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29 マージェリーは役に立ちたい④

「……え、あのっ、公爵……?」



 フォールズ公爵はヴァンダービル伯爵家の親戚で、私が幼い頃可愛がってくださった方の一人だ。

 私が物心つく前に公爵夫人はご病気で亡くなられてしまったけど、公爵家の一人息子のアイザックとは仲良く遊ばせてもらっていた。


 だから、私から話せば、もしかしたら怒りもおさまって話を聞いてもらえるかも……なんてことを思ったのだけど。


 泣かれるほど……だった?



(……私、いきなり出てきたのは軽率だった?)



 うろたえて殿下の顔を見る。

 殿下は想定済みだったように冷静なお顔をなさっていて、私に向けてうなずいた。

 良いのかしら……勝手なことをしたのに。



「フォールズ公爵。

 こちらは正真正銘のマージェリー・ヴァンダービル嬢です。

 十年前、亡くなったと報告されていましたが、最近になり、とある場所で保護されました。

 本人は自分が死亡したことにされていたとは知らないまま、軟禁に近い状態におりました」


「そ、そうなのですかっ。

 生きていたのか……ならば、ヴァンダービル伯爵はなぜマージェリーのことを……」


「追って生存を公表し、何らかの身の振り方を考えねばと思っておりますが、今しばらく、彼女のことは他言無用に願います」



 殿下はフォールズ公爵の問いにまったく答えておらず、それで公爵はどこか察したようだった。


「ヴァンダービルめ……」


 眉間に深いしわを刻んでつぶやき、深くため息をつく。



「しかしマージェリー……大人になったのだな。

 君は今は、この城にいるのか? 皆、君に優しいか? 冷たくされてなどいないか?」


「はい、この城では、なに不自由なくとても楽しく過ごさせていただいています。

 それに、この十年できなかった勉強もさせていただいていますし……」


「君は……この十年、教育まで取り上げられていたのか!? 何ということだ……!!

 ああもう、ヴァンダービルめ! あの愚か者は、真っ先に私に相談をすれば良かったのだ! 私なら、状況をなんとか収める方法を助言できたし……それでもやむなく一時的には社交界から締め出されることになっただろうが、復帰を手助けすることもできたのに……! 

 いや、それよりもだ。

 すまない、マージェリー、本当に……」


「? 公爵閣下が何も謝られることはございませんが?」


「あるのだ。

 いや、それは……また後日話そう」



 涙を流し、別件で怒りを爆発させたあとの公爵は、すっかり冷静さを取り戻したように見えた。



「殿下。まことに申し訳ございません。

 ご無礼にもこちらに押しかけ、さらにご無礼申し上げましたこと、心底よりお詫び申し上げます。

 その上でさらに申し訳ないことでございますが……失礼させていただけますでしょうか?

 一刻も早く、マージェリーの生存を、息子アイザックに伝えてやりたいのです」



(…………どういうこと?)



 殿下と目が合う。

 表情からみて、私と同じ疑問をお持ちのようだ。

 私の生存は確かにアイザックに伝えても良いと思うけれど、なぜ一刻も早くと急ぐ必要があるのか?



「……ご子息ならば良いでしょう。公爵が急ぎ戻られたいのなら承知しました。

 意見書についてはまた王宮ででも話をしましょう」


「あっ、あのっ」挟むべき場じゃないとわかっていて、私は口を挟んでしまった。


「公爵閣下。実は私、今、少しだけ、殿下のお仕事をお手伝いしておりまして……意見書についてもそうだったのですが……。

 殿下は決して仕事に私情をまぜて嫌がらせをなさるような方ではありません」


「ん? ああ、それを言いに出てきたのか君は……。

 すまない。今日の私は感情的になりすぎていた。次は冷静に殿下にお話をすると誓うよ」


「はい。あの、公爵閣下。このような形ですけれど、お会いできてとても嬉しかったです」


「私もだ…………追って手紙を出す。どうか息災でいてくれ、マージェリー」



 ──────あわただしくフォールズ公爵は帰っていき、お見送りをした私は、ロデリック殿下に深く頭を下げた。



「……殿下。勝手なことをして申し訳ございません」


「いや、こちらも、タイミングを見て君を呼ぼうと思っていた」


「そうなのですか?」


「君がフォールズ公爵と親戚であることは知っていた。意見書のことはどうであれ、君の生存を公表した後に味方になってくれそうな人間を抱き込んでおいたほうが良いと思ったんだ。

 しかし、どうも公爵の反応が気になるな。それにご子息のこと……」


「そういえば……アイザックは元気なのでしょうか。幼い頃とても仲良くしていたので」


「……そうなのか?」


「はい、とても。もし会えるなら嬉しいですけど……でも、醜聞のある私のことは普通に嫌がるかもですね。公爵閣下はああいう風に言ってくださいましたが、普通の貴族なら敬遠するところですもの」



 眉を寄せて、ため息をつく殿下。



「敬遠しないならば夫候補として検討したいということか?」


「いえ!? なぜそんなお話になるのです!?

 単に昔の、懐かしいお友達として会いたいだけです……。

 それにきっとアイザックも婚約者が決まっているでしょうし迷惑をかけるつもりは」


「いや、いない。

 それどころか」


「……?」


「フォールズ公爵の一人息子のアイザックの姿を見た者はこの数年いない。

 社交界にもデビューしていないし、婚約の話などもない。大病で邸から出られないのではと噂されているが」


「そ……そうなのですか?」



 私は子どもの頃のアイザックの姿を思い浮かべた。

 一つ上の彼はとっても優しくて、繊細で、天使みたいに綺麗な子だった。


 そういえば、私が事件に巻き込まれる一年ほど前から、妙に具合が悪そうな様子を見せていた。



(病気なのかしら……大丈夫かしら?)



 ────だけど、こののち間もなく、私は真相を公爵から知らされることになる。



     ***


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