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呪いの後継

最終的にガレル君についての話は『私が彼の師匠として、残禍の眼への抑止・阻害・警戒をしつつ、ガレル君を支援しながら経過観察する』ということでまとまった。

まぁ、この眼の症状を完治するにはそれこそ忍耐勝負、時間との勝負だってことは先生も妹も知っているはずなため、そこまで議論することは無いとは予想していたけども。


そんなことよりも今の私の意識は、ケイガス先生に詰め寄るアレイアに向いていた。

「で。何故皇女である私にそんな隠し事をしたのですか?ちゃんと説明してもらいますよ」

「え~とそれはだねぇ…」

ケイガス先生がしょっちゅう私に対して目線で救援を要請してきたが、私は知らんふりをする。

それこそ今のアレイアは結構怒っているようだったからだ。


たとえどんなに可愛い妹でもアレイアは次期国王なのだ。

王女としての責任から逃げた私の代わりにいずれ国をまとめる存在として育てられ、その期待に応えるため・人々からの信頼を得るために勉強をしている。そんな彼女にとって、『自分の姉がこの学園に来ることを伝えてもらえなかった』というのは相当ショックであっただろう。

多分、私がアレイアと同じ状況だったとしても拗ねるだろう。子ども扱いをされてる感覚に近しいのだと思う。


ちなみに私がこんな考え事をしている間、アレイアは身を乗り出し机の上に上半身がほぼ乗った状態でケイガス先生に迫っていた。

そこまでするなら机の横に回り込んで詰めればいいのに…、先生を詰めることにしか意識が向いていない証拠だ。

ケイガス先生のHelpの目も次第に強まっている。

ただ、どうすればプンプン状態のアレイアを止めることができるのだろうか。


(もういっそ、『君に伝えるということを失念していた』って素直に言えばいいじゃないですか)

そんなことをケイガス先生に念話で伝える。

(…それしか方法はないか……)

ケイガス先生も諦めがついたのか、覚悟の顔をしてアレイアに対してそのことを謝った。

もちろん一回目の謝罪でアレイアのプンプン状態が解除されるわけが無かったのだが、ケイガス先生の必死の連続謝罪で何とかことは収まった。


「次からはちゃんとしてくださいね。少なくとも貴方は王都政府に並ぶ勢力の長なんですから」

…アレイアの言う通り、発足してから今に至るまでこの学園は言わば王都政府の監視役兼抑止力となっていた。そんなところのトップとしてケイガス先生がしっかりしないといけないのは尚更なのだが、今回のアレイアへの連絡ミスは仕方ない気がする。

だって元教え子であり魔ノ十二傑の『紅』を担当するスレイナが臨時で准教授として持ってきそうと言ったら、明らかにもう一人の教え子である魔ノ十二傑の『白』担当・最強の魔女『グレイア・ウェンリース』だ。

ケイガス先生にはそんなこと当たり前のように予測できよう。

先生や学園側が慌ただしくなるのも頷ける。


そう言った面で忙しかったはずなら、アレイアに連絡するってことが頭に浮かばないのも仕方がない。それにもしかしたらケイガス先生は『アレイアが私の妹』ということを知らなかったのかもしれない。

そんなことを本来は渦中にいるはずの私は考えるのだった。


「まぁまぁアレイア、貴方の気持ちも分かるけど大目に見てあげて。先生も多分忙しくて手が回らなかったんでしょ」

ケイガス先生は「そうそう!」言わんばかりの表情をこちらに向ける。

「本当に申し訳ない、アレイア君。次世代の王に向かってこんな無礼をとってしまったこと、ここに深く詫びるよ」

先生の誠意のこもった土下座によっていったんのこの騒動は治まった。




「それでは失礼しました」

アレイアはいつも通りの無表情に近い笑顔で学園長室を出て行った。


「…いや~、君の妹君には申し訳ないことをしたね。グレイア君」

「いいんですよ。…私としては妹の怒り顔が見られたので♪」

「ハハハ、君らしい罪の許し方だね」

笑い声をあげるケイガス先生の声には疲れの感情が隠れていた。

「…先生。一度長期休暇をとってみたらどうですか?先生の魔力そのものが疲労困憊してるみたいですけど」

「魔ノ十二傑はそんなことも分かるのかい…?心を読むに等しい能力だね…」

確かに、相手の魔力の状態を見ることができるというのは簡易的な読心の魔法と言っても差し支えない能力なのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。ケイガス先生に話題を逸らされるところだった。


