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最弱魔術師のパペッティア  作者: がじゅまる
サブストーリー9
85/94

マックスの友達

 森の中を、一人の男が飛んでいた。

 丸々と太ったその男は、空飛ぶ箒に跨って森の小道を進む。

 彼はマックスだ。


 マックスは、新たに開発した箒の実験をしていたのだ。

 ここは、前線基地の一つ手前の森。

 この広い森なら、いくら高く飛ぼうが、スピードを出そうが他人の迷惑にはならない。

 ここは、彼のお気に入りの実験場だった。


 マックスは、箒のスピードを上げて小道を駆け抜ける!

 彼の脳裏には、数日前に見たロゼッタ達の姿があった。

 彼女達は坂の頂上で、かなりの高さを飛んだのだ。

 その時マックスは、彼女達の姿を坂の下の広場から見ていた。

 あの日の興奮は、忘れることができない。


 あの光景を思い出しながら、マックスは箒を握り締め、急加速する!

 しかし、ロゼッタ達のような速度を出すことは出来ない。

 彼は、もっと速く、もっと高く飛びたいと思った。

 箒は、どんどんどんどん加速していく!

 しかし、もうすぐ限界か……。

 箒の速度が上がらなくなってきた。

 やがて彼は、小さなカーブに差し掛かる。


 すると、その時!


 前方の林の中から、一人の男が出てきた!

 男は、マックスの接近に気づいていない様子だ!

 マズい! このままでは、衝突してしまう!

 マックスは、急ブレーキを掛けながら叫んだ!


「そこの人!! 危な~~~い!!」

「え!?」


 ドーーーーン!


 二人は衝突し、マックスは地面へと投げ出された!

 林から出てきた男は、突然の出来事に驚いて目を回している。

 周囲には、沢山のキノコが散らばった。

 男が、森から集めて来たものだろうか?


 マックスは、よろめきながら立ち上がる。

 そして、腰をさすった。


「いててて……」


 彼は、慌てて周囲を確認する。

 箒は無事だ。

 そして近くで、日に焼けた筋肉隆々の男が一人倒れている。

 かなりの衝撃だったが、男は大丈夫なのだろうか?

 マックスは、心配して男の元に歩み寄ろうとした。

 すると!


 先ほどまで目を回して倒れていた男が、急にハッとして立ち上がった。

 男は突然、マックスの方に目をやる。


 マックスは、怯えた。

 男は、何故か全身の筋肉を震わせていたのだ。

 なんだか、見るからに強そうだ。

 彼は、怒っているに違いない。

 マックスが震えていると、男はスタスタと近づきながら声を掛けてきた。


「ちょっと、お兄さん!」

「あわわ……ごめんなさい!」


 マックスは、急いで土下座をして平謝りをした。

 すると、突然!


 男がマックスの前で、膝を付いた。

 そして男は、マックスの手を取ってギュッと握り締める。

 マックスは、突然の男の行動に驚いて顔を上げた。

 すると……。


「なあ、お兄さん! さっきの何!! 超カッコいいんだけど!!」

「え?」


 マックスは、男の唐突な発言にキョトンとした。

 男は、マックスの手を引いて立ち上がるのを手伝う。

 そして、地面に落ちた箒を指差した。


「あれだよ、あれ!! 最高にイカしてるな!!」

「あれ?」


 男は箒に近づき、興味津々に観察した。

 どうやら、空飛ぶ箒に感動したらしい。


 すると突然、男は何かを考え始めた。

 男は、目を瞑って全神経を考え事に集中している。


 男はうんうんと唸りながら、しばらくの間、何かに苦戦していた。

 しかし、突然、男は良いアイデアを閃いたようで表情が明るくなる。

 そして、言い放った。


「これは、エターナル・エメラルド・タイフーンだぁ!!」

「はあぁ?」


 マックスは、男の言葉に驚いて駆け寄った。


「違うよ! これは、マックス006! オイラの発明品だ!」

「お兄さんが発明したの!? やるじゃん!」


 マックスは少し照れながら、堂々と胸を張った。

 すると、男が質問する。


「これ、空を飛べるのかい?」

「うん……。飛べるっちゃ飛べるけど……」

「けど?」

「あんまり高くは飛べないんだ。多分、推進力の問題だと思うけど……」

「推進力……」


 マックスが説明していると、突然!

 男がマックスの肩に、力強く手を乗せた!

 そして男は白い歯を輝かせて、マックスに提案する。


「お兄さん! 推進力なら、いいのがあるぜ!」

「ん?」

「きっと、大空だって飛べるさ! 俺が開発した、新技術……」


 男は言いかけて、何故か一度、間を置いた。

 そして、叫んだ!


「ウルトラ・トルネード・バーストを使えばねぇ!」

「……ウルトラ・トルネード・バースト?」


 マックスは、何のこっちゃという感じで男を見た。

 男は、詳しい説明に入ろうとする。

 すると……。


 ガサガサッ。


 急に、近くの茂みが揺れた。

 マックス達の近くに、何かが潜んでいる様子だ。


 マックスと男は、警戒した。

 二人は魔法の杖を抜いて、構える。

 すると、突然!


 バサッ!


