腹黒には負けてられないっしょ
「それでは、魔物が活性化した場所は全部オリンさんが?」
「先ずは村周辺の安全を確保するため、その周りの浄化を行いましたね。
その後、手伝いに来られた今も修道院で働くお仲間のシスターに防衛を任せて単身で北の地へと向かいました。
そして、無事に北の地の異変も解決し、島に平和が戻ったわけです」
「それでは英雄の領域ではありませんか」
「ええ、その通りです。
そのまま冒険者になればこの世界でも指折り……いえ、最強と呼ばれる存在になった事でしょう。
しかし、事件が終わった後は修道女であることを望んで今の立場に戻られたのです。
当時はまだこのギルドもしっかり機能していたのですが、こんな事になるならば籍だけでも残してもらうべきだったと後悔していますよ」
本来は引退しても冒険者ギルドの籍は残しておくものらしい。
その方が色々と便宜が図れるからであるが、アンリさんは自分が所属するのは教会側だからと引き留めるギルド側の意向を固辞したそうだ。
こうして彼女の活躍は記録に残るだけになってしまったのだとか。
「そう言えば当時は優秀な冒険者がいたという事は、僕の前任だった錬金術師もその時にはまだ存命だったんですか?」
「ええ、仰るとおりです。
ただ、シスター・アンリが活性化を終えた少し後に家で衰弱死していました。
死因はそのまま老衰と判断されたようですね」
「かなり仕事が増えたでしょうからね」
「ええ、あの時ばかりは不眠不休で活動されていたようですから。
だからこそ、この島は錬金術師という方に常に尊敬の念を抱いているのです」
その言葉でようやく納得がいった。
素性の知れない僕が、錬金術師と分かった途端に温かく迎え入れてもらった事。
前任の住んでいた館を無条件で貸し与えられた事。
それは前任の錬金術師が命を削ってまでこの島に対して貢献したこと……言葉通りの献身から得たお零れの信頼を譲ってもらっていたわけだ。
前任に恥じないよう、迎え入れてくれたこの島の力になりつつ、東雲さんを自由にするための努力をしよう。
心の中で奮起しつつ、ギルド内で待たせていた東雲さん……雲母を探した時であった。
模擬戦を行う訓練場の方で歓声が上がるのが聞こえた。
何事かと思ってそちらの方に行ってみると、荒い息で片膝をついている雲母と、その雲母を見下ろす事もなく、にっこりと微笑みながら息一つ乱れていないアンリさんの姿があった。




