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第七十六話 世界樹の果実


「お前、さっき世界最強と言っていたな?」


 ロゼッタは、言いながらハウンドに歩み寄った。

 ハウンドは、必死に糸を引きちぎろうとして暴れていた。

 そんなハウンドに、ロゼッタは語り掛ける。


「わたしはかつて、最弱の魔術師と呼ばれていた……」


 ロゼッタは、不思議な感覚だった。

 目の前には、不死身で、世界を生かすも殺すも自由自在な最強の魔術師が地に伏している。

 そして、彼の命を握っているのは、かつて最弱と呼ばれた自分だ。

 皮肉なものだ。


 ロゼッタは、考えた。

 何が、自分と彼の命運を分けたのだろう……。

 しかし、その答えはすぐに分かった。


 彼女は、辺りを見渡した。

 すると、周囲には沢山の仲間の姿があった。

 それを見て、ロゼッタは続けた。


「わたし自身は、今も昔も変わらない……」


 彼女は言いかけて、力強くハウンドを見据えた!


「ただ、仲間の支えがあったおかげでここまで来れたのだ!」


 すると、ハウンドが叫んだ!


「殺してやる!! 貴様も、仲間も!! 私はそうやって、最強となったのだ!!」


 突然!

 ハウンドは、全身に膨大な魔力を集め始めた!

 彼の体からは、物凄いエネルギーを感じる!

 まさか、自分ごと全て吹き飛ばすつもりか!


 ロゼッタは、身構えた!

 すると、ワンが彼女に声を掛ける。


「こっちは準備完了だ! ロゼッタ! やっちまおうぜ!」

「うむ」


 ロゼッタは頷く。

 そして、世界樹に接続した魔力の糸に命令を送った!

 同時に、彼女は叫ぶ!


「世界樹の果実を発動する!!」


 すると、次の瞬間!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!


 ハウンドの体が突然、眩い光に包まれた!

 ロゼッタ達の攻撃が、間に合わなかったのだろうか!


 いや、違う!

 ハウンドは急に、悲痛な叫び声を上げた!


「うわああああああああああああああ!!」


 なんとハウンドの体は、膨大な魔力エネルギーで焼かれていたのだ!

 魔力エネルギーは、地面から噴き出している様子だ!

 それは、まるで巨大な噴水のように、止まる事なく噴き出していた!


 ハウンドは、暴れた!

 しかし、彼の体をキツく縛ったパペッティアの糸が彼を逃さない!

 彼の不死身の体は、なす術もなく強力な魔力に焼かれ続けた!


 ハウンドは、叫び声を上げる!


「なんだ!! なんだこれはああああああ!!」


 すると、ハウンドを包んでいた光は次第に拡大し始めた。

 ロゼッタとワンは、その予想外の様子を見て後退りをする。


 魔力の噴水は、ロゼッタ達の制御を離れて暴走し始めたのだ!

 ロゼッタは、ワンに言い放った!


「おい、マズいぞ!!」


 彼女は言いながら、ワンを抱き抱えて駆け出した!

 すると、後方でハウンドが悲鳴を上げる!


「嫌だぁああ! 死にたくない!! 嫌だアアアアアアア!!」


 直後!


 ドオオオオオオオオンッ!!


 魔力の噴水の中で、巨大な爆発が発生!

 物凄い爆風が起こり、逃げ去るロゼッタの背中を襲った!

 ロゼッタの体は浮き上がり、吹き飛ばされた!


 すると、彼女の目の前に何者かが現れる!

 クリフだ!


 彼は、飛んでくるロゼッタをキャッチした!

 そして、怪我がないか確認する。


「ロゼッタ、大丈夫か?」

「ありがとう! 大丈夫だ!」

「おいおい、ゆっくりしてる暇はねぇぜ!」


 ワンが、慌てた様子で二人を急かした。

 なんと、広場のあちこちから、魔力の噴水が噴出し始めたのだ!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!


 そして遂に、彼女達の目の前でも魔力が噴出する。

 このままでは、全員焼け死んでしまう!

 ロゼッタ達が慌てていると、その場にカトレアも駆けつけた。


「みんな、こっちよ!!」


 カトレアは、辛うじて通れそうな道を見つけてロゼッタ達に指し示した。

 それを見て、ロゼッタ達は走り出す!

 クリフは、走りながら尋ねた。


「いったい、あれは何だ!?」

「今は説明してる暇はねぇ!」


 ワンは、クリフの質問をあしらった。

 三人と一匹は、地面から噴き出す魔力の噴水を縫う様にして逃げる!

 彼女達は、全力で走った!

 やがて、広場の端が見えて来る。


 すると突然、ワンが前方を指差して叫んだ!