「…君の言う通り、傍から見たら僕は疲れているのかもしれないね。この仕事に就き、全ての行動に『責任』が付き纏うようになってから尚更ね」

先生はこの部屋を見回した後、私の顔をしっかりと見てからこう続けた。

「でも、それでも僕は王都の二大勢力の長なんだ。疲れなんて見せられない。人間っていうのは自分が疲れていると自覚した時、その時に真に疲れてしまうんだよ」

そう言っているときの先生は何かを悟ったような眼でどこかを見ていた。

「だから僕は疲れてなんていないさ。世界中の魔術学生全員が安心して魔術にいそしむことができるようになるまでね」

自分への言い聞かせなのだろうか、昔から変わらないケイガス先生の芯の強さが垣間見えた気がする。

「そうですか、なら首を突っ込まないのも教え子としての仕事ですね」

私がそう言って小さくうなづくと、ケイガス先生も呼応して僅かにうなづいた。



「それで、グレイア君。君はまだ僕に報告すべきことがあるんじゃないかい?」

うっ。先手を取られた…。私がまだこの部屋に居る理由について切り出そうとしていたところに…。

たぶん…謎の竜『ネレス』についてだ。

やっぱりあの竜、私の命令を無視して勝手にアカデミアに入って来てるか…。久々の『説教モード』の目を先生がしていることからもよくわかる。


まぁ。このアカデミアにネレスが入ってしまった時点でこうなることは予測できた。なぜならこの学園はケイガス先生の身体の一部と言っても差し支えないほど、先生の魔力探知が張り巡らされているのだから。

このアカデミア一帯の魔力探知なら私でもスレイナでもアレイアでも余裕だが、それを常日頃どんな時も平然と維持しているというのだから、この温厚そうな皮を被った教師は恐ろしい。


「あの竜。幼体のドラゴンとは違うようだが何者なんだい。その竜の魂そのものが人間のように見えるしね」

アカデミアに入り込んだ異物に対しては物凄い洞察力と感知力を見せるよなぁ、この人は…。まさか中身が人間ということまで当てられるって…。

「それはですね…」

結局は話す羽目になるのか……。私はそんなことを思いながら、ネレスに会ってから今に至るまでの経緯を話した。もちろんネレスが転生者ということは一旦伏せておいて。


「なるほど、何故か小さな竜になってしまった青年と…。それを保護する形でここまで連れてきたのかい?」

「はい。彼は魔法という概念が存在しない土地で生まれたらしく魔法についての知識も全くなく、竜の姿になるまで魔法を使ったことすらなかったそうなんです。それに彼と初めて会ったのは、彼が謎の黒騎士に襲われていた時でした。彼をそのような存在から守るためにもここに連れてくるしかなかったんですよ」


「謎の黒騎士…?…もしかしてその黒騎士は呪いの力を使っていたのではないかい?」

先生は何か思い出したかのような顔でそう聞いてきた。

「そうですけど…何か思い当たる節があるんですか?」

私がそう聞き返すと先生は「少し待ってくれ」と言って、部屋の右の方の本棚へと歩み寄り一冊の本を取り出した。


「確かこの本の中にあったのだよ。『黒騎士の伝説』というのがね」

先生はペラペラと分厚い本をめくっている。

「そんなシンプルなタイトルなんですね…」

「別名『瘴気の伝説』と言ってね。大昔、それこそまだ世界が王都によって統一されていなかった時代、瘴気の黒騎士という呪いの力を自由自在に操る騎士がいたんだ。まだ騎士になる前、彼は一人の女性を愛していた。しかしその女性が戦争によって死んでしまい、彼は深い悲しみと憎悪に飲まれた。復讐を決意した彼は呪いの力に目覚め、黒色の鎧を身に纏い、戦争を行っている全ての国を滅ぼそうとした」


「彼の力はとても強大だったらしく数多の国を滅ぼしていた。しかしこのまま残った国々がそう簡単にやられるわけはなく、彼らは互いに一時休戦をし黒騎士に対する連合軍を作ったんだ。『呪い』という魔の力を圧倒的に凌駕する力を持っていたとしても、数の力には敵わない。自分の憎んだ『戦争』の対象になり、彼はその戦争と共に散っていったのさ」

先生はそう言い終えると一旦本を閉じ、先ほどまで座っていた椅子に戻った。

「その伝説は分かったんですけど、何でその黒騎士が現在にいるんですか?世界がまだ統一されていないって、少なくとも5000年以上前だと思いますけど」

「その話にはまだ続きがあるのだよ。戦争で死んでしまった黒騎士だったが彼の怨み・憎しみ・哀しみは潰えず、その怨念は鎧に乗り移り、彼の力や負の意思そのものが鎧に宿った。そしてその鎧は後の時代に『復讐を心の底から決意した者の目の前に現れる』、そんな形で語り継がれてきたらしいんだ」


「今現在も瘴気の黒騎士がいる。それ即ち復讐に取り憑かれた憐れな鎧の後継者ってことさ」

…復讐の鎧。なるほど。何故あの黒騎士がネレスを殺そうとしてたのかがやっとわかった。それはその鎧を着ている存在が竜に対して復讐心を持っているのだろう。それも黒色の竜に対しての深い復讐心を。

