ウチの秘奥義、絶対に破れねーから!
僕が模擬戦場に駆けつけた時には戦いは佳境へと入っていた。
雲母は腰のポーチから僕が作り出した、回復と強化を同時に行うポーションを飲み、更にはダガーを抜刀し、そこから呪文の詠唱を始める。
「ちょっ、ダメだよ!
職員さん、アレを止めてください」
「シスター・オリンの方がやる気になってるのに、止めたら何を言われるか分かったもんじゃ無いよ。
まぁ、おとなしく見てなって」
あのポーションの効果は長く持たない上、効果が切れれば己の身体に激しいダメージを与えつつ能力値の減少を巻き起こす。
雲母が使うとその反動も大きいのだが、当然ながら強化効果も強くなる。
そこに魔法まで解禁した彼女は、恐らくだが一時的に北の山脈の魔物と対抗できる強さまで上がっているだろう。
幾ら何でも木の棒を持ったオリンさんに対して過剰すぎる……そう思っていた。
だが……
「うわあああああああ!!」
叫びながらオリンさんに襲いかかる雲母。
詠唱していたのはカモフラージュであり、無詠唱で唱えていた魔法により、オリンさんの陰から無数の手が伸びて彼女の体を拘束した。
「うふふ、詠唱をカモフラージュに使うのは見事です。
しかし……貧弱過ぎますね」
影の手はオリンさんの体を拘束しようと掴むのだが、彼女はその動きを意に介さずに動き続ける。
最早、目で追えないほどに早い動きを展開する雲母であったが、オリンさんはそれらを全て涼しい顔で捌いていた。
埒が開かずに一旦距離を取る雲母。
彼女の身体には痛々しい痣があちこちに出来ており、要所要所でオリンさんからの反撃を受けていた事が分かる。
「こうなったら取っておき!
ギルドが壊れちゃっても知らないんだから!!」
ウエストポーチから再び小瓶を取り、中身を飲み干す雲母。
あれは魔力の回復と増強をする薬であった。
「プロミネンス……」
「雲母、やめろ!!」
「ノヴァ!!」
雲母は自身の魔力の全てを込めたダガーを投擲する。
アレは受け止めればその場で込めた魔力分の大爆発を起こす魔法を触媒に施してある。
また、対象に向かって誘導する性質があるため、防ぎようがない…‥そこまではいい。
だが、薬2本飲みな上に片方は魔力を増強させる専門の薬。
あのダガーにはギルドどころか、この街すら破壊できるほどの魔力が込められているはずである。
周りの人が危ないから避難を…‥そう考えたのだが
「ほう、あの嬢ちゃん大したものだな」
「オリンさん相手にここまでやるとはねぇ」
感心しているばかりで事の重要さが分かってないような声をあげていた。
どうにかしなければいけないが、その時間がない。
僕は焦りながら戦いの場へと視線を戻したのだが、そこには驚くべき光景が映っていた。
オリンさんは飛んできたダガーを2本の指で摘み上げた。
その瞬間にダガーは爆発するのだが、驚くことに直前にダガーの周りを結界が覆っていた。
その結界を破る事なく、ダガーは炎上して灰になり、結界が解かれるとその場でパラパラと落ちていく。
「う……そ……」
そこで魔力切れを起こした上に薬の効果も切れた反動が雲母へと襲いかかり、彼女は意識を失って倒れたのであった。
お気づきかとは思いますが、以前にお話しした前日譚での主役はオリンさんです。
つまり、彼女の立ち位置は前作主人公みたいなものだと思ってください。




