私は奴隷のままでいいよ
「それで、これからどうするの?」
町の外に出た途端に口調が雲母の口調が変わったのは、僕がそうお願いしているからである。
誰かに見られることが少ない野外であり、見られたとしても警戒している間は簡潔なやり取りを心がけていると言えば納得は得られるだろう。
「昨日は森の採取に行ったから、今日は洞窟の方かな。
服飾ギルドの次は鍛治ギルドと彫金ギルドに恩を売っておこうかなと」
「ほほ〜つまりはこの町の経済を裏から牛耳ろうってやつか。
流石はご主人!」
「いやいや、そう言うことじゃないよ。
お世話になってるんだから少しでも町に恩返ししたいってこと」
「あはは、分かってるって。
相変わらずご主人はからかいがいがあるなぁ」
ミモザの町には、右も左も分からない僕を迎え入れてくれた恩がある。
だから、この町が栄える方法があるのであれば、なるべく手助けしたいと思っているのだ。
「今回向かうのは森の先にある洞窟だね。
山のほうに行けばもっと良い鉱石が取れると思うけど、今の僕たちの戦力じゃ厳しいと思う」
「ここの魔物なら苦戦しないけど?」
既に森の中へと入っており、警戒はしながらも襲ってくる魔物たちを難なく捌いていく雲母。
「森はこの島では一番ランクが低いらしいからね。
洞窟は次に出てくる魔物が手強いらしいから、今の僕たちのステップアップに丁度いいんだよ」
「それも私のため?」
「うん、本当はもっと早く解放してあげたいんだけど無理をしても仕方ないからね。
少しずつ強くならないと」
「私は別にこのままでもいいんだけどなぁ」
「そりゃ雲母はそうだろうけど。
東雲さんの方は僕の奴隷なんて立場は絶対に嫌だろうからね」
服従の腕輪で反抗心を抑えられた雲母は別人格と言っても良いだろう。
奴隷として存在することを義務付けられている人格としては、奴隷から解放するなんて嬉しくない話であろう。
だが、彼女が腕輪の力で作られた人格である以上は、どうにかして元に戻してあげたいと思っている。
このことがきっかけで一瞬は拗ねてしまったが、直ぐに機嫌を直して明るく話しかけてくれる。
とても嬉しい事ではあるのだが、腕輪の力で反抗心を奪われた結果と思うと何とも言えない気分になる。
地道に……それでも可能な限り最短で彼女が解放されるルートを進もう。