「ヤバいぞ、お前ら! この先は崖だ!!」


 ロゼッタは言われて、動揺した。

 そして一瞬だけ、振り返る。

 すると、魔力の噴水が急拡大して、すぐ背後まで迫っていた!

 このままでは、飲み込まれてしまう!


 しかし、次の瞬間!

 ロゼッタ達は、意を決した!

 そして三人は、そのまま加速して崖に向かってジャンプした!


 三人の体が、空中に浮いた!

 それと同時に、後方の広場は光に飲み込まれる!


 三人は、そのまま重力に任せて落下して行く!

 このままでは、地上へと真っ逆さまに墜落してしまう!


 ロゼッタは焦った、仲間を助けなくては!

 彼女は、周囲を確認した!


 すると、誰かが右手を掴んできた。

 それは、クリフだ!


 ロゼッタが驚いていると、今度は彼女の左手をカトレアが掴んだ。

 ワンは、ロゼッタの背中に張り付いていた。

 三人と一匹は、空中で輪を描きながら降下して行く。


 ロゼッタは、一瞬だけ安心感を覚えた。

 みんな一緒だ。


 しかし、このままではマズい。

 ツイスターで、全員の体重を支えることは恐らく出来ない。

 彼女は思考を巡らせて、解決策を考えた。

 すると……。


「お〜〜〜い!!」

「!?」


 突然、どこからともなく声が聞こえてきた。

 三人は驚く。

 そして、声のした方に視線を送った。


「お〜〜〜い!!」


 遠くの方に、丸々と太った男が空飛ぶ箒に跨って手を振っているのが見える!


「マックス!!」


 ロゼッタは、喜びの声を上げた!

 マックスが、空飛ぶ箒で救出に来てくれたのだ!


 マックスの背後には、沢山の空飛ぶ箒が続いていた。

 箒の上には、仲間の姿があった。

 カミーリャ、ファング、ブレイズ、ヤマネコのみんな、コロリン族、青いサル、海で会った男……。

 全員無事だ!


 やがて、ロゼッタ達も箒で回収された。




 ロゼッタは箒に跨りながら空を漂い、上空を眺めた。

 彼女は、目を大きく、丸くして上空を見つめる。

 彼女の瞳は、キラキラと輝いていた。


 彼女が見つめる先には、なんと無数の流星のようなものが流れていたのだ。

 美しい光が空を覆って、四方八方へと流れていく。


 ロゼッタは、背後を振り返った。


 流星の発生源は、世界樹の頂上だ。

 先ほどハウンドを焼き尽くした魔力の噴水が、空高く噴き上がって、雨の如く周囲に降り注いでいたのだ。

 一同、不思議そうな顔でその様子を見守った。

 すると突然、ワンが皆に説明を始める。


「これは、世界樹の果実だぜ!」

「果実?」


 それを聞いてクリフが、キョトンとした顔をする。

 するとワンは、ニヤリと笑いながら続けた。


「成熟した樹は、果実をつけるだろ。今回、世界樹がつけた果実がこれよ!」


 ワンは言いながら、空を流れる流星を指差した。

 そして、更に続ける。


「世界樹が500年間溜め続けた魔力が、世界中に放出されたのさ!」

「え!? それ大丈夫なの?」


 カトレアが心配して、口を挟んだ。

 すると、ロゼッタが答えた。


「大丈夫だぞ! これは、世界樹が溜めた栄養だ。きっと、世界中の大地が栄養満点になるぞ!」

「アッ! 俺様が言おうとしてたのに!!」


 一同、ワンの発言に笑った。

 なんと、世界樹が溜め込んだ魔力が大陸全土に拡散されたのだ。

 このまま世界樹が魔力を放出し続ければ、やがて樹は枯れるかもしれない。

 しかし、これからは世界樹に頼らなくても各々の土地で生活していけるのだ。


 これで世界樹も、魔王も、冒険者もその役目を終えた。

 これから世界の形は、変化していく事だろう。

 ロゼッタは、しんみりとそんな事を考えながら空を眺めた。


 すると、クリフが呟いた。


「これで、冒険も終わりだな……」

「……」


 ロゼッタはそれを聞いて、少し寂しそうな顔をした。

 すると……。


「まだ終わってないわよ!」


 カトレアが、二人に声を掛ける。

 そして、言葉を続けた。


「みんなでした約束を忘れたの?」

「あぁ……」


 ロゼッタとクリフは、顔を見合わせた。

 そして、笑顔で叫んだ!


「打ち上げだ!!」


 彼女達は、喜びの声を上げて地上へと降りて行った。

 巨大な世界樹は彼女達の冒険の終わりを見守り、空に流れる眩い魔力の光は彼女達の明るい未来を祝福するかのように、キラキラと輝いていた。

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