタズラ

「ふおぉぉぉぉ!」

――シャカシャカシャカシャカ!


 実の入った竹筒にお湯を少し入れて蓋をする。

からの気合いをいれて、シェイク! シェイク! シェイク!


「ふおぉぉぉぉ!」

――シャカシャカシャカシャカ!


 健やかな頭皮へと変われ!

そんな切なる想いを馳せながら、一心不乱!

とにかく振る!


「はぁ、はぁ、はぁ……も、もう良いかしら」


 湯船に浸かって体を温めた後。

立ち上がっても太ももまではお湯に浸かっている。


 良い汗かきましたわね!


 お湯とウォッシュナッツが筒の内側と擦れる音が無くなってから、カポ、と蓋を外せば……。


「成功ですわ!

立ってますわ!

ネチャタプな頭皮の脂に負けない、理想的な泡!

立ってましてよ!」


 白い泡を軽く指で触れれば、ふわんとしたモッチリ触感。


「これぞウォッシュナッツ!

別名、ムクロジの実!」


 これは私が女伯爵になる前。

うら若き年頃の少女だった頃の事。


 石鹸で洗う度、ゴワゴワキシキシと主張する己の髪の毛をどうにかしたかった。


 もちろん普段は侍女が香油を垂らして、しっとりした元の髪へと戻してくれていたのだけれど。


 そんなある日、まだお元気だったお父様について諸国を旅した。


 その時立ち寄った、とある貴族の邸。

そこで洗濯物を取りこむ下女が目に止まった。


 洗濯物と言えば、石鹸で洗う度にガビガビの、硬くなるイメージだった。


 なのに下女が手にしていた洗濯物が、ふんわり柔らかそうに見えたのだ。


 私は下女に声をかけた。


「ゴワゴワした下着になるのが嫌で、都度捨てていた贅沢時代が懐かしいですわね。

今のコニー家の経済状況では、考えられませんわ」


 泡を眺めながら苦笑する。


 とは言え、一度履いただけの下着でも、お気に入りのデザインはあった。

少し勿体ないと感じていたのもあり、柔らかそうな洗濯物を抱える下女に尋ねたのだ。


「あの時教えてもらったのが、このウォッシュナッツ。

エグくて食べられないけれど、お洗濯物には最適でしたのよね。

流通させるには数が少なくて、商業化はできなかったのが残念でしたわ」


 数が少ないと言って断られかけたウォッシュナッツを、無理を言って滞在先から分けて貰った。


 けれどアンカス邸に戻った私は、ある事を思いつく。


 ゴワゴワする髪を、洗ってみるのはどうだろうかと。


「数が少ないウォッシュナッツだったから、極秘扱いで侍女に使わせてましたのよね。

狙い通り、髪は石鹸を使うより柔らかな仕上がりとなりましたわ。

ただ、時間と共に実が乾燥していくと臭いが気になってきて、結局止めてしまったのだけれど」


 初めは、ほんのり甘い香りでしたわ。

それが徐々に……良いとは言えない……まるで……。


「乾物」


 そう、干した茸のような。


「それで結局、洗濯物に使うよう言ったんですわ。

けれどそれはそれで、下女に感謝されましたのよね。

石鹸を使うより、手荒れがマシになったと言って」


 あの頃はまだ、私と使用人達の仲も冷え切っていなかった……多分。


 いつからだったかと考えて、お父様が倒れてからだと気づく。


 いくら幼馴染が婚約者として手伝ってくれるようになったとは言え、多忙を極めた。

アンカス家は、手広く商いをしていたからだ。


「……世知辛い人生の終わりでしたわね」


 信じていた婚約者に裏切られたと確信した時の、絶望感まで芋づる式に思い出してしまう。


「まだ処刑されてから、私の中では時間が経っておりませんもの。

体は臭いオッサンでも、心はまだまだ無臭のまっさらな淑女ですわ」

――パンッ

「さあさ、久々のウォッシュナッツを堪能しましてよ!」


 落ち込みかけた淑女な自分を切り替えるべく、頬を叩いて立ち上がって、再び風呂椅子に座る。


 ツンと立った泡をすくって、頭に……。


――シュワワ……。

「へ?

き、消えましたわ?」


 もう一度、ツンと立った泡をすくって、頭に……。


――シュワワ……。

「……う、嘘ですわ!

何でですの!

淑女な赤毛より、焦げ茶白髪混じりオッサンの毛量の方が遥かに少な……」


 そこで息を飲む。


「指の腹に感じるネチャネチャ感が、増してますわ!

そう言えば、汗をかいて……嫌ですわ!

汗と共に脂も流出したという事ですの!?

それに調子に乗って、頭を先にすすぐのを忘れてましたわ!

やっちまいましたわ!」

――モワン……。

「ハヴァ!?

臭いですわ!

泡が消えた両手を、見つめただけなのに!?

加齢臭は鼻腔をいたずらに、イラズラしますのね!?」


 勢いに任せて叫んだ直後。

一瞬、真顔になった。


「…………あぁぁぁ!?

うっかりオヤジ臭い言葉が、口を突きましたわ!?

嫌ですわ!

体はともかく、中身までオッサンになりたくありませんわ!

中身は淑女ですのよぉぉぉ!

心身の、心にまで変化を与えるオッサンの体が、恨めしいですわぁぁぁ!」


 ひとしきり騒いでから、再びウォッシュナッツを泡立てる。


 シャカシャカシャカシャカと、心を無にして、気の済むまでしっかりと無心で振って泡を立てた。


 ウォッシュナッツは何度か繰り返して使えるのが、利点ですわ!

もう少し泡立ち効果を強力にできないか、要研究ですわね!

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