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異次元の白銀、素直じゃない水色

「魔術兵士」

これはこの学園の戦闘部門に所属するすべての生徒が目指すものであり、現時点で最も過酷な職業の一つともされている。

ただ魔術兵士として戦場に赴けるのはごくわずかで、それこそ今いる戦闘部門の生徒の1割ぐらいしかなることはできないとされる職業だ。

才能や実力ではなく、戦場で生き残り、確実に敵を仕留めるという能力が重要視され、死と隣り合わせな「魔術兵士」。

それを経験した人物が教卓に立っていた。



僕はその時、ゼセスを見た。

なぜなら彼も戦闘部門の生徒の一人だからだ。


…その時の彼の眼は光り輝き、憧れの表情をしていた。

少年のような眼をする彼を初めて見た僕は、困惑の表情を隠せない。


「…アンタ、元魔術兵士なのか?」

僕がゼセスに対して困惑の表情を浮かべる中、ウィリスは質問を続ける。

「そうだけどそれがどうかしたの?」

レンティ先生はケロッとした顔でその質問を肯定した。

『彼女は元魔術兵士』というのは僕の考察でしかなかったが、今の返答でそれが事実へと置き換わったのだ。


ぶっちゃけ元魔術兵士の教授はこの学園には山のようにいる。

ただ、皆が驚いているのは『レンティ先生が女』だという点だった。

女性の魔術兵士なんて誰も聞いたことがない。


本来、女性の魔術師は性別による魔力回路の作りの違いから攻撃魔法には向いておらず、錬金術や補助・回復魔法に秀でている傾向がある。

戦闘部門の女子生徒たちもだんだんとその事実に気づいていく。そして中途半端に攻撃魔法を使って魔力を消耗するよりかは、補助魔法や回復魔法で味方をサポートした方が効率がいい、そんなことに気づいていくんだ。

だから戦闘部門の女子生徒は『魔術兵士』ではなく『魔術助士』や『魔術癒士』などの職を選び、戦場へと赴く。


もちろんそれに当てはならない魔女の人も存在するし、レンティ先生がその例外のうちの一人だと言われたらそれで終わりなのだが…。

まぁ、その事実を知る僕からしたらレンティ先生は異例中の異例、誇張した表現を使うとしたら別次元の存在だった。


「戦場ってどんな感じなんですか!!!?」

ゼセスが手を挙げると同時にそんな質問をした。少し離れた席にいる僕でも『うるさい』と感じるほどの声で。

「……その質問にはノーコメント。そんなに気になるなら後で個人的に聞きに来てくれる?」

レンティ先生は少しの沈黙と思考の後、そう付け加えた。

その時、一瞬だけ先生の顔に複雑な表情が浮かんだのを僕は見逃さなかった。

「ちぇ」

ゼセスはそんな感じのことを言ってそうな顔をしていた。


「それじゃあさっきの話の続きを始めるわよ」

先生のその一言で全員が我に返った。

そういえば今は講義の途中で、先生が魔術兵士だったかどうかなんて話の脱線でしかない。

皆「ハッ!」というような顔をする。もちろん僕も余計な考察をするのは一旦やめにすることにした。



レンティ先生はみんなが講義を聞く体勢になったのを確認した後、話し始めた

「次は紅蓮魔法を使うのに必要な要素の一つ、『魔力量』について話していくのだけども、ぶっちゃけあの魔法に大量の魔力は必要ないわ。というかどんな魔法にも『魔力がめちゃくちゃ使わないと放てない』だったり、『人間離れの魔力量が必要』ってのはないの」

教室は再び『?』に包まれた。

「皆の顔からしてすぐには理解できてないみたいだけど、ようするに魔法に必要なのは魔力量じゃなくて『魔力密度』なの」

今度は全員の『?』が『??』になった。


「ん~…何て言えばいいのやら…。…スレイナの言葉を借りるとすれば、『魔』ってのは入れ物なの。みんなが『魔力』と呼ぶものはその『魔』の中にある『力』のことを指す。『魔』一つの中に含まれる『力』の密度、それが『魔力密度』なのよ」

