腹黒じゃなかったかもしんない
「あら、随分と賑やかですね」
ウチとアンシアが笑っていたところで後ろから聞き覚えのある声がした。
「その声は腹黒……じゃなくて、オリン!」
「あら、私の名前を呼んでくれるなんて。
どういう風の吹き回しかしら?」
「模擬戦の後に治療してくれたんでしょ?
それに、ウチが暴走したのに大事にならなかったのもオリンのお陰だからね。
あの時は悪かったし、オリンのことを腹黒って呼んでたのも謝るよ」
「あらあら、それならば喜んでその言葉を受け取らせてもらいますわ」
そう答えてオリンの方から手を差し出し、ウチもその手を硬く握った…….のだが、その横でアンシアとリリカがボソリと呟く。
「腹黒は合ってるから謝らんで良いぞ」
「腹黒というよりは、脳内ピンクじゃないかしら?」
「お二人とも、後でその発言を覚えておいてくださいね」
オリンは笑顔のままであったが、その雰囲気からは怒気とは違う凄みのようなものを感じ取る。
(こ、こえ〜)
「オリン、怖いもの出しちゃメッ!だよ」
「オリンがそんな調子だとその子もマトモに話出来ないでしょ」
オリンのそんな様子に内心で震えがっていたウチだったけど、新たな来訪者によってオリンの凄みが霧散していった。
新たにやってきたのは、ウチよりも少し年下……中学生くらいの女の子2人であった。
ただ、普通の人間と一目で違うと分かるのは、片方の女の子には犬のような耳が。
もう片方の女の子には硬そうな角が2本、頭の上に生えていた。
「ここって子供が多いね」
「修道院は孤児院も兼ねていますからね。
ほら、2人とも挨拶なさい」
オリンに背中を押された2人はウチの目の前までやってきた。
「リルだよ、よろしくね!」
「リザよ、よろしく」
「ウチは雲母。
よろしくね」
「2人とも、よく出来ましたね」
ウチの前で挨拶をしたリルとリザの頭をオリンが撫でると、2人は嬉しそうにオリンに身体を擦り寄せる。
「なんかウチ、オリンのことを誤解してたかも。
キツイ事ばっか言ってごめんね」
「あらあら……あの東雲雲母さんが随分と丸くなってしまったものですね。
学校では女王様のような存在でしたのに」
「は……オリン、ウチの事を知ってるの?」
「あの学校に通っていれば誰でも知っているでしょう。
星雲高校の女帝、東雲雲母。
我が道を征く傍若の塊でありながら、人を惹きつけてやまないカリスマ性。
誰もが恐れ、憧れた存在……当時の私はそんなモブの1人だったんですよ」




