第七十一話 鍵
「やかましいぞ、馬鹿者!!」
ロゼッタは、叫んだ!
そして、飛びかかってきたワンを素手で叩き落とす!
「グゲッ!」
ワンは、呆気なく地面に叩きつけられた!
床に倒れたワンは、そのまま気絶してしまった。
それを確認してロゼッタは、再び世界樹の防衛装置の解除作業に戻る。
その頃、彼女の背後では激戦が繰り広げられていた。
ファングとクリフが、拳と拳で激しく撃ち合う!
ドンドンドン!
ファングが、物凄い勢いでクリフの体に攻撃を打ち込んだ!
すると、クリフがよろける。
しかし、すぐに持ち直した。
ファングは、よろめくクリフを睨みつけながら声を掛ける。
「てめぇとは腐れ縁だな! まさか、こう何度も戦う事になるとは思わなかったぜ!」
「……」
クリフは無言で、ファングを睨んでいた。
すると突然、肉体強化魔法の詠唱を行おうと、口を開いた!
その瞬間!
「させるかよ!!」
ファングが一瞬の隙を見て、クリフに飛びかかった!
クリフは咄嗟に詠唱を中断し、防御を行う。
ドンッ!
クリフが腕で作ったガードの上から、ファングが重い一撃を打ち込んだ!
すると周囲に、衝撃波が走る!
そして、クリフのガードが崩れた!
「おっしゃぁ!!」
ファングは、声を上げる!
そしてすかさず、鋭い前蹴りをクリフの腹に打ち込む!
ところが!
突然、クリフが消えた!
ファングは一瞬驚くが、すぐに冷静に分析する。
これは、前回クリフと戦った時と同じ様な状況だ。
ファングは、冷静に感覚を研ぎ澄ませて周囲を確認した。
そして、振り返った!
「後ろかぁ!」
ファングの背後から、クリフの拳が接近していた!
しかし、ファングは、それを受け流してクリフの体にカウンターで蹴りを打ち込む!
ファングの重たい蹴りが、クリフの腹にクリーンヒットした!
と思ったのだが……。
「クソッ」
突然、ファングは悪態をついた。
なんと再び、クリフが消えたのだ。
あの状況から攻撃を回避するなど、人間業ではない。
恐らくこれは、クリフ本来の能力ではなく、闇魔法によるものだ。
ファングは、再び周囲を見回していた。
クリフの格闘技に、闇魔法による瞬間移動が追加されたのだ。
これは、非常に厄介である……。
そんなファング達の隣では、カミーリャとカトレアが肉弾戦を行なっていた。
カトレアも闇魔法で強化されており、身体能力が異様に高くなっている様子だ。
先ほどから、カミーリャがパンチやキックを打ち込んでいるのだが、全く通じていない!
カミーリャは、一度カトレアから距離をとった。
そして、遠距離からの魔法攻撃に切り替える。
ドドドドドドドッ!
カミーリャは、右手のひらから炎の球を連続発射!
しかし、カトレアは舞うようにそれらを回避する。
「素早い!」
カミーリャが驚いていると、突然!
彼女の足元で、異変が起こった!
カミーリャは、叫ぶ!
「え!? いつの間に!!」
なんと彼女の足元から、急速にツタが伸びて、体に巻き付いたのだ!
ツタは、強くカミーリャを縛り上げて、彼女を飲み込もうとする!
しかし!
ブオオオオオオオオオオッ!
カミーリャは咄嗟に、両手のひらから炎を噴射!
体に絡み付くツタを焼き払い、引きちぎりながら、空中へと飛び立った!
そして彼女は、空中からカトレアに照準を合わせる!
直後、カミーリャは手から炎を噴射しながら、カトレアに向かって直進した!
彼女は、全力の体当たりを試みたのだ!
ドンッ!
カミーリャは、地面に激突!
周囲には、衝撃波が走った!
しかし、カトレアは華麗にバク転をして回避する。
カミーリャは、すぐさま手刀を構えた。
どうやらこちらも、一筋縄ではいかない相手だ。
その頃、ブレイズ率いるヤマネコのメンバー達は、火炎石を蓄えていた拠点へと差し掛かっていた。
すると目の前から、一人の男が走ってくる。
どうやら、彼もヤマネコのメンバーのようだ。
男は何やら、慌てた様子で叫んでいた!
「ブレイズさ~ん! ブレイズさ~ん!」
やがて、男は息を切らしてブレイズ達の元へと到着する。
ブレイズは、冷静に男に尋ねた。
「どうした、何かあったのか?」
「大変です! 大変なんです!」
男は、冷静さを欠いてあたふたしていた。
そして、報告を続けた。
「拠点が! 拠点が、飲み込まれてしまいました!」
「何!?」
ブレイズは、男の発言を聞くや否や駆け出した!
彼女の背後にヤマネコのメンバー達が続くが、全員負傷している上、足元が滑りやすい。
彼らは、慎重に駆けた。
ブレイズは世界樹の枝をつたって、ヤマネコの拠点の前まで到着する。
すると、そこには複数のヤマネコのメンバー達が呆然と立ち尽くしていた。
ブレイズは彼らを掻き分けて、拠点の入口に近づく。
すると……。
彼女は、唖然とした。
拠点の入口が、世界樹に飲まれて完全に閉じていたのだ。
恐らくこれは、世界樹の防衛反応によるもの。
魔王が変わった為に、周囲の環境に変化が起きたのだ。
「クソッ!」
ブレイズは、絶望した。
10年間、ずっと苦労して準備してきた計画が、一瞬にして水の泡となったのだ。
彼女はその場で、膝から崩れ落ちてしまった。
一方、神殿の祭壇の前では、ロゼッタが世界樹の解析を進めていた。
彼女も、何やら苦戦している様子だ。
「ムムムムムッ!」
ロゼッタは、焦っていた。
先ほどから、世界樹の防衛装置に命令を送ろうとしているのだが、拒否されてしまうのだ。
何度試してみても、謎の声が頭の中に冷たい返答をしてくる。
「鍵ヲ、使用シテクダサイ」
「またかっ!」
ロゼッタは、鍵など持っていない。
何か、鍵を使わなくても侵入できる経路はないだろうか?
彼女は、考えながら魔力の糸に意識を集中させた。
しかし……。
「鍵ヲ、使用シテクダサイ」
「……」
「鍵ヲ、使用シテクダサイ」
「……」
「鍵ヲ……」
「あああああっ!」
遂にロゼッタは、謎の声にイライラして叫んだ!
すると突然、彼女の背後で何かが動く。
ロゼッタは咄嗟に、背後に目をやった。
するとそこには、ワンの姿があった。
なんと、先ほど叩き落としたワンが起き上がってきたのだ。
ロゼッタは、ワンに向かって手のひらを向ける!
そして彼女が、魔具で攻撃しようとした、次の瞬間!
「ロゼッタ……オレサマ……オレサマガ……」
「?」
ワンが、何か伝えようとしている。
ロゼッタは、彼の言葉に耳を澄ませた。
すると、ワンは驚くべき発言をした。
「オレサマガ、鍵ダ!」
「!?」




