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混ざると月白

一方そのころ、ネレス&エリス。


「はぁ~、食った食ったぁ~」

私の正面からそんな声が聞こえる。

目が見えない私でも分かる。気配で分かる。今私の目の前には、お腹を膨らました小さな竜と綺麗に食べつくされた料理の皿の山がある。

というか料理の量とお腹の膨らみが全くもって比例してないような気がする…。



ネレスさんと出会ってから丁度2時間ぐらいが過ぎた。

学園に着いてから今に至るまで、「お腹が空いた」と言っていたネレスさんのために学食を頼んでは自分の部屋に運ぶことの繰り返し。

学食の人たちも大慌て且つ大驚きで料理を作ってくれていた。

ぶっちゃけ傍から見たら召使いみたいなことしていたけども、ペットに餌を与えてるような感覚で結構面白かった。


「ありがとうなぁ、エリス。この借りは絶対返すから」

そう言いつつ、つまようじを咥えているネレスさん。

「別に大丈夫ですよ。そんな、借りを返すだなんて」

個人的には人語を話す竜に会えただけでも十分なのに、その飼い主であり『白』の名を冠する魔女に出会えるかもという嬉しさ極まりない状況なのだ。借りなんて±0だし、私の方が借りがあるまでである。


「それよりもネレスさんの飼い主であるグレイアさんは、どんな人なんですか?」

道中の会話でネレスさんとグレイアさんの関係や二人についてそれとなく教えてもらったのだが、それだけの情報でまだ見ぬ『グレイア・ウェンリース』という人物を推し量るのは褒められたものじゃない。是非ともネレスさんから見た彼女の情報を知らなければ。

「ゆうて俗っぽい奴だよ。会って1日ぐらいしか経ってない俺でも分かる。あいつは自分から好んで揉め事に係わりに行くような奴じゃない。それに他者から持ち上げられることをあまり良しとしてないんじゃないかな」


「…つまり…面倒くさがりってことですかね?」

「まぁ一言で表すとすればそうなんだろうが、俺も俺でそういう気質は持ち合わせてるからな、人のことは言えないよ。それに多分あいつはやるときはやる奴さ。そうじゃなきゃ魔ノ十二傑って奴には選ばれないだろ」

(…魔ノ十二傑というのは一人一人が個性的と聞いたことはあるが本当なんだ……)

そんなことを思っていると部屋に近づく一つの気配を感じた。


(…)

話を聞くモードから集中モードへと切り替えよう。

遠くから感じるその気配はただの魔法使いと同じような気配だった。ただ、それが近づくに連れて小さな違和感が高まっていく。

(…気配を抑圧してる…?いや違う、…なんか違う)

何かが引っかかる。

ただ一つ確実に言えることは、その気配は私の部屋に向かってきていることだった。


しばらくして、私は断言できるようになった。

それがグレイア・ウェンリースの気配だということを。


私がそんなこと考えている間にも、その気配は近づいてくる。

「来客が来そうなので私はその相手をしますね」

私の部屋の近くにその気配が来たぐらいの時に、私はネレスさんにそう言って立ち上がった。

「気配察知ってそんなに範囲広いんだな」

ネレスさんのその発言を小耳にしながら、私は扉へと歩く。


コンコン。

綺麗なそのノック音の後、私は不自然さが出ないように少し間を開けてから扉を開けた。

「どなたでしょうか?」


「…アンタがエリスってのであってる?」

「はい、そうです。グレイア・ウェンリースさんでよろしいですか?」

私は9割9分9厘の確信を持ってそう尋ねる。

「そ、そうだけど、黒いドラゴンの居場所を知ってる?」

初対面であるはずなのに自身の名前を呼んでくる少女に、一瞬の動揺を見せる目の前の女性。

その声や表情、動きから分かる。

(凄い…隙が無い…。私のことを疑ってて警戒してるというのもあるけど、私が少しでも不審な動きを見せたら一瞬で消し飛ばされそう…)