「ウィウィ!」

「!?」


 なんと、一匹の毛玉のような生物が現れた。

 その生物は、ドクロの仮面をつけている。

 茂みから飛び出して来たのは、コロリン族だ。

 それを見て、マックス達は杖を納めた。


 コロリン族は、何やらあわてている様子だった。

 空飛ぶ箒を指差しながら、マックス達に何かを伝えようとしている。

 しかし、マックスは困った。

 彼は、コロリン族の言葉が分からなかったのだ。


 すると突然、男がコロリン族の前に進み出た。


「ウィウィウィ!」

「うん……うん……」


 男は、コロリン族の言葉に頷いている。

 どうやら男は、コロリン族の言葉が分かる様子だ。

 そして男は、ある程度話を聞くとマックスの方を見た。


「どうやら、友達が捕まったらしい。彼らは助けを求めているぜ」


 それを聞いて、マックスは驚いた。


「君、彼らの言葉がわかるの!?」


 すると男が、ニヤリと笑って答える。


「いいや、分かんないよ。フィーリングさ!」

「えぇ……」


 マックスは男の怪しさに若干引いたが、一応言っていることは正しいと思った。

 コロリン族は友達を助けるために、箒を使わせて欲しいと言っている様子だ。


 すると、突然。

 コロリン族が、森の中へと駆け出した。

 そして、マックス達に対して手招きをする。

 どうやら、どこかへ案内したい様子だ。

 マックスと男は一度目を見合わせてから、仕方ないと言った感じでコロリン族に付いて行った。




 マックスと男は、コロリン族の村へと案内された。

 すると到着と同時に、沢山の村人と族長が彼らを出迎える。

 そして、彼らは村の中央にある大きな木の根元まで二人を導いてくれた。

 大きな木の下では、コロリン族達が何やら慌てている。


 その様子を見て、男がマックスに解説をした。


「この木の根に、耳を当ててくれって言ってるぜ」

「おい、フィーリングすげぇな……」


 マックスと男は、コロリン族に言われた通りにして木の根に耳を当ててみる。

 すると、木の根から声が聞こえた。


「タス……テクレ……」

「??」

「タスケテクレ……」

「!?」


 二人は、聞き覚えのある声に驚いた。

 そして二人同時に、声の主を思い出して声を上げる!


「あの時の、お客さんだ!」


 二人の脳裏には、クリフの姿が思い浮かんでいた。

 驚いている二人の周りに、コロリン族が集まってくる。

 そして、全員が天を指差して叫んだ。


「ウィウィウィウィ!」


 彼らの言葉を、男が解説する。


「友達は、世界樹の頂上にいるらしい。それで、箒を使って助けに行きたいそうだ」

「頂上か……」


 マックスは、困ってしまった。

 マックス006の性能では、地道にポータルを使って頂上を目指すしかない。

 しかし、コロリン族がポータルを使った長旅に耐えられるのかは疑問である。

 箒が大空を飛んで、一瞬で頂上にいければ良いのだが、現状の技術力では無理だ。

 彼はそう考えながら、申し訳なさそうにコロリン族へと声を掛けた。


「ごめんよ……この箒は、まだ完成していないんだ……」


 マックスの言葉を聞いて、コロリン族達は肩を落とした。

 すると、隣で聞いていた男が声を掛ける。


「だったら、完成させようぜ!」

「え!」


 男は言いながら、笑みを浮かべた。

 マックスは、驚く。


「完成させるって? 君とオイラで?」

「いいや」


 男は突然、周囲を見渡した。


「ここにいる、みんなでさ!」

「ウィウィウィ!」


 コロリン族は、それを聞いて喜んだ。

 彼らは、力こぶを作っている。

 どうやら、やる気に満ちている様子だ。

 すると、突然!


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 地面が振動し始めた。

 それと同時に、森の木々が揺れる。


 コロリン族は、怯えた。

 マックスと男は、揺れる木々の方を警戒する!

 すると……。


 ギョエエエエエエエエ!


 森の中から突然、巨大な青いサルが現れた!

 巨大なサルは、沢山の子分たちを引き連れている。

 サル達は、マックス達の元へとゆっくりと進んで来た。

 そして巨大なサルは、マックス達の前に立ち、右腕で自分の胸を一度ドンと叩く。


 すると、それを見ていた男が笑みを浮かべた。

 そして彼は、マックスに向き直り、告げた。


「彼らも、一緒だ!」

「ウィウィウィ!」

「ウキーウキー!」


 コロリン族とサル達は、全員一斉に喜びの声を上げた!

 マックスは、何が何やら状況が飲み込めなかったが、取り敢えずその場の勢いに乗る事にした。


「よし、分かった! マックス007号を作ろう! みんなで!」


 彼が言うと、広場は大いに盛り上がった!

 全員、物凄い熱量だ!


 そして彼らは、早速開発に乗り出した。

 材木を切り出し、加工。魔石を集めて、組み込んだ。

 そして肝心の風魔法発生装置には、ウルトラ・トルネード・バーストが採用された。


 各々が、上質な素材や知識、新技術を持ち寄って開発に挑んだのだ。

 それらを、マックスがまとめて形にする。

 やがて、全員の想いがこもった一本の箒が完成した。




 よく晴れていて、風もない日。

 風神のテラスには、沢山の人が集まっていた。

 彼らは、突如として街に現れた不思議な集団を見る為に集まって来たのだ。


 群衆の中を、コロリン族、青いサル、筋肉隆々の日に焼けた男が進む。

 その先頭には、マックスの姿があった。

 全員、手には不思議な箒を握りしめている。


 街の人々は、その様子を奇異の目で見た。

 するとマックス率いる集団は、広場の中央で突然立ち止まった。

 彼らは、世界樹に開いた大穴から空を眺める。

 そしてマックスが、振り返って言った。


「みんな、行こう! 友達を助けに!」

「よし!」


 彼の隣で、男が頷いた。

 マックスは一度、共に箒を携える友人達を見渡す。

 彼らは、やる気と自信に満ち溢れている様子だ。


 それを確認してマックスは、再び背後の大空を睨みつけた。

 そして、静かに語り出す。


「オイラは……いや……」


 マックスは、言いかけて考え直した。

 そして箒を握りしめて、叫ぶ!


「オイラ達は! これから、人類の限界を超える!」


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