ここに来てからご主人の様子がおかしくない?
「ご主人様、どうかしましたか?」
ふと、隣から聞こえてくる雲母の声で辺りを見渡すと先ほどの少女の姿は消えていた。
「い、いや……何かいた気がしたけど気のせいだったみたいだ」
「賢者様、キララ様。
少しお時間よろしいでしょうか?」
リリカさんがこちらにやってきて僕達に声をかける。
「はい、大丈夫ですよ」
「少しお詫びしたいことがありますので、こちらの方へ」
リリカさんに案内されたのは、教会に併設された修道院側の建物であった。
そこはオリンさんやリリカさんといったシスター達や、さっき会ったアルネが共同生活をしている建物らしい。
皆で食事をとっているのであろう広間に案内されたのだが、そこには見覚えのある少女が2人いた。
1人は先程の話題にも出たアルネ。
もう1人は僕が見た謎の少女であった。
「おお〜やっと来おったか!」
謎の少女はこちらを見ると気さくに手を上げて呼びかけてきた。
どうやら先程の光景は自分が見た白昼夢というわけではないらしい。
「ふん!!」
「あいたーーー!!」
そんな無邪気な少女の頭頂部に、無慈悲にもリリカさんの拳骨が落とされる。
かなり痛そうな音がし、少女は頭を押さえてその場で転がり始めた。
「うう〜アルネぇぇぇぇ」
「やれやれ……これは貸しだからな」
少女が大きなタンコブの出来た頭を押さえながらアルネに近づくと、彼女は白衣の袖からスポイトを取り出した。
(あれは……マジックバックと同じ原理か?」
一瞬見えた白衣の袖の中は、空間が歪んでおり視認する事が出来ない。
恐らくは僕のカバンと同じように、袖の中に魔術的な収納スペースを作っているのだろう。
だが、そんな事が可能なのだろうか?
彼女は白衣を着ており、収納空間の内側から手を出していることになる。
そんな事を考えたのも束の間、更に驚愕する出来事が起こった。
アルネが取り出したスポイトの中の液体を一粒、少女の頭に垂らす。
すると、彼女の頭の上にあるタンコブがみるみるうちに萎んでいき、最後は無くなってしまったのであった。
「おお〜相変わらず素晴らしい出来映え」
劣化品とはいえ、流石はエリクサー」
「そう思うなら、こんなくだらない事に使わせんでくれ」
「えっ!?」
エリクサー……錬金術師ならば賢者の石と並ぶ目標であり、到達出来ないと言われる代物である。
試しにイメージ錬金で作ろうと試みたものの、僕の魔力が今の一万倍あっても足りない……そんな代物である。
そんなものを目の前の少女がどうやって調達したのか?……いや、そんな事は分かりきっている。
アルネは錬金術師であり、その腕は僕の遥かに上の領域にいる。
僕の興味は目の前の名前の分からない少女ではなく、若き錬金術師の少女に向けられていくのであった。