期待以上の強者に心を躍らせる。が、その前にやるべきことがある。


「ネレスさんでしたら私の後ろにいますよ。ほら」

少し横に動いてグレイアさんに私の部屋の中を見せたその時、彼女は顔を強張らせ動きを止めた。

それもそのはず、私の部屋を視界に入れた際に真っ先に彼女の目の中に飛び込んでくるのは、ネレスさんとネレスさんによって生み出された皿の山なのだから。


「…ネレス?」

「よっ、グレイア。ここの料理うまいな。こんなに食っちまったよ」

軽い挨拶と同時にこの学校の料理が美味いことを伝えるネレスさん。

「…この料理の分のお金は貴方が出してくれたの?」

グレイアさんは目の前の光景が信じられないというような顔をこちらに向けて、確認を取ってきた。

「そうですよ、ネレスさんがお腹を空かしていらっしゃったので」

私のその返事を聞いた瞬間、彼女の顔から一気に表情が消え、怒りの表情に変わっていくのが背後からでも感じれた。


「腹が減ってるなら先に言いなさいよ…!会って数時間の人に何乞食してるんだお前!!」

腕を模った魔力の塊でネレスさんを掴みながら、彼女は激怒する。その怒りのあまり口調も荒くなってしまってる…。

「痛い痛い痛い痛い!!!!待ってくれって!話ぐらいは聞けよ!!」

すごい痛そう。それぐらいしか感想が思いつかない。

「言語道断!」

グレイアさんの剣幕と怒りの魔力から、今にもネレスさんを握り潰しそうな状況だ。


「ちょっと…グレイアさん…!ネレスさんをここに連れてきたのも大量の料理をあげたのも私の勝手ですから!だからそれについては許してあげてください!」

激高するグレイアさんの左腕を全力で引っ張りながら、どうにかなだめようとする。

(灰闢!)

私のその心の叫びに呼応してクローゼットから一本の刀が飛び出し、グレイアさんの怒りの魔力の腕を断ち斬った。


その場には騒動によって散らかった食器と静寂が残る。


「……はぁ……本当に申し訳ないわね。エリスだっけ?この馬鹿が迷惑をかけたのに加えて、私たちの問題に巻き込んじゃって…」

何とか最悪の事態は回避した。少し冷静さを取り戻したグレイアさんは、申し訳ないと言わんばかりの表情でそう言い、ネレスさんのもとへと歩み寄った。

そして足元にいる黒竜のほっぺをつねり、質問攻めにする準備に入っていた。


「で?ネレスくぅん?一体どういう経緯で今に至るのかしら?」

その時の顔が『目の笑っていない笑顔』だったのは言うまでもないですね。

ぶっちゃけ私が事の顛末を話した方がいいとは思ったけど、今の二人の間に割って入る勇気は起きず…。

事の顛末を説明するネレスさんとそれをしかめっ面で聞くグレイアさん、そして時折挟まるグレイアさんの事実確認に対して返答をする私、そんな光景がしばらく続いた。



「へぇ、路地裏で男どもに絡まれていたところに偶然出くわしたと…」

「そうだぜ。あの時のエリスの佇まいと言ったら、周りに花が舞ってるみたい綺麗でかっこよかったんだからな」

…どうやらネレスさんから見たら、私の周りに花びらが舞っているように見えていたらしい。他人からの自分の評価を聞くのは小恥ずかしいですし、少し過大評価な気もしますけど…。

「それで透明化も絶魔も使っていたというのに『気配』で存在がバレた、と」

まるで不気味な伝説や物語を聞くかのようにグレイアさんはその話を聞いていた。今現在ネレスさんの話を要約している際も信じられないという顔をしている。


「エリス、もしかして貴方って私たちの顔とか表情とかも『気配』で判別できるの?」

「そうですね。今のグレイアさんの『何かを考えこんでる顔』も判別できます。顔のパーツの位置がどう動いたか、瞳がどう動いたかの気配から大体の表情は予測できますので」

目が見えなくなってから次第に身に着け、今や自然に使うことのできるこの能力。色以外の大体の視覚に関する情報は全てこれで代替してきた。この能力のおかげで、私は目が見えないというハンデをさほど実感することなく生きてこれたのだ。


