黒猫ツバキと銅鏡ちゃん・後編
アマテラスは、自己評価満点の選りすぐった噺(お題は『銅鏡』)をコンデッサたちへ語ってきかせた。
♢アマテラスがした、銅鏡にまつわる小噺・その1
「お前に、面白いことわざを教えてやろう」
「なんだ、なんだ?」
「『男は銅鏡、女は眼鏡』」
「……何ソレ?」
「『男は度胸、女は愛嬌』と言うだろ?」
「確かに、言うな」
「『男はドキョウ、女はアイキョウ』……『男はドーキョウ、女はEYE・鏡』……『男はドウキョウ、女は眼・鏡』……『男は銅鏡、女は眼鏡』」
「ハッハッハ、面白い! 《眼鏡美人》爆誕だ!」
「アッハッハッハ!」
♢
「意味不明ですね」とコンデッサ。
「意味不明にゃ」とツバキ。
「意味不明よな?」と咲蘭。
「べ、別の噺も聞くのじゃ!」とアマテラス。
♢アマテラスがした、銅鏡にまつわる小噺・その2
「ここが、鏡屋さんか~」
「いらっしゃいませ。当店は、あらゆる種類の鏡を取り揃えておりますよ」
「いろんな鏡があるわね」
「どれになさいますか?」
「ど~しよう」
「承りました! 銅鏡を、ご所望なのですね」
「え! なんで、銅鏡?」
「今、お客様は『銅の仕様』と……」
♢
「すっごい、ツマラナイですね」とコンデッサ。
「すっごく、ツマラナイにゃ」とツバキ。
「すっごく、ツマラナかろう?」と咲蘭。
「なんでじゃ! 面白かろう!? ユーモア満点であろう?」とアマテラス。
♢アマテラスがした、銅鏡にまつわる小噺・その3
銅鏡A「オレ、出雲出身」
銅鏡B「ボクも」
銅鏡C「ワシも」
銅鏡A・B・C「「「自分ら、みんな同郷だ~」」」
銅鏡A・B・C「「「銅鏡だけに!!!」」」
♢
「イマイチですね」とコンデッサ。
「イマイチにゃ」とツバキ。
「イマイチじゃろう?」と咲蘭。
「ど~して、誰も笑ってくれんのじゃ……辛い……」とアマテラス。
♢アマテラスがした、銅鏡にまつわる小噺・その4
「銅鏡様……アナタ様こそ、銅製品の中の銅製品。銅剣、銅矛、銅鐸など問題にもなりません。アナタ様こそ、銅製品の誉れ、銅製品の模範、銅製品の代表。まさに、銅製品の鑑!」
「そりゃ、ワレは銅鏡。銅製の鏡じゃからな。『鑑な鏡』とは、この事よ!」
「おじょ~ず!」
♢
「…………」とコンデッサ。
「…………」とツバキ。
「…………」と咲蘭。
「何故、みんな黙る」とアマテラス。
♢アマテラスがした、銅鏡にまつわる小噺・その5
「鏡よ、鏡よ、鏡さん~。この世界で1番美しいのは、誰かしら?」
「それは、隣町のモンロちゃんです」
「ど~して、私じゃないの!?」
「お妃様は美人ですが、黒髪です。それに対して、モンロちゃんは見事な金髪」
「なんで、金髪を贔屓にするの?」
「私は、銅鏡。青銅製ですので」
♢
「〝ブロンド〟と〝ブロンズ〟……かなり、苦しいこじつけですね」とコンデッサ。
「苦しいニャン」とツバキ。
「苦しかろう?」と咲蘭。
「苦しくはない!」とアマテラス。
♢アマテラスがした、銅鏡にまつわる小噺・その6
「早口言葉をします! 銅鏡特許許可局、銅鏡特許許可局、銅鏡特許許可局」
♢
「アマテラス様。もう、諦めたら……」とコンデッサ。
「諦めるニャン」とツバキ。
「諦めるのが良いと、吾も思う」と咲蘭。
虚ろな目で、喋り続けるアマテラス。
「銅鏡特許許可局、銅鏡特許許可局、銅鏡特許許可局、東京銅鏡共同協会読経会、ナムナムナムナム………」
「……アマテラス様は、お疲れなのです」
「少し、休むにゃん」
「アマテラス様を追い詰めすぎたようじゃ。スマン」
「ぐす……」
「アマちゃん様、泣かにゃいで」
♢
鏡の中のアマテラスが怒る。
「だいたい何じゃ、お主ら! さっきから否定してばかり……そんなに言うなら、自分で噺を作ってみせよ!」
「分かりました。それなら私が」
コンデッサが、頼もしく請け負った。
ツバキが、声援を送る。
「ご主人様、頑張ってニャン」
