た、偶には褒美をやらねぇとな
「そうやって腕輪を付けている時は素直になれたってのに……外すといつものあーしに戻っちまう。
だから、あーしは……あーしとウチは其々を別の人格だと考えるようになっちまった」
「別人格だと……思ってた?」
「だってそうだろ?
ご主人に素直に好意を示して尽くすウチと、ご主人に素直になれずにこき使うあーし。
どう考えても同じ人間だなんて思えないって」
その口ぶりではまるで東雲さんと雲母が同一人物みたいな……いや、同一人物ではあるのだが。
ダメだ……東雲さんと二人でお風呂にいる状況と、熱気のせいで頭が上手く働かない。
そんな僕の混乱をよそに、東雲さんの語りは続いていく。
「さっきアンシアに言われた時に分かったんだ。
腕輪は別の人格を作っていってるんじゃなくて、あーしの心を素直にしてくれているだけだったんだって。
ウチは別人格なんかじゃない。
あれはあーしの素直な心だったんだよ」
「……じゃあ、今は何でこんなに素直に話をしてくれているの?」
色々と頭が追いついていない状況ではあったが、真っ先に思いついたのはこの疑問であった。
今は腕輪を付けていない東雲さんのはずなのに、妙に素直に話をしてくれている。
いつもの尖った雰囲気は無く、どちらかというと雲母の雰囲気に近い。
だが、喋り方は東雲さんに近い感じがして脳が混乱してしまいそうだ。
「自覚したら何だかあーしとウチの心が溶け合った気がして、気付いたらいつもより素直に話せるようになってたんだ」
「東雲さん……」
「ちっ、珍しく素直に話をし過ぎから疲れちまった。
ほら、サッサと湯船に入るぞ」
室内も快適な温度に保たれているとはいえ、流石にお風呂に入らないまま長時間話しすぎた感はある。
なるべく東雲さんの方は見ないように湯船に浸かったのだが、彼女は全く気にしない素振りでそのまま湯船の中に入ってくる。
「ちょっ、東雲さん!?」
「次はあーしが前の番だろ。
ほら、足広げてスペース空けろよ」
そう言って強引にスペースを作ると、僕の前にスッポリと収まる形でお風呂に入ってしまった。
先程までは僕の背面を東雲さんが見ていた形だったが、今は完全に真逆になっている。
「言っとくけど触れたら殺すぞ」
「いや、この状況で触れないは無理があるでしょ」
「はは、冗談だよご主人。
……まぁ、このくらいならな」
そう言って東雲さんは僕の腕を掴むと、彼女を抱きしめるような形を作った。
「あーしじゃなくて、ウチがそうして欲しいって言ってるからな」
「どっちも同じなんでしょ?」
「複雑な乙女心は違うんだよ!
いいから、このまま!!」
「はいはい」
本当に東雲さんと雲母が同一の人格なのかは分からない。
しかし、今は彼女を抱きしめている幸福感に身を任せよう……そう思うのであった。




