ウチは奴隷のままでいいのに
「そういえばもう一つ聞きたいことがあったんでした。
賢者さんは何で冒険者をやり始めたんですか?
稼ぎだけならギルド納品の仕事だけで十分ですよね?」
「え、ええ……それはまぁ。
薬の納品は常にありますから、蓄える分にも問題はありませんが」
そこでチラッと雲母の方を見る。
「まぁ、雲母さんのことを買ってから冒険者になったのは知っているので理由はそこでしょうけど」
「出来るなら早く奴隷としての立場から解放してあげたいんです。
でも、現在の法律に則った賃金では、雲母は一生涯解放される事は無いでしょう」
「なるほど……だから、冒険者だと。
主従としての賃金は決められているので多くは払えない。
しかし、冒険者としてチームを組めば、その時に得た報酬の割合は好きにできますからね」
「ええ、これで雲母の借金を減らしつつ、冒険者としてチームのランクを上げていけば雲母が奴隷だからと侮られる事もないと思いまして」
「ウチはこのままで良いって言ってるのにご主人が聞かなくって」
「あら、雲母さんは奴隷から解放されたく無いんですか?」
「だって奴隷じゃなくなって腕輪の効果が消えたら、今のウチがどうなるか分かんないじゃん。
腕輪を外したらあいつに戻るし……」
「……は?
腕輪を外したら人格が変わるんですか?
いや、待ってください……冷静に考えたら服従の腕輪をしているのに意思疎通が出来てるのがそもそもおかしいんですよ」
僕たちの話に、今までは冷静だったオリンさんが珍しく困惑し始めた。
「ちょっとこの手の話に詳しい人を呼びましょう。
イリーテ様、ちょっとこちらに!!」
「話は聞いておったが、その者の状態のことか?」
「ええ。
服従の腕輪は普通は借金が返済されて奴隷の身分が解消されるまで外す事はできませんよね?
それにその腕輪を付けたら意思を奪われて主人の命令以外には無反応になるものです。
今の雲母さんはどうなっているんですか?」
オリンさんに呼ばれて現れたイリーテという少女は、先程の礼拝の時に僕にちょっかいをかけていた少女であった。
その彼女がジッと雲母の方を見る。
「おお、おお……これはこれは。
こやつの元の人格は余程捻くれておる反骨心の塊のような存在のようじゃな。
その捻くれた部分を服従の腕輪が削ぎ落とし、本来は自由意志を奪われるところを、此奴の特性によって防いでいる……そんな感じじゃのう。
要は腕輪の呪いとも言える部分が軽減されておるので、着脱が可能という事じゃな」