「先生、さっきの本を貰うことってできる?」

「ん?あぁ、もちろんさ。本の内容はすべてこの部屋が記憶してくれるからね。一冊の本を他人に渡そうと復元は容易だよ」

先生はそう言いながら先ほどの本をもう一度取り出した。

そしてそれを私に向かって差し出す。


「君の話してくれた、ネレス君、だったかな?彼がこのアカデミアにいることは許可しよう。魔法生物の保護もこの学園はしているからね。ただし、このことは当事者や君が信頼できる人物以外には絶対に口外しないように。そして絶対に彼の姿を人前で見せないこと。それらを絶対に守ってくれ」

「分かってます。心の底から」

私はそう言ってその本を受け取る。


「先生、ネレスがどこにいるか分かりますか?」

私のその質問の後、先生はしばらく目を瞑りこう答えた。

「…エリス・ウィン・ハイラド。彼女のそばにネレス君の魔力を感じるね。…それに二人ともエリス君の部屋にいるようだね」

…一瞬頭が?で埋め尽くされる。ネレスがここに来ているのは想定内だが、それ以前にそばにいるエリスってのは誰だ?そして何でそんなとこにいる?

??????


今以上にネレスに渡したあの首飾りに魔力探知の機能を付けておけば良かったと後悔することは無いだろう。

「彼のところに向かうのかい?ならエリス君の部屋の位置を教えてあげよう」

「いや、大丈夫です。このアカデミア全体の魔力探知なら私もできますから、それに急がないといけないかもしれないんで」

ありとあらゆる可能性を考えた結果、急いでネレスのところに向かうということが脳内会議で決まった。



「じゃあこれで…」

私が学園長室を立ち去ろうと退室の言葉を言おうとした時、ケイガス先生は思い出したかのようにこう質問した。


「あっ、そういえば、先代の学園長は元気かい?」


私はそれを聞いた瞬間、黙った。

その質問は私の中の奥深くに封印した、ある記憶を呼び覚ますからだ。

歯を噛み締め、拳を強く握る。その記憶をその景色を呼び起こしたくないがために、条件反射で私は現実から感覚を切り離す。

思い出したくないことに触れられてしまったのだ、まだ誰にも教えたくないというのに。

…でも仕方がない、だってケイガス先生は何も知らないのだから。

私の人生の最大の汚点、そして私が白銀から白隠になったあの事件を。


「…失礼します」

その質問を聞かなかったことにして私は学園長室を出た。一刻も早くその質問から、その記憶から逃れるために。

分かってる、自分でもその一連の行動が明らかにおかしいことぐらい。でもこの話は、まだ他人には話したくない。まだ私の中で決別できることじゃない。

たとえ相手が恩師ケイガス・アルガーテであろうとも。


そしてその記憶を頭の中から振り払おうと、ネレスを探すことに一生懸命に意識を向けたのだった。



この度は、投稿がこんなにも遅れてしまい申し訳ございませんでした。

実はこの話の下書きは12月中盤には完成していたのですが、リアルでのいろんな都合が重なってしまい今に至るまで投稿することを忘れていました。

もしこの後書きを見てくれた読者の方は、私が小説投稿を2週間以上していない場合、Twitterで「小説まだ?」という催促をしてくれると幸いです。

重ね重ね、投稿が遅れたことを謝罪いたします。申し訳ございませんでした。


では、今話の内容について触れていきましょう。今回は『呪い』そしてそれから発せられる『瘴気』についてです。

この物語上での『呪い』というのは『人間の負の感情が極端化したエネルギー体』、『呪力』というのは『呪いを形にしたもの』、『瘴気』というのは『呪いの力を持つ者のみが扱うことのできる、生きとし生ける物に害を及ぼす微小な呪力の塊』。

そして例の黒騎士との邂逅時の話を見ていただければわかると思いますが、呪力はというのはごく一般の魔力では全く歯が立ちません。あのグレイアであっても呪力に対しては数回トラウマがあるほどです。

そんな強大な『呪いの力』ですが、それを得るためには強大な負の感情が必要なのは皆さんもお分かりでしょう。

さてその感情は『呪いの力』を得るための代償か、それとも『呪いの力』は神が悲惨な状況のその人物に対しての神の慈悲なのか。

どちらにせよ、『呪い』に目覚めた人物は『悲しき復讐者』へと堕ちてしまうのは嘆くべきことでしょう。どんなに強大な力を手に入れたとしても、彼らは負の感情を媒介にその力を得たのですから。

そう、まるで『呪いの力』が彼らを復讐へと駆り立てているかのように。


以上で、今話の後書き、終わらせていただきます。

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