…何となく理解ができたような気がする。

「『魔力が多い』ってことは学術的に言えば『魔力密度が高い』、つまり『魔一つに含まれる力の量が多い』ってことなの。そして先天的に『魔力が多い人』ってのは『魔力密度が常に高くなる』っていう遺伝子を持ってる人たちが主なわけ」

段々とちゃんとした講義らしくなってきた気がする。気のせいか、レンティ先生の目も真面目だ。


「そしてここからが本題。なぜ紅蓮魔法の習得に必要と言われている『大量の魔力』は実際は必要ないのか、って話だけど、答えは単純。実は魔力密度ってのは簡単に上げることができるの」


「環境、気分、体調、いろいろな周りの要素に魔力密度は影響される。それらのどれかが少しでも自分に合っていた場合、魔力密度は上がる。それらがうまくかみ合わさり最高の状態になった時、魔力密度は跳ね上がる。具体的な最大倍率は私も知らないけど、少なく見積もっても普段の魔力量の1.5倍は行くでしょうね。多分貴方たちも経験があると思うけど、体調がいいと魔法の質もよかったりするでしょ?それと同じ」

淡々と高次元の内容を語っていく先生、僕はおろか周りの生徒たちは文句も質問もせずただその講義を真剣に聞き入っていた。


「ただ、周りの環境だけではその人の中にある全ての『魔力』を増やすことはできないの。なぜなら全ての『魔力』が全部同じ向きに働くわけじゃないからね。最高の環境だけじゃ最大出力は出せない。そこでさっき教えた『強い意志』が重要になってくるってわけ」


「『強い意志』ってのは魔力とその魔力の持ち主とをシンクロさせることができる。つまり、『身体全体の魔の中に含まれる力の向き』を一方向に集中させることもできる。全ての『魔力』が同じ方向に向く、簡単に言えば『全ての魔力』が同じ一つの目標に向かって働く。そうなると魔力同士が互いに鼓舞し合って、互いに息を合わせて、互いに共鳴し合って、本人の魔力量が跳ね上がるってわけ」

…何となく理解していた内容がまたもや『?』になりかけた。…言うなれば、『二人三脚』と同じ感じだろうか?

「だから紅蓮魔法にもほぼすべての魔法にも、世間で言われてるほどの『大量の魔力』ってのは必要ないってわけ」

先生はそう言い終わった後、小さなため息をついて講義を終えた。


パチパチパチパチ…。

次第に教室内に自然と拍手が起きる。それも丁寧でうるさくのない、しっかりとした称賛の拍手が。

僕も無意識のその拍手の渦に飲み込まれた。

それぐらい先生の講義は素晴らしかった。


「別に拍手されるレベルの内容じゃないって…。それに多少なりとも分かりずらかったところもあると思うしね。ただの私のオタク特有の早口講釈みたいなものだし」

早口講釈にしてはとてもためになって分かり易い内容だった。

謙遜する彼女も少し恥ずかしがりながらその拍手を受け入れた。


「そういえば一応付け足しておくけど、人によって自分に最適な環境ってのは変わってくるの。もしかしたら寒い地域が最適な人もいるし、熱いところが最適な人もいる。まぁ今教えたような最大倍率ってのはそう簡単には出せないってこと。そこだけは注意ね」

レンティ先生はそんなことを付け足した後、小さなため息をついた。


「…へぇ~…」

僕はポカーンとした顔をしていた。

目の前で起きたこと全ての情報に脳が蹂躙されていたからだ。

ただ一言添えるとすれば、異次元、それしかなかった。


目の前の白銀の髪をした女性が自分の知り得ない未知の存在に見えてくる。

ふとスレイナ先生が昨日言っていたことを思い出した。

『私の代わりに来る准教授はね、私よりもずっと凄いし、強いし、そして何より世界の一歩先を行く存在なの。だから心配しない方がいいわ、いや、期待した方がいい。あ、ちなみに今私があいつを褒めたってことをあいつに伝えないでね?』

