3年目
弟子を取ってから3年が経った。
リリアはもう十分魔法使いと名乗れるくらいまで実力を伸ばした。
ただ、リリアにはこれ以上の、私を簡単に超えるポテンシャルがある。
更に、リリアには実践経験が無い。
そう考えるとまだまだ世には出せる実力ではない。
「リリア、今日からは私の仕事に付いて来てもらうよ」
「良いんですか?」
「実践経験も積んでもらわないと一人前として認めるわけにはいかないから」
いくら技術や知識があっても実践で対応できないと意味がない。私がそうだったから。弟子には同じ轍を踏ませるわけにいかない。
それに、多分リリアは私以外を知らない。
この問題にはもっと早く感づいておくべきだった。人里から離れて暮らすのか、社会に混ざって暮らすのか、どうするかはリリア次第だけど、私の弟子なんだ。
少しでも人と関わる楽しさを感じて欲しい。
「ロア様、でも、私、外が怖いです」
「……大丈夫、段々慣れてくるから」
私の服の裾を掴んでくるリリアの頭を撫でる。
前より少し、背が伸びてる。
私を真似ているのか、髪の毛も伸ばしていて、青緑の髪が腰まで届いている。
可愛いところは前から変わっていない。
「さぁ、行くよ」
リリアの小さな手と私の手を繋いで街に繰り出した。
―― ―― ――
「おぉ、魔女様、依頼を受けてくださりありがとうございます」
「こちらこそ、依頼をしてくださりありがとうございます……依頼内容は雨を降らすとのことで間違い無いですね?」
「はい、最近日照りが酷いものでね…それではお願いします……っとその前に、先ほどから気になっておりましたがその子供は?」
「こちらはリリア、私の弟子です」
リリアに挨拶を促すが、緊張しているのか声が出ていない。
「すみません、まだ人に慣れてないもので」
「あぁ、全然問題ないですよ、森の方じゃ人なんて一人も住んでいないですからね」
私たちの家は森の方にある。依頼する際は家に来てもらうことになっているはずだ。
この人は私たちを人と数えていない?
悪いのと当たったな。
でも大丈夫、依頼をしっかり遂行すればいいだけ。
「では、雨を呼びますので」
リリアを守るようにしてその場から離れる。
「……リリア、あの人、魔女のことをよく思ってないタイプみたいだから注意して」
「…う…うん」
チラリと依頼者を見るが、動く気配はない。10mは離れた。十分だろう。
雨を呼ぶのは精緻さが求められる高難易度の魔法だが、それは一般論に過ぎない。
私なら数秒で事足りる。
目を閉じ、空に眠る水龍へ心象を届け、その龍が雲に淼淼たる息吹を吐き、ここら一帯の雲が雨雲に早変わりする。
そして目を開ける。
この間約5秒。
念のため依頼者に目を向けると、気の流れがさっきと違う─!あいつ……あぁ思い出した。弟子にしてくれって五月蝿かったあの男か。
明らかな敵意の意識が──リリアに注がれている─!?
魔力の発生地点は?
……上か。
悪感情を魔法として具現化したものがリリアに向かって突き刺さろうとしていた─。
そのとき、大きな爆撃音が鳴り、周辺の土が舞う。
「……」
火力が足りるか未知数だったから、私の手から力を増幅できるようにリリアの前まで移動して結界を展開させた。
リリアは觳觫とした表情で上を見上げていた。魔法は結界を1ミリ貫通していたが、リリアを守ることができた。
「リリア、ごめん、外は怖いかもしれない……でも──私がいるから安心してほしい」
リリアが私を見て、安心したのかその場にへたりこんだ。持って来た持ち物を手から離してしまっている。
あいつは自分を弟子にしてくれなかったのに、私がリリアを弟子にしていたことに腹を立てたのか。
くだらない。
私はリリアが手から離してしまったものを拾い上げ、ワープでリリアと一緒に自宅に戻る。
―― ―― ――
自宅に戻ると、リリアが私に抱きついて来た。
「……ぅ……ろ、あさま……」
私の胸にリリアは顔を埋めて啜り泣いている。
「ごめんね……」
こんな思いをさせることになるくらいなら外に出さない方が良かったかもしれない。
でも、私がリリアの面倒を見れない時が来る。
私の研究があるから。
機会を逃すわけには行かない。だから、その時までには、一人でも生きていけるように育てあげないといけない。