偶にはご奉仕してやるよ
教会で長居し過ぎたせいか、出る頃には日が暮れかけており、急いで街へと戻っていく。
何とか日が落ちる前には街へと辿り着き、今日はそのまま帰宅した。
「雲母、腕輪を」
「……はい」
何かいいたげな表情をしていたが、素直に腕を差し出してきたので外す。
すると、雲母の表情が一気に変わって、眉間に皺の寄った厳しいものに変わってしまった。
「あ、東雲さん。
実はですね……」
「その前に風呂の準備しろよ、ご主人」
「あ、は、はい、そうですよね」
先ほどの話をしようとしたのだが、風呂が先と言われては仕方ない。
急いで風呂の支度をして東雲さんを呼ぶと、彼女はその場で脱ぎ始めた。
「あ、ごめんなさい。
すぐに出て……ぐぇっ!?」
慌ててその場から離れようとすると、何故か首根っこを掴まれた。
「ご主人も疲れてるんだろ。
偶には背中を流してやるから入れ」
「え、で、でも……」
「ちっ、さっきの話は風呂の中でなら聞いてやる。
それ以外なら聞かねぇぞ」
「わ、分かりました」
東雲さんに強引にお風呂に誘われ、観念した僕は大人しく服を脱いでいく。
「なにを腰に巻いてんだよ。
男ならもっと堂々としろよ」
「いや、東雲さんが堂々としすぎなんだって」
「誰に見せても恥ずかしくないからな。
ご主人もそのくらいは自信持てるようになれよ。
ってか、ここで話してたら身体が冷えるだろ。
サッサと来いよ」
何も隠さずに堂々と裸体を晒す東雲さんに気圧されていると、腕を強引に掴まれて浴室の中に引っ張り込まれてしまった。
そして、そのまま椅子の上に座らされてしまう。
「ほら、熱くねぇか?」
「いや、丁度いい温度だよ」
「そうか……大したもんだな」
僕が作った現代風の浴室では、魔法の力も借りて浴槽内のお湯の温度を一定に保つ力がある。
その為に浴槽から掬ったお湯も適温で、かけ湯をしても気持ちの良い温度となっていた。
だが、語るべきはそこではなく……
「東雲さんが僕を褒めた……?」
「あ、なんだそりゃ?
あーしだってスゲーと思ったら褒めることもあるさ」
「い、いや……学校では全然そんなイメージなんて無かったから」
「そりゃ褒めることなんて無かった。
……いや、あの頃は自分以上にすごい奴なんていないと本気で信じてたからな」
そう言いながら、僕の背中を洗っていた手が止まる。
その態度からは彼女の葛藤が感じ取れるかのようであった。