そう聞いた時の僕はその話をただのスレイナ先生の卑下だったり、その准教授に対する謙譲だったり、自身が推薦する准教授の評判を良くするためのちょっとした株上げの誉め言葉だと思っていた。しかし改めてレンティ先生の実力を鑑みてみると、本当にあの言葉はスレイナ先生の心からの評価だったのだろう。


(凄い、その一言で片づけられるレベルじゃないな…)

そんなことを思うのだった。



そして、まるでタイミングを計ったかのように鐘がなった。

「あれ?思ったよりも1コマの授業って早いのね?」

それは貴方が講義に集中してたからですよ…。誰もがそう思った。

「まぁ、これで今日は終わりって感じでいいかな?質問がある人は私が暇そうな時であればいつでも聞いていいからね」

レンティ先生がそう言い終わった後、生徒たちは次の講義へ向かうため席を発っていく。

一部の生徒はレンティ先生の方へ向かって行った。多分新任の先生と雑談だったり、先ほどの『戦場』についての話でもする気なのだろう。


…かくいう僕もある一つの事柄についてレンティ先生に聞こうとしていた。

そう、終始講義中にうっすらとレンティ先生の瞳に映っていた謎の模様についてだ。

誰もそのことについて触れすらせず、最前列の生徒もそのことに気が付いていない様子だった。

昔から、一度気になったことは明らかにするまで気が済まない性格である僕は、速やかに荷物を片付ける。

そしてレンティ先生にそのことを質問するため、急いで席を発とうとするとふと人影が足元に見えた。


…そう、ゼセスだ。

「よぉ相棒!調子はどうだい」

「たったの1時間で調子が悪くなる方が珍しいんじゃないか?」

「それもそうだな!ハハ!」

(相変わらず暑苦しい奴だな…)


そんなことを思っていると後ろの方に別の人影が見えた。

それはなんとウィリスだった。

「お前が学年首席のガレルか」

「…何でウィリスがいるんだ?ゼセス、お前と知り合いだっけ?」

「いや、こっちに来る時にすれ違ったからさ、成り行きで」

何で成り行きで問題児を連れて来るんだよ…。それにウィリスも何でついてきたんだよ…。

「…それで?ゼセスはともかくウィリスはどうしてこっちに来たんだ?俺になんか用でも?」

「あぁ少しな」

「ん?用件は?」

俺がそう話した時、ゼセスは気持ち悪いぐらいのにやけ顔だった。


ウィリスは少しの間目を逸らした後、こっちを向いてこう口を開いた。

「お前と親友になりたい」

…?

「……へ?」



今話でのグレイアの講義の内容、ちょっと分かりづらいと思う方がいるかもしれません。

ただ、ご安心してください。ぶっちゃけ作者である僕も完全な定義は出来てないんです。

説明が少しアバウトよりな感じなのもそのせいですね。

もし「もうちょっと詳しい設定を知りたいな」って人は感想のとこで質問してください。


で、今話の人間関係に触れますと、ウィリス君とガレル君の邂逅、そして『親友になって欲しい』発言ですね。

まぁ皆さんお察しの通りウィリス君は友達がいないです。女性からはもちろん、今までの横暴な振る舞いを良く思う人なんているわけないですし、ましてや自分から友達になろうという生徒はいるわけがない。

そしてガレル君は最低限の友人・人間関係こそありますが、『親友』と呼べる人物はゼセス君以外に居ません。

…これが何を意味するか分かりますね?

そう、文中で『すれ違ったから成り行きで』とかほざいてるゼセス君ですが、実は『面白そうな奴』であるウィリス君と、『真面目で俺の頼みをなんやかんや受け入れてくれる親友兼幼馴染兼学年首席』のガレル君をくっつけるため、わざとウィリス君のそばをすれ違ったのです。

ゼセス君が『気持ち悪いぐらいのにやけ顔』をしていたのは、その目論見が滅茶苦茶うまくいったからですね。


それで、ここら辺から人間関係の相関図が複雑になってくる頃合いでして、僕の眼が白目だけになりそうなのですが、誠心誠意、最後まで全力で書かせてもらいます。

グレイア「誤字はするかもだけどね~」

以上、今話の一言コメントでした~。

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