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城塞王都と白と黒

俺の視界の先には粉々に砕けた玄関と、魔法初心者の俺でもわかるほど滅茶苦茶複雑なバリアを展開する紅髪の女が映った。

僅か2~3秒の出来事だった。


強大な魔法をいとも簡単に片手で放つグレイアと、それを一瞬にして展開したバリアで軽々防ぐスレイナという魔女。


(俺はこんな奴と話してたのか…)

グレイアが引きこもりだと聞いて少し舐めていたが、それは絶対にやめておこう。

そう俺は心に誓うのだった。



「チッ、防いだか」

グレイアは舌打ちをする。


「いきなり何撃ってんのよ!!!多分今の、破壊魔法でしょ!!??」

スレイナは焦った様子でそう叫ぶ。


彼女が焦るのも無理はない。

破壊魔法は触れたものを内側から粉々に破壊するという魔法なのだそう。禁忌の魔法の一つでもあり、熟達者の魔壁バリアや結界などでしか防げないという、それこそ殺意の塊のような魔法だ。

さっきグレイアにそんなことを教えてもらった。



「アンタならこれぐらいの威力は防げると思ったからね」

「いやいや、それにしてもやり過ぎよ!!!!」

スレイナはグレイアに詰め寄る。


「今までのアンタにやられた分の一撃ってことでね」

てへぺろっといった感じでグレイアはとぼける。

「…私が防がなかったら、最悪森全体が破壊されかけるってのに…」

「まぁ終わったことは終わったこと、でしょ?アンタの口癖じゃない」

グレイアはスッキリとした面持ちでスレイナにそう言う。

それはそれはたいそうスッキリとした顔だったのは憶えてる。


「はぁ、…そうだけどぉ…。というか、後ろのそのドラゴンは?見たところボロボロのベビー黒竜って感じ?」

スレイナはグレイアの後ろにいる包帯でぐるぐる巻きの俺を指さした。


「あぁ、紹介してなかったわね。ついさっき私の隷獣になったネレスよ」


「よろしく~」

俺は浮きながら、小さな手を振る。


「…喋るの?そのドラゴン?」

スレイナは先ほどのグレイアと同じような驚いた顔をする。


「そうだぜ。…アンタがグレイアの言ってた『紅蓮の魔女スレイナ』ってやつなんだろ?」

「え、ええ、その通りだけど…」

スレイナも戸惑いを隠せてない様子だった。

そんなにこの世界では人語を話すドラゴンは珍しいのだろうか。



「一応、透明化と絶魔を使って、王都ではネレスの姿を隠す形にしておくわ。これならいいでしょう?」

グレイアはため息混じりにそう説明する。

「…絶対にバレないでよ?バレたらアンタたちを連れてきた私の責任になりかねないんだから」

「伝説の魔女で『魔ノ十二傑』の一人であるアンタを無闇やたらに手放して、クビにするようなことをするわけないでしょ」


「それは時によると思うのだけれどもね…。私はこれからすぐに戦場に向かわないといけないから、王都近くにテレポートした後は頼んだわよ」

スレイナは早くも疲れた表情をして、そう話す。



「そういえば、私の偽名とその偽名での履歴とかは?」


「偽名は『レンティ・ヴァーディウス』。紅蓮の魔女の弟子ってことにしてあるわ。それ以外の情報はほとんど伝えてないから相手の質問とかには適当につじつまが合うように合わせておいて」


「年齢とかは?」

「さぁ?22歳とでも言っておけばいいんじゃない?」

好きにやればと言わんばかりの顔で、そう言うスレイナ。

「結構、適当なんだな…アンタ」

「たったの一日でこれだけ手配した方が凄いと思うけど?」

「不正とかがバレたら、それこそクビになるんじゃないのか?」

この世界の魔女はこんなに適当な感じなのだろうか。


「まぁ王都の魔法使いは実力主義みたいなところあるからね…。身元より実力が重要視されるというか…適当っていうか…。上流階級でない限り、出生にこだわる人は少ないわ」

グレイアが補足程度にそう説明する。


「ふーん、なるほどな」

俺は納得したように首を縦に振る。


「で、準備は大丈夫?そろそろ時間が押してるから、早くテレポートさせたいのだけど…」

その発言を聞いたグレイアは、ネレスの方を振り返る。

俺はグレイアの眼を見て、頷いた。


「えぇ、準備オッケーよ」


グレイアの言葉を聞いたスレイナは何かを唱え始める。

そして白い光が辺りを包んだ瞬間、三人はとある洞窟の入り口にいた。



「おお…!すげぇ…」


俺は崖からの景色を見て、感嘆の声を上げる。

その視界には一面に広がる草原と、その中央に堂々とそびえ立つ機械都市があった。


「ここが城塞王都アレイドルよ」

スレイナが指さす機械都市の名は『城塞王都アレイドル』。


世界で最も技術が発展した都市で、中世と近代の両方の雰囲気を持つ都市。

『王都』と言う名称で呼ばれることが多く、全世界を統べる『王』が住んでいる。

ケレディック・アカデミアもこの王都に存在し、世界中の貴族や有力な若者が集まっている。

グレイアとスレイナも遥か昔にこの王都に住み、ケレディック・アカデミアにて魔法を学んでいた過去があるらしい。


「懐かしいわね…この景色」

グレイアは俺の隣に立ってそう言った。


俺はチラッとグレイアの顔を見る。

その顔はとても晴れ晴れしく、そして複雑な表情をしていた。



「グレイア、貴方ならこの先の道は分かるでしょ。後は任せたわよ」

スレイナはそう言うと、先ほど唱えたテレポートの呪文を再び唱え始めた。


「いい知らせ、待ってるわよ?」

グレイアは少しだけを手を振って見送る。

「それぐらい、分かってるって♪」

スレイナはそう言った後、魔法によって姿を消した。



「……じゃあ、新しい世界に行きましょうか、相棒?」

少しの静寂の後、グレイアはそう言って歩き出した。


(どことなく、嬉しそうだな…)

俺は少し笑いながらもグレイアの後ろをついていく。


「なんで笑ってるのよ」

「ん?…いや、何でもない」

そうして、白銀の魔女と漆黒の竜は一歩踏み出すのであった。



山の山頂から顔を出す朝日は、まるで二人を歓迎するかのように照らしていた。



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