「任せておけ」
♢コンデッサがする、銅鏡にまつわる小噺・その1
「あ~。泉の中に、銅貨を落としてしまった…………わ! 泉の中から、女神様が出てきたぞ」
「貴方が落としたのは、こちらの金貨ですか? それとも、こちらの銀貨ですか?」
「いいえ、女神様。私が落としたのは、銅貨です」
「正直な男よ。嘘を吐かなかったご褒美に、金貨と銀貨と銅貨を貴方にあげましょう」
「ありがとうございます」
…………
「あ~。泉の中に、銅鏡を落としてしまった…………わ! また、泉の中から女神様が出てきたぞ」
「貴方が落としたのは、こちらの金の鏡ですか? それとも、こちらの銀の鏡ですか?」
「いいえ、女神様。私が落としたのは、銅の鏡です」
「正直な男よ。嘘を吐かなかったご褒美に、金の鏡と銀の鏡と銅の鏡を貴方にあげましょう」
「ありがとうございます」
…………
「あ~。泉の中に、銅の玉を落としてしまった…………わ! またまた、泉の中から女神様が出てきたぞ」
「貴方が落としたのは、こちらの金の玉ですか? それとも、こちらの銀の玉ですか?」
「いいえ、女神様。私が落としたのは、銅の玉です」
「正直な男よ。嘘を吐かなかったご褒美に、銀の玉と銅の玉を貴方にあげましょう」
「え? 金の玉は呉れないのですか?」
「だって、貴方は男性。既に、立派な金玉を2つほど持っているはず……」
♢
「お下品にゃ」とツバキ。
「お下品じゃのぅ」と咲蘭。
「お下品すぎる」とアマテラス。
「お下品で申し訳ない……」
コンデッサは反省した。
ツバキが、右前足を挙げる。
「今度は、アタシが噺をするニャ!」
♢ツバキがする、銅鏡にまつわる小噺
「銅鏡展覧会を観に行こうぜ」
「いいよ。いつにする?」
「どう? 今日」
♢
「よしよし、ツバキは賢いな」とコンデッサ。
「猫さんは、頭が良いのぅ」と咲蘭。
「ツバキ、頑張ったな」とアマテラス。
「にゃんか、あんまり褒められている気がしないニャ……」
ブツブツ呟く、ツバキ。
さすがに、噺の数が多くなってきた。
コンデッサが、いい加減しびれを切らしたらしい。
「では、私が取っておきの噺を披露しましょう」
「期待するかのぉ」と咲蘭。
「期待しておるぞ」とアマテラス。
「期待するニャ」とツバキ。
「期待してください」
コンデッサが、軽く胸を叩く。自信ありげだ
♢コンデッサがする、銅鏡にまつわる小噺・その2
「この噺のタイトルは、『銅鏡ちゃん』と言います」
「ニャン? 銅鏡ちゃん?」
ツバキが首を傾げる。
「ある女神についての噺なのですよ。その女神は、太陽神でした」
「ほぉ。女神にして太陽神とは、妾と一緒じゃな」
関心を示す、高天原の最高神。
「……ええ。その女神はある時、弟神と喧嘩をし、ふて腐れて自室に籠もってしまったのです。太陽神が隠れた影響で、世界は暗闇の中に閉じ込められてしまいました」
「それは、けしからんな。己が役目を放棄するとは、その女神は太陽神失格じゃ!」
「まったく以て、アマテラス様が仰るとおりです」
「妾は責任感が強いので、そんな愚かな振る舞い、何があろうと絶対にせんのじゃが……」
「にゅ?」
「…………弱った神々は、一計を案じました。女神の自室の前に神々が大集合し、宴会を催したのです。部屋の外から聞こえてくるドンチャン騒ぎを不思議に思った女神は、ドア越しに尋ねました。『皆の者。何を、はしゃいでおるのじゃ?』と」
「どこかで耳にしたエピソードのような……」
咲蘭が考え込む。
コンデッサは、語り続ける。
「すると1柱の神が『とてもキレイで可愛い女神が、やって来たのですよ。それで、歓迎会を開いているのです』と答えました。太陽の女神は、興奮して口走ります。『なんじゃと!? とってもキレイで可愛い女神? 妾も是非、見たい』」
「なんか、お馬鹿な女神じゃな」
アマテラスが、上から目線で述べる。……この太陽神、3歩進んだら過去を忘れてしまう鳥頭なのか?
