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運命の出会いと呪との再邂逅

「……はぁ…」

スレイナが家に訪れてから半日以上が経った。


『どうかしたの?』『すごい深いため息なんかついちゃって』

窓の外から小鳥たちの声が聞こえる。

「外に出ることになったのよ…」

私がそう言うと、小鳥たちは窓越しでも分かるレベルに目を丸くし驚いた。

『有り得ない…あのヒキニート魔女が…!?』

「誰がヒキニートだって?」

『ヒィッ!!!?』

威嚇に怯えた小鳥は飛び上がって後ずさった。

「やっぱあの女は信用し過ぎない方がいいわね…」

白銀の髪を纏った頭を掻いて、私はそう反省する。


『てことで明日からよろしく♪』

機嫌の良さそうにそう喋りながら去っていく紅い髪の女の姿が脳裏に浮かぶ。

「外の世界に出るなんて何十年ぶりなの…?人との会話の仕方を忘れてしまったってのに…」

気軽に了承するんじゃなかった…と後悔するグレイア。

「まさか久しぶりの外出をこんな簡単に決めてしまうなんて…」

ベッドに横たわりながら、ボソッと呟く。

(明日になったら魔法使いの種たちに教鞭をとるのかぁ…)

別に緊張しているわけではないが体が震え、寒気がしてくる。

そもそもどんな授業をすればいいのかもわからない。

例え、世紀の大魔法使いであるグレイアでも他人に魔法を教えたことは数えるほどしかない。

しかもそのどれもがいい結果を生まずに終わっている。

「せめて、私が『白隠の魔女』だということさえバレなければいいのだけれど…」

この時の彼女はまだ知らなかった。

その心配はただの杞憂だということに。




「……………z…z……zzz」

グレイアはいつの間にか眠りに落ちた。

いつものんびり暮らしている彼女にとって今日起こった出来事はテンポが早すぎたのだろう。

ぐっすりと深い眠りについている。

その綺麗な寝顔は笑顔とも怒りの顔とも取れる表情をしていた。


彼女が眠りに落ちてから数十分が経った頃だろうか。

『助…、て……』

突如として脳内に直接声が届いた。

その声は夢の世界にいるグレイアを一瞬にして現実へ引き戻す。

「ハァッ…!…ハァ…!今の声は…」

完全に睡眠状態時の脳内に直接声が届くのは初めてだった。

一部聞き取れなかったところもあるが声が何を言っていたのかははっきりとわかる。

「『助けて』……?」



グレイアは部屋を飛び出した。

『え…?ちょっとどこに行くの…!?』『待ってよ~!!』

グレイアが階段を駆け下りる音で目を覚ました小鳥たちはそうさえずる。


(何かが私を呼んでる…!!!!)

自分でもその「何か」は分からない。

ただ、『その「何か」を助けないと大変なことになる』ということだけは何故か分かる。

別に正義感とかいうわけでもない。

普段の自分であれば、無視をしていたかもしれない。

もしかしたら脳に響く声にすら気づいていなかったかもしれない。

ただ、今日は何かが違う。

朝に起きたスレイナとのいざこざ、いつもなら許可すらしないであろう准教授への就任、いつもなら気づきもしなかったであろう声。

(何か、大きなものが、動き出しているような…)

世界最強の魔女である自分でも感じたことのない違和感。

その違和感は何故か、自分の背中を押しているようにも思える。


謎の衝動と使命感に駆られ、グレイアは走る。

声のする方向へ、本能的に。

森の奥へと進むごとにその声は大きく、はっきりと聞こえてくる。

頭の中で鐘をガンガン鳴らされているかのような頭痛もしてきた。

今にも頭が勝ち割れそうだ。

でも、彼女は走ることを止めない。


次第に、頭に鳴り響く声は止み、彼女はこの森でもっとも開けた草原に出た。

そこには目を疑う光景が広がっている。

血だらけの小さなドラゴンと、それに剣を振り下ろさんとする騎士の姿だ。

漆黒の鎧に全身を包んだその騎士はドラゴンと戦っていたのだろう。

剣の先には血がべったりと着いている。

グレイアは目を見開いた。

瞬く間に彼女の水色の眼は白銀へと変わる。

そして彼女は手を前に出してこう叫ぶ。

魔錠(ロック)!!!!」

騎士が振り下ろした剣は動きを止め、騎士は剣を振った勢いによってバランスを崩した。

「瞬間転移…!」

そう言うと、グレイアの足元にある石とドラゴンとが入れ替わる。

グレイアはそのドラゴンを守る形で前に出て騎士を睨んだ。


「何故、そのドラゴンを守る」

騎士は剣を下ろして、グレイアに問いかけてきた。

「命を守るのに理由もクソもないでしょう…!」

「そのドラゴンの色を見よ。黒いだろう。黒いドラゴンは不幸と破滅の象徴だ」

グレイアはドラゴンに視線を向ける。

血にまみれてはいるが、確かに黒い。黒竜の子どもだろうか。

グレイアは視線を騎士の方へと向け、喋る。

「…生憎だけど、私は目が悪いの。真夜中の暗闇と血だらけなのも相まって、黒色かどうかは分からないわ」

「…貴様は魔法使いだろう。先ほどの動きからしても熟練の魔女と見た。そんな魔女が視力上昇を使えないわけがない」

「何のことを言ってるのかさっぱりね。本人が見えないと言っているのだからそこは大人しく引き下がったらどう?」

グレイアがそう言うと、騎士は何かを考えるかのように腕を組んだ。

「……ふむ…長時間身体強化魔法を使って走ったというのに息切れの一つもない。挙句の果てに物体を直接指定した魔錠(ロック)の魔法、そして禁止級の魔法である瞬間転移を規模は小さいがあの一瞬で完璧に使いこなす……。これほどの実力を持つ者がいるとはな…。貴様、名は何と言う」

「アンタなんかに名乗る名前なんてないわ」

「……では、『名無しの魔女』とでも呼ぼう」

「ご勝手に」

「名無しの魔女よ。今回だけは見逃してやろう。ただ次会ったときは貴様の後ろにいるドラゴンの命はないものと思え。抵抗するのであれば貴様の命もだ…」

騎士はそう言うと黒い霧に身を包み、姿を消した。



「…はぁ…はぁ……、あの騎士…人間じゃない…!」

グレイアはぐったりと姿勢を崩した。


それもそのはず、あの騎士から魔力とは違った、謎のおぞましい力を感じたからだ。

「確か、この感覚…呪力ってやつだったはず…」

魔王の幹部の一人が使ってきた力、それが呪力だった。

魔法で相殺もできず、防ぐこともかなわない。

それこそ使い手の『呪う力』が強ければ強いほど威力も範囲も効果も強まる、面倒な力だ。

「また厄介な敵に遭遇したわね…」

グレイアがそう言うと、後ろからせき込む声が聞こえてくる。

「ケホッ…ケホッ!」

「!!!!!」

先ほどまで息をしていなかった小さなドラゴンが血を吐きながら咳をしている。

「生きてた…!早く安全な場所へ連れて行かないと…!」

グレイアの両腕で抱えれるほど小さなドラゴン。

全身が血だらけ傷だらけだというのに、心臓の鼓動はとても強かった。


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