なんか空気が美味い
「おやおやおやおや、君は確か……今世の錬金術師殿では無いかな?」
不自然な格好をした少女は、こちらを見かけると嬉々とした声色で寄ってきた。
「え、ああ、そうですけど……貴方は?」
「これはこれは、ご挨拶が遅れてしまったな。
私の名前はアルネ。
そこの修道院でお世話になっているしがない研究者さ」
少女は僕のお腹あたりの身長しかなく、大きな帽子をかぶっているせいで顔が全く見えない。
それでも声色から敵対視されている訳ではないことは分かった。
「へぇ〜アルネちゃんっていうのか、ウチは雲母って言うんだ。よろしくね」
一方で雲母は意外にも子供に慣れているのか、直ぐにしゃがんで目を合わせて挨拶をしていた。
僕もそうすれば良かったと思いつつも、今更慌ててしゃがんでコミュニケーションなど取れない……それが陰キャという悲しき生き物の性なのだ。
「ほう、お主がマスターが興味を示しておる。
お主たちは教会に行くところなのであろう?
我も帰るところ故に案内しようではないか」
「それは、とても助かります」
「よろしくね、アルネちゃん」
「かっかっかっ、よいよい。
物のついであるからのう」
何処か年寄りじみた話し方をするアルネの先導で教会に向かう。
村の奥に小さな森があり、その中にある整備された道を進んでいくと拓けた場所が現れる。
教会と修道院がセットになった建物が中央にあり、その奥は断崖で阻まれていた。
近くには清浄な川が流れており、その川の先は断崖へと繋がっていた。
修道院の近くにも幾つかの建物と畑、それに花壇が設置されており、その周りには休憩するためのベンチが置いてある。
礼拝に来た人で賑わっており、ベンチで休憩するものもいれば、広場で遊び回る子どもの姿も見える。
正直、途中で通ったイリーテ村よりも賑わっている印象である。
アルネの姿を見ると、馴染みなのか人々が彼女に向かって手を振る。
それらに小さい手を振り返しながらも、彼女は歩みを止めずにまっすぐ教会へと向かっていった。
礼拝に来るための人を受け入れるためか、教会の扉は開け放たれており難なく中に入ることができた。
教会の中にも人々が多数おり、設置されたベンチに座って祈りを捧げていた。
この地に辿り着いてから空気が清浄になった気分だったが、この教会の中は明らかに雰囲気が違う。
何もかもが清らかな空気で満ち溢れており、ここにいるだけで心が浄化される気分である。
「ご主人、ここ……なんか気分が良くなる場所だね」
隣を歩く雲母も同じ感想を抱いていたのだろう。
少しスッキリとした顔でそう語るのであった。