「好奇心を抑えきれなくなった太陽の女神はソッと扉を開き、外の様子を覗いてみました。待ち構えていた神様が、女神の視線のすぐ先に銅鏡を掲げます。鏡面には、太陽の女神の顔が映し出されました。太陽の女神は叫びます。『な、なんとキレイで、可愛い女神なのじゃ!? これほど美しく優雅で気品溢れる女神に会ったのは、妾は生まれて初めてじゃ!!!』」
「…………」と咲蘭。
「……ニャ~」とツバキ。
「鏡に映っている神様の顔をもっとよく見ようと、太陽の女神は扉を開き、身を乗り出します。すかさず、神々は寄ってたかって太陽の女神を外へ引きずり出しました。その結果、世界に太陽の光は戻ったのです。めでたし、めでたし」
アマテラスが頭をフリフリ、大げさに嘆く。
「つまり、その太陽の女神は、鏡に映った自分の顔を見て『キレイ』だの『可愛い』だの『美しい』だのと口にした訳じゃ。加えて『優雅』で『気品溢れる』などと……とんだナルシストじゃの。同じ太陽神として、恥ずかしい限りじゃ。謙虚な妾を、少しは見習って欲しいのう」
「…………」と咲蘭。
「……ニャム」とツバキ。
「この出来事以後、神々の世界では『自惚れが過ぎて周りが呆れ返っているのに、その事にちっとも気付かないダメな子』を『銅鏡ちゃん』と呼ぶようになったそうです」
「ふむ……『銅鏡ちゃん』とは、そのダメな女神にピッタリなあだ名じゃな。まぁ、才気煥発で頭脳明晰な妾が『銅鏡ちゃん』なんぞと言われることは、永遠に無いじゃろうが……」
「…………」と咲蘭。
「……ニャン」とツバキ。
《小説の神様》である咲蘭が、コンデッサを褒める。
「面白い噺であった。吾は満足した。特に、どこぞの女神のお馬鹿っぷりは秀逸の極み」
「ありがとうございます。私も、そう思います」
「神であっても、自戒を忘れてはいかんのぅ」
「全くです」
咲蘭がアマテラスを横目で眺めていると――
「そうじゃ! 咲蘭殿。また1つ、妾は愉快な小噺を思い付いたぞ」
「いや、もう結構であるぞ。銅鏡ちゃん」
「なんでじゃ!? あと、妾はアマテラスじゃ! 八咫鏡が御神体とは言え、〝銅鏡ちゃん〟では無い。間違えては、いかんぞ」
♢
数日後。
コンデッサの家には、まだ銅鏡が置いてある。そして、中からは2柱の女神の声が……。
「もうそろそろ、出ていってはくれんかのぅ? アマテラス様」
「つれないことを言うな、咲蘭殿。もうしばらく、滞在させてくれ。高天原へ戻ったら、機織りをギッコンバッコンせねばならぬのでな」
「すれば、良いのに」
「ここには、咲蘭殿が書いた小説がいっぱいある。有り難や~。全部読み終えるまでは、帰らんぞ」
「勘弁してくれ~」
「アマちゃん様。銅鏡の中に居ついちゃったにょネ」
「さすが、引きこもりのプロだな」
コンデッサとツバキが顔を見合わせる一方、アマテラスと咲蘭の言い合いは終わらない。
「あとチョットの間、同居させてくれ。咲蘭殿」
「銅鏡ちゃんに、同居されてしまうとは……。これからは『銅鏡ちゃん』では無く『同居ちゃん』と呼ぶことにしよう」
「妾の名前は、アマテラスじゃぞ?」
2柱の女神の同棲は、高木神がアマテラスを連れ戻しに来るまで続いた。
♢
「ふ~む、アマテラス様と咲蘭様。銅製の鏡の中で、同棲……。2柱の神様は、どちらも女性。同性の同棲、その動勢は……ど~せ、ど~せ、百合が咲くらん……」
「ご主人様。もう小噺は考えなくて良いニャ」
ツバキ「終わりにゃ。ご覧くださり、ありがとさんなのニャ。あと、おまけがあるニャン」