ウチらは前から言っていた
結局、お風呂の中ではドキドキしたものの、それ以上の事はなく、東雲さんはいつものように僕を顎で使い始めた。
日中出かける時は腕輪を付けるので雲母になり、夜は東雲さんへと変わる。
その生活自体は少しも変わることはなかった。
ただ、少し変わったのは……
「ご主人、ちょっと疲れちゃったかも……」
「無理しないほうがいい、今日はもう引き上げよう」
「ありがと〜あ!
ついでに少しだけ抱っこして欲しいかも」
「え、わ、分かったよ」
「えへへ〜ありがとう……大好きだよ、ご主人!」
雲母は少しだけワガママを言うようになったところだろう。
その変化は雲母だけでなく、東雲さんにも表れていて……
「今日は手間をかけさせたな」
「え、ああ、雲母のことかな?
あれくらいどうって事はないさ」
「見栄張るなよ、腕がプルプルしてるぞ」
「は、はは……結局街の入り口まで抱っこすることになっちゃったからね」
「ちっ、仕方ねえな。
マッサージしてやるからそこに寝転がれ」
「え、東雲さんが!?」
「まさか嫌だなんて言わねぇよな?」
「ま、まさか……それじゃ、お願いしようかな」
東雲さんのマッサージは、意外と言っては何だが非常に気持ちよく、僕の全身の凝りを解してくれるようであった。
「ま、半分くらいはあーしのせいってのもあるからな。
……いつもありがとよ」
東雲さんはあの時から少しだけ素直にお礼を言って、偶にご奉仕をしてくれるようになった事であろう。
そうして幾日かが過ぎたときである。
「ご主人に話したいことがあるんだ」
腕輪を外そうとした時、それを拒否しながら雲母はそう告げたのであった。
「どうしたの?」
「その前に今から話す事はあーしも了承してる。
ウチとあーしの同意見だって事は分かっておいて欲しいんだ」
「……ああ、分かったよ」
雲母にしては珍しく真剣な表情に僕は頷く。
「先ずはハッキリさせておきたいんだけど、ご主人は何で冒険者のチームを作ったの?」
「それは……東雲さんを奴隷の立場から早く解放してあげたいからだ」
「それは今も変わらない?」
「ああ、勿論だよ。
僕にとって冒険者をやる意味はそれだけと言ってもいいくらいだ」
前から話している通りに、地位も名誉も生活も、今の錬金術師という立場で事足りている。
東雲さんを奴隷から解放できればその日にチームなんて解散してしまって良いとすら思っているほどである。
「やっぱり……」
その言葉を聞いた雲母は何か納得したような顔で呟くき、次の瞬間に顔を上げて驚くべきことを口にした。
「ご主人様、もう冒険者なんて辞めよう」