「そうなのね…。魔法を優に超えるその感知能力を常時…、すごい人物に出会ったわね…」

ボソッとそんなことを呟かれた。

その時のグレイアさんが若干引き気味の顔をしていたのが不服だったが、ネレスさんのご主人さんのお墨付きを得られるだけよかった。


「それよりもネレス、アンタ私からの連絡があるまでこの学園に入るなって言わなかったかしら?」

「何も知らない町で、周りのやつらにも認知されない状態で午前から午後の間ずっと暇つぶしできるわけないだろ。飼育放棄は俺の元居た世界じゃ許されない行為だぞ」

グレイアさんに掴まれていた身体を痛そうに押さえながら冷静に反論するネレスさん。


「なら私に連絡しなさいよ。無断で来たらケイガス先生の魔力探知に侵入者として検知されるのは当たり前でしょ。念話教えたじゃない、それ使いなさいよ」

「あ、そういえばそんなのあったな」

ネレスさんのその発言を聞いて再び臨戦状態となり今にも飛び掛かりそうなグレイアさんを、羽交い絞めにして必死に止める。


「はぁ…全く…。どこまでもマイペースね、アンタは…」

今まで私が聞いてきたいろんな人物のため息の中でもトップクラスのため息を吐いて、グレイアさんはそう話す。

「ペットは飼い主に似るっていうだろ?」

「アンタの中ではもう自分はペットっていう位置付けでいいんだ…?」

…ネレスさんから『俺とグレイアは今日昨日の真夜中に出会ったばかり』と聞かされていたけどこの二人、長年の相棒感がするのはなぜだろうか…。



「まぁ、それよりも私はこの後も授業があるからここで一旦のお別れになるんだけど、後で放課後私の部屋に来て。今後の話をするから。あ、もちろんエリスも来てね?」

「え?私もですか…?」

突然の指名に驚きを隠せない。

「当たり前でしょ。私の正体とネレスの存在を知ってる人物を逃がすわけにはいかないし。それに数は多いに越したことはないでしょ?」

一体何のための『数は多いに越したことはない』なのか全く知らないが、魔ノ十二傑に目をつけられたのなら行くしかない。それにこの二人のそばにいられるなら、世界トップクラスの実力を持つグレイアさんに自分の実力を見せつけるチャンスもあるだろう。


「?話があるんだったらそれこそ念話とかで情報共有してくれよ。わざわざグレイアの部屋に集まる必要があるのか?」

「仲間が増えるからね」

去り際に笑顔でそう返答するグレイアさん。

そしてその後、「じゃあね」というように手を振って去っていった。


「マイペースなのはどっちなんだか…」

グレイアさんが出て行った扉を見ながらそう呟くネレスさん。

「お二人とも仲がよさそうでよかったです」

「どこがだよ…!」というネレスさんの反論を無視しつつ、二人の揉め事によって少しだけ散らかった部屋を片付ける。



(白い魔女と黒い竜、そして灰の私………。考えすぎだといいけど…)

『ハハッ…考えすぎぐらいが丁度いいんじゃないか?』

(久しぶりに現れたと思ったらまた意味深なことを…)

『そのまんまの意味さ。まぁ安心しな。駒は着々と前に進んでる。…それも最高に近しい手で』

(……)

私は自分の中の何者かの笑い声を無視しながら、片付けに集中した。



ふと私がネレスさんの方をチラッと見たとき、ネレスさんは何もない部屋の空間を見つめて何かに耽っていた。そしてその時の顔が、先ほどまでののんびりとした顔とは程遠い真剣な顔つきだったのが、記憶に鮮明に残っている。

ドーモ。読者の皆=サン。「かつてはやる気もモチベも高かった小説への意欲が薄れてしまった人間」スレイヤーです。


てことで、ごめんなさい。申し訳もございません。首を刎ねてそこらに晒してくれてもいい程のことをしでかしたskyaです。…名乗るのもおこがましい程です。

今回の話なんですが、エリスとグレイアの初邂逅ですね。

白銀(白隠)の魔女と、孤高の不視刀が出会ったわけですが、実は最初はバトらせる気満々でした。

でもこの二人って、どっちかというと戦闘狂寄りの存在ではありますが「戦闘は最終手段」と割り切っている者同士でもあるんです。それゆえに作者の解釈的に違うなと思いまして、最初は言葉で牽制し合い、少しいざこざがあって一応は信頼し合うというような形にしました。

個人的には、エリスのちゃんとした戦闘シーンを早く見せたい気もあるのですが、それはまた今度ということで。

ちなみにタイトルの「混ざれば月白(げっぱくorつきしろ)」ってのは白寄りの明るい灰色で調べてピンときた色である「月白」って色を使いました。いわゆる手抜きです。

これで後書きを締めさせてもらいます。爆発四散!

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