ご主人、話があるよ
「え、な……なんでそんな事を?」
突然雲母から告げられた言葉に驚きが隠せなかった。
「ご主人の気持ちは本当に嬉しい。
ウチを奴隷から救い出すために動いてくれてるのには本当に感謝しかないよ。
でもね、そのせいでご主人に無理をさせたくない」
「無理なんて、僕は別に」
「嘘ついちゃダメだよ。
ご主人は本当は錬金術をもっと勉強したいんでしょ。
礼拝に行く時のご主人はいつもよりも活き活きしていたよ」
「そ、それは……」
礼拝に行った時、雲母は教会にいるオリンさんを始めとした戦える者達に稽古をつけてもらっていた。
一方で僕の方はというと、アルネの研究室に行っては、新たな錬金術の可能性を探る話をしていたのである。
それが楽しくなかったと言えば、間違いなく嘘になるだろう。
「ウチはね、ご主人に買われた時からずっと一緒について行こうって決めてたの。
だから、奴隷だとか奴隷じゃないとかで変わらないよ。
それよりもご主人に無理をさせて冒険者をやってるほうが嫌だって思う」
「雲母……雲母は奴隷でも構わないって事?」
「構わないっていうより奴隷じゃないと困っちゃうかも。
あーしはこれが無いと全然素直になれないみたいだから」
そう言って雲母は愛おしそうに服従の腕輪を撫でた。
その様子を見ていると、僕が今まで如何に一人相撲を取っていたのかを理解することが出来た。
こういうところがカースト下位の原因だったのだろう。
「結局、僕のやってた事は無駄だったってことかな」
「え、そんな事ないよ。
冒険者稼業をやっていたから、この生活の大変さは分かったし。
オリン達とも仲良くなれて、自分の実力の甘さっていうのも分かったし。
冒険者として活動するのはやめよう。
でも、ご主人が錬金術をやるのに必要な素材は自分たちで取りに行こうよ……オリン達も誘ってさ」
「そっか……それも良いね。
あ、でも、職人ギルド達への納品とかはどうしよう」
現状、納品している僕らが止めてしまえば、その物流が途絶えてしまうことになる。
そう思ったのだが、どうやら心配は無用だったようだ。
「その辺りはご主人の頑張りが効いてるみたいだよ。
薬品とかの在庫も安定してきたから、また冒険者が少しずつ増えてるんだって」
「そっか……全然気が付かなかった」
「人が増えてきているなんてギルドに行ってれば気付きそうなものだけど、それに気付けないくらい無茶してたってことだよ」
確かに雲母の言う通りである。
錬金術師にとって最大の武器は冷静さと周りを見て状況を把握する力であろう。
その力が欠けていた時点で、この道を進んでいくことに無理があったのだ。
この話し合いの日、僕達は冒険者チームを休業することにした。
そして、この日は東雲さんにお礼としてたっぷりと尽くしたのは言うまでもない事であろう。