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最弱魔術師のパペッティア  作者: がじゅまる
サブストーリー10
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ワンの秘密

 王都の住宅街の片隅に、小さな家があった。

 家の主人は、若いパペッティアの男だ。

 彼は、ここ数日ずっと地下室の作業机に齧り付いて何かを作っていた。


 男は無我夢中で、手を動かしている。

 彼が手に握っているのは、縫い針だ。

 何か、縫い物でもしているのだろうか?


 彼が作業に集中していると突然、彼の背後から何者かが声を掛けた。


「随分と熱中しているわねぇ」

「!?」


 その声は、しゃがれた女性の声だった。

 男は驚いて、背後を振り返る!


 すると、そこには一人の老婆が立っていた。

 いつの間に、部屋に入って来たのだろう。

 その老婆は、よく野菜や果物を分けてくれる近所の方だ。

 男は老婆の姿を見て、安心して胸を撫で下ろした。


「びっくりしたぁ。驚かせないでくださいよ」

「あらあら、ごめんなさいね」


 老婆は謝りながら、果物が入ったバスケットを男に差し出した。

 そしてニコニコと、微笑みながら語りかける。


「あなた最近、仕事に熱中しすぎて、ちゃんと栄養を摂ってないでしょ?」

「え! あぁ……そうだったかなぁ……」


 男は頭を掻きながら、恐縮して老婆からバスケットを受け取った。

 すると老婆は、作業机の上に目をやる。

 直後、彼女は声を上げた!


「まあ! なんて可愛らしいんでしょう!」


 彼女の視線の先には、作りかけのネコのぬいぐるみの姿があった。

 老婆の言葉を聞いて、男は笑顔になる。


「良いでしょう? 彼は、僕が初めて作る魔具ですよ」

「あら、そうなの? やっぱり、パペッティアは手先が器用なのね」

「そんな事ないですよ」


 男は、未完成のぬいぐるみを抱き上げて眺めてみた。

 すると男は、おもむろに説明を始める。


「僕は族長に許可を頂いて、ある計画を立てているんです」

「計画?」

「はい。世界樹の魔力を世界中に拡散する計画です」

「へぇ……何でまた、折角集めた魔力を拡散しちゃうの?」


 男は、老婆の質問に対して丁寧に答える。


「世界樹はその性質上、膨大な魔力を一箇所に集めるんです」

「はいはい、そうよね」

「それによって我々は、莫大な恩恵を受けることができますが、同時にこれは多変危険なことなんです」


 男は先ほど老婆から貰ったバスケットを、自分の背後に隠して独り占めをする真似をした。

 そして、再び言葉を続ける。


「一箇所に全てを集めると言うことは、誰かがそれを独占する可能性があると言うこと。だから、いずれは集めたものを分散させるのが好ましいのですよ」

「ふーん。なるほどねぇ」


 男は説明しながら、再びぬいぐるみに視線を送った。

 そして、補足説明をする。


「彼は、その際の鍵となるんです」

「鍵?」

「はい、鍵です」

「また、何だか難しい話ね……」

「いいえ、そんな事はないですよ。世界樹が十分に熟した時に、作業手順の説明をしてくれるのが彼と言うだけです」

「ん~」


 老婆は、なんとなくの計画の理屈は理解した。

 しかし、あまりにスケールが大きすぎて実際の計画のイメージが湧かない。

 パペッティアのやる事は、いつも突飛すぎて理解が及ばないことが多いのだ。

 全く彼らの発想力には、驚かされてばかりだ。


「なんとなく、あなたのやろうとしている事は分かったわ。でも、あまりに大きな話すぎて……」

「ちょっと難しいですかね。そうだなぁ……」


 男は、老婆にも分かりやすい例えを考えようとした。

 すると、先ほど老婆に貰った果物のバスケットが目につく。

 男はこれだと思い、バスケットから一つの果物を取り出した。


「樹は栄養を吸収したら果実をつけますよね? 世界樹もやがて、魔力をたっぷりと含んだ果実を実らせるんです」

「ふむふむ」

「それを、世界中の人にお裾分けしようと言う考えなんですよ!」

「あらまぁ。素敵じゃない」


 老婆は何となく、イメージがついた様子だ。

 男は、我ながらよく説明出来たと思った。

 そして突然、閃いた。


「そうだ! この計画は”世界樹の果実”と言う名前にしよう!」


 男は咄嗟に考えた名前に感心して、うんうんと頷いていた。


 すると男は突然、天井を見つめて巨大な世界樹をイメージした。

 そして、そこへ至る長い旅路のことを考えながら語った。


「きっと世界樹が熟す頃には、頂上は遥か遠くですよ」

「……」

「それに、もしかしたら、トラブルで頂上直通のポータルが使えないかもしれない」


 男は再び、ぬいぐるみに視線を戻した。


「彼は、大切な鍵ですからね。何かあっても逃げ延びられるように、俊敏に作ります」


 言うと男は、笑みを浮かべて老婆を見た。


「それに長旅のお供だから、少しおしゃべりな奴の方が良いかもしれないな」

「それは良いわね」


 すると、突然!

 男は、ハッとした!

 そして慌てて、老婆に告げる。


「あっ! ちなみにこの話は、今はまだトップシークレットですからね!」

「あらあら、あなたは全く……お喋りがすぎるわよ」


 老婆は、無邪気に計画を語る男を微笑ましく見つめた。

 そして、静かに言った。


「いつか、世界樹の果実を食べたいわね」

「うーん。果実が実るほど樹が成長するには、ちょっと時間がかかりそうですね……」


 男は少し寂しそうに、しかし、何か雄大なものを見るようにして、どこか遠くを見つめていた。

 そして、呟いた。


「きっと、果実が実った光景はとても美しいと思いますよ……」


最後までお読み頂き、ありがとうございました!

お陰様で、無事に完結致しました!


もし面白いと思って頂けましたら、ブックマークや評価等を頂ければ幸いです。

どうぞ、よろしくお願い致します!


それではまた、ご縁がありましたら、次の世界でお会い致しましょう!

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