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神の子

私は「完璧」と言われ続けた。

知能も、身体能力も、魔力も、全て常人の数倍。

まだ子供であった私だったが、村のみんなは誰も勝てず、誰も私に戦いを挑もうとはしなかった。


村の人たちも私のことをずっと褒めてくれた。

今思えば違和感だらけだった。

何をしても褒めてくる。

花瓶を割っても、喧嘩をしても、何をしても。

小さい私はそのことに何の疑問も持たず幸せに暮らしていた。


村の人たちから信頼されていた父は私にとって神のような存在だった。

母がいない私を一生懸命育てていると信じていた。


だが私の見てきた景色は一瞬にして崩れることになる。


ある日、村にとある国の軍が攻めてきた。

父は『村の近くにある炭鉱を国の物にしようと攻めてきた』と村のみんなに言った。

私もそれを信じた。


父はその後私に、『兵士を殺せ』と言って一本の刀を渡してきた。

唐突だった。

私はその言葉に驚きはしたが、何の反論も疑問も持たず私は刀を握り、戦場に赴いた。



軍勢の前に私は立った。

前にいる兵士たちが何やら警告をしているようだが何を言っているのかすら分からない。


そして私は誤った。

こちらに近づいてくる複数人の兵士の中の一人を斬ったのだ。

他の兵士は驚きと恐怖に包まれた目と顔をしている。


その時の私の顔は物凄かったのだろう。

他の兵士は終始、化け物を見るかのような眼をしながら私に斬られた。


初めて人を斬った時の感触は今でも覚えている。


まるで自分が自分じゃないかのようだった。

返り血が、刀を握る手のまめに沁みる。

頭がどんどん痛くなり、まともに物も考えられない。

ただ、視界はとても鮮明だった。

まるで「目の前の人たちを殺せ!!」とばかりに頭の痛みがひどくなっていく一方。



私はその時、人ではない何かになってしまった。


私が奥にいる軍勢のもとへ向かおうとしたその時、私の足首に何かが掴んでくる感触が走る。

ふと足元を見ると、先ほど流れに身を任せて斬りつけた兵士が私の足首を掴んでいた。


「君、だけは…まともでなくては…。君は。洗、脳…さ……れ………」


その兵士は何かを言い終わる前に血を吐き出して死んだ。


いや、死んだのではない、私が殺したのだ。

私の中のもう一人の私が。



『もう、分かってるんだろ?お前は「父親であるはずの存在」に洗脳されていることぐらい』

頭の中に謎の声が響く。


『ほら、お前には立派な刃物がある。さぁ!!!父に教わった剣術で父を斬るんだ!」


うるさい。


何もかもが嫌になりそうだ。

知りたくもない事実を知ってしまった。

一生、その事実に気づかなかった方が幸せだったのかもしれない。


彼女は瞼をつむって無我夢中になって走った。

その時、何千もの何かを斬った感覚はあるが、それが何かは分からない。

ただ、彼女が再び瞼を開けた時、周りに大勢の兵士の死体が残っていたことは憶えている。



「…もういい」

彼女は村の方を振り向き、歩き出した。

彼女の背後には、大量の屍だけが残った。






私は村に帰った。

やっぱり、村のみんなは私を褒めてくる。

ただその時だけは、みんなの姿がどす黒い何かに見えた。


幻覚…?


いや違う。これが、真実の姿だったのだ。



私は家に帰るや否やすぐに父を押し倒し、彼の首元に刀を押しあてた。

彼は驚きも焦りもせず、冷静な眼で私を見つめる。


「やっと気づいたか、我が子よ」

父はうっすらと笑みを浮かべる。


「全部、嘘なんでしょ…?村のみんなも、私も」

涙を浮かべながら私はそう質問をする。


村のみんなも父も役を演じているに過ぎなかった。

私もその役者の一人にすぎないのだ。


「そうだ。みなアルカディア教の信者たちさ」

父がそう告げた瞬間、目の前にいる父もどす黒い何かに変貌した。


「お前は教祖様が長年求めていた『神の子』なのさ。私も村のみんなもお前を立派な『神の子』として育て上げるための道具に過ぎないんだよ!!アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

