あーしの本音
「東雲さん?」
「あーしはさ……何でもできると思ってたんだ。
学校では頂点に立ってチヤホヤされて、無茶でも通すことが出来た。
それがずっと続くと本気で思ってたんだよ」
星雲学園にいた頃の東雲さんは正に女帝という言葉が似合う人物であった。
教師も含めたスクールカーストの頂点。
全てが彼女中心に回っている……そう思っても仕方ないだろう。
第三者である僕ですらそう思ってしまっていたのだ……本人がそう信じていたとしても、何の不思議もないだろう。
「この世界にやってきてもそれは変わらない。
世界は変わらずにあーしを中心に回っていて、何でも思い通りになる……あの時までは本気でそう信じていたんだよ」
あの時……それはこの世界にやって来て間もなく、東雲さんを誘った冒険者パーティの話であろう。
彼らは裏では南西にある犯罪都市に普段から出入りして繋がりのある人物であり、東雲さんを煽てて調子に乗らせ、騙して奴隷として売り払った人物である。
その後、冒険者ギルドでは彼女の横柄な態度が依頼主の反感を買って多額の賠償金を支払うことになり、それが出来なかった東雲さんは奴隷に落とされたという報告が為されたのであった。
「でも、実際にはそんな事は無くて。
あーしは騙されて奴隷にされて……それでも何とかなるって、あーしなら大丈夫だって。
そんな時にご主人が現れたんだ。
でも、その時もやっぱりあーしを中心に世界を回ってるんだって……買って面倒を見てくれたご主人に何の感謝もしていなかったんだ」
それは事実なのだろう。
僕が東雲さんを購入したいと言った時も彼女は全く懲りている様子は無かった。
逆にここまで叛骨心が萎まないものかと感心したほどである。
そんな彼女の心境に変化をもたらしたもの……それは恐らく。
「きっかけは心の折れていない奴隷に使うための服従の腕輪だった。
あれを着けられてから、いつも尖っていた心が丸くなっていって、物事を素直に見れるようになったんだ。
そうして素直な目で見たご主人の成果に本当に感動したんだよ。
あーしが馬鹿をやってた頃に、この人は真面目にコツコツと頑張ってここまでの地位を築き上げてきたんだって」
こっちに来てから忙しくて振り返る暇がなかった。
だが、確かにそう言ってもらえて、今の街の人達の反応を見ていたら確かに言えると思う。
僕はもう決して、カーストの下位の存在じゃないんだと。