父は狂ったように高笑いを上げる。



……

私の見てきた記憶が全て壊れた。

幸せそうに暮らしている近所の家族も、道端で楽しそうに遊ぶ子供たちも、酒場でどんちゃん騒ぎをしている大人たちも、全てが虚構、役者だった。


『ほら言ったろう。お前は洗脳されていたんだ。今まで築いてきた物は全て虚構で空虚で空っぽさ。さぁ!!!!その孤独を目の前のどす黒い何かにぶつけるんだ!!!斬れ!!!!』

頭の中の何かが私を煽るように叫ぶ。


私は道具だった。父と私の間に愛はなく、そこにあったのは、父の命じられた使命に対するどす黒い決意のみ。

「……………」

私は父に押し当てていた刀をしまった。

こんな男を殺しても、私の得にすらならない。

今までの父に対する愛情は一瞬にして冷めた。


私が絶望に暮れていると、いきなり両目に激痛が走る。

「うっ!グウッ…」

私は父から離れ、目を押さえて悶える。


そして気が付いた時には暗闇の中だった。

眼を開けていると脳は認識しているのに、何も見えない。

光も何もかもが奪われた。


「君が真実に気付いた時の保険として教祖様がかけた呪いさ!!。一生、君の眼は光を取り戻すことはないだろうね!さらばだ、娘だった物よ!永遠と続く暗闇に幸あれ!」

そう言った後、父だった人物の気配は消えた。


「……ああ…ああ…………」

虚無感で何も言えない。

今までは暖かく感じた家の空気も、氷点下のように寒く感じる。

見える景色は全て暗闇と化し、信じられるのは自分の触感のみ。


私は全てを失ったのだ。

とてもとても長い時間をかけて。





『お前には何もない。あるのは虚しく寂しい心と、心の足しにもならない実力と戦闘技術だけ』

「うるさい」

『お前に何がある?家族の愛も、人との友情や信頼も、全て無になったんだ』

「うるさい」

『お前はあの戦場で何をした?あの戦場でどんな光景を見た?思い出せ、自分の本来の姿を」

「…私は、ただの、」

『ただの?』

「ただの…人殺し…」

『あぁ、そうだ!お前は何千人もの兵士を殺した。今は呪いのせいで見えないだろうが、お前の服は返り血塗れさ』

「…私に…生きてる資格なんて……」

私はぎこちない動きで刀を拾い、自身の首元に刃を突きつけた。

『……無駄さ。お前は私の目的を達成するのに必要不可欠だ。だから自殺を図ろうとも絶対に死なせない』

「……貴方は、何者…?」

『…俺はお前であり、お前でなく、そして世界であり、世界でないもの。悪であり正義。虚であり実。そんな存在さ」

「意味が、分からない…」

「分からなくて正解だ。分からないように説明したからな。それで、これからどうする?このまま故郷に残って孤独に過ごすつもりか?」


「………………何をしたらいいのかもわからない……」

「…フン…お前に廃人になってもらっちゃ困るからな。暗闇に惑う神の子に一つだけいい灯火を与えてやる」

「……灯火…?」

「王都へ行け。そして道中では積極的に人助けをするんだ。それが私の与えられる最初の灯火だ』



「王、都……」

当時の私はその言葉を信じるしかなかった。

王都に行けば何かが起きる。

それだけを信じ、私は服と刀以外の持ち物を全て捨てて旅立った。






そして現在。

「お腹空いたなぁ…」

私の隣にいる黒い小さなドラゴンはそう呟く。


「アカデミアに着いたら、おいしいものがいっぱい食べれますから、我慢ですよ」

「あと何分ぐらいなんだよ……」

ドラゴンはグゥーとお腹を鳴らす。

(…あいつの言ってた灯火って………いや、…まさかね…)


私の第二の生はまだ幕を開けたばかりなのだった。

この話から後書きで何かしら一言コメントみたいなの書いてみようと思います。

というか僕が書きたいんで書きます。

エリスちゃんの過去について語ってるこの話なんですが、この話を書くだけでなんと3週間ほどかかってしまいました…。

意図的にシリアスにしようと思うと、僕の文章作成能力じゃ結構難しいっぽいんですよね…。

後、Twitterでのアンケートの結果で、エリスちゃんの出生が「邪教の教祖の娘」って感じになってしまって、それを反映させるのに時間がかかったという…。

主人公たちよりも先に過去が描かれる仲間キャラって前代未聞ですね…今思えば…。

まぁ、以上、今話のスカイア一言コメントでした~

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