マックスの友達
森の中を、一人の男が飛んでいた。
丸々と太ったその男は、空飛ぶ箒に跨って森の小道を進む。
彼はマックスだ。
マックスは、新たに開発した箒の実験をしていたのだ。
ここは、前線基地の一つ手前の森。
この広い森なら、いくら高く飛ぼうが、スピードを出そうが他人の迷惑にはならない。
ここは、彼のお気に入りの実験場だった。
マックスは、箒のスピードを上げて小道を駆け抜ける!
彼の脳裏には、数日前に見たロゼッタ達の姿があった。
彼女達は坂の頂上で、かなりの高さを飛んだのだ。
その時マックスは、彼女達の姿を坂の下の広場から見ていた。
あの日の興奮は、忘れることができない。
あの光景を思い出しながら、マックスは箒を握り締め、急加速する!
しかし、ロゼッタ達のような速度を出すことは出来ない。
彼は、もっと速く、もっと高く飛びたいと思った。
箒は、どんどんどんどん加速していく!
しかし、もうすぐ限界か……。
箒の速度が上がらなくなってきた。
やがて彼は、小さなカーブに差し掛かる。
すると、その時!
前方の林の中から、一人の男が出てきた!
男は、マックスの接近に気づいていない様子だ!
マズい! このままでは、衝突してしまう!
マックスは、急ブレーキを掛けながら叫んだ!
「そこの人!! 危な~~~い!!」
「え!?」
ドーーーーン!
二人は衝突し、マックスは地面へと投げ出された!
林から出てきた男は、突然の出来事に驚いて目を回している。
周囲には、沢山のキノコが散らばった。
男が、森から集めて来たものだろうか?
マックスは、よろめきながら立ち上がる。
そして、腰をさすった。
「いててて……」
彼は、慌てて周囲を確認する。
箒は無事だ。
そして近くで、日に焼けた筋肉隆々の男が一人倒れている。
かなりの衝撃だったが、男は大丈夫なのだろうか?
マックスは、心配して男の元に歩み寄ろうとした。
すると!
先ほどまで目を回して倒れていた男が、急にハッとして立ち上がった。
男は突然、マックスの方に目をやる。
マックスは、怯えた。
男は、何故か全身の筋肉を震わせていたのだ。
なんだか、見るからに強そうだ。
彼は、怒っているに違いない。
マックスが震えていると、男はスタスタと近づきながら声を掛けてきた。
「ちょっと、お兄さん!」
「あわわ……ごめんなさい!」
マックスは、急いで土下座をして平謝りをした。
すると、突然!
男がマックスの前で、膝を付いた。
そして男は、マックスの手を取ってギュッと握り締める。
マックスは、突然の男の行動に驚いて顔を上げた。
すると……。
「なあ、お兄さん! さっきの何!! 超カッコいいんだけど!!」
「え?」
マックスは、男の唐突な発言にキョトンとした。
男は、マックスの手を引いて立ち上がるのを手伝う。
そして、地面に落ちた箒を指差した。
「あれだよ、あれ!! 最高にイカしてるな!!」
「あれ?」
男は箒に近づき、興味津々に観察した。
どうやら、空飛ぶ箒に感動したらしい。
すると突然、男は何かを考え始めた。
男は、目を瞑って全神経を考え事に集中している。
男はうんうんと唸りながら、しばらくの間、何かに苦戦していた。
しかし、突然、男は良いアイデアを閃いたようで表情が明るくなる。
そして、言い放った。
「これは、エターナル・エメラルド・タイフーンだぁ!!」
「はあぁ?」
マックスは、男の言葉に驚いて駆け寄った。
「違うよ! これは、マックス006! オイラの発明品だ!」
「お兄さんが発明したの!? やるじゃん!」
マックスは少し照れながら、堂々と胸を張った。
すると、男が質問する。
「これ、空を飛べるのかい?」
「うん……。飛べるっちゃ飛べるけど……」
「けど?」
「あんまり高くは飛べないんだ。多分、推進力の問題だと思うけど……」
「推進力……」
マックスが説明していると、突然!
男がマックスの肩に、力強く手を乗せた!
そして男は白い歯を輝かせて、マックスに提案する。
「お兄さん! 推進力なら、いいのがあるぜ!」
「ん?」
「きっと、大空だって飛べるさ! 俺が開発した、新技術……」
男は言いかけて、何故か一度、間を置いた。
そして、叫んだ!
「ウルトラ・トルネード・バーストを使えばねぇ!」
「……ウルトラ・トルネード・バースト?」
マックスは、何のこっちゃという感じで男を見た。
男は、詳しい説明に入ろうとする。
すると……。
ガサガサッ。
急に、近くの茂みが揺れた。
マックス達の近くに、何かが潜んでいる様子だ。
マックスと男は、警戒した。
二人は魔法の杖を抜いて、構える。
すると、突然!
バサッ!
「ウィウィ!」
「!?」
なんと、一匹の毛玉のような生物が現れた。
その生物は、ドクロの仮面をつけている。
茂みから飛び出して来たのは、コロリン族だ。
それを見て、マックス達は杖を納めた。
コロリン族は、何やらあわてている様子だった。
空飛ぶ箒を指差しながら、マックス達に何かを伝えようとしている。
しかし、マックスは困った。
彼は、コロリン族の言葉が分からなかったのだ。
すると突然、男がコロリン族の前に進み出た。
「ウィウィウィ!」
「うん……うん……」
男は、コロリン族の言葉に頷いている。
どうやら男は、コロリン族の言葉が分かる様子だ。
そして男は、ある程度話を聞くとマックスの方を見た。
「どうやら、友達が捕まったらしい。彼らは助けを求めているぜ」
それを聞いて、マックスは驚いた。
「君、彼らの言葉がわかるの!?」
すると男が、ニヤリと笑って答える。
「いいや、分かんないよ。フィーリングさ!」
「えぇ……」
マックスは男の怪しさに若干引いたが、一応言っていることは正しいと思った。
コロリン族は友達を助けるために、箒を使わせて欲しいと言っている様子だ。
すると、突然。
コロリン族が、森の中へと駆け出した。
そして、マックス達に対して手招きをする。
どうやら、どこかへ案内したい様子だ。
マックスと男は一度目を見合わせてから、仕方ないと言った感じでコロリン族に付いて行った。
マックスと男は、コロリン族の村へと案内された。
すると到着と同時に、沢山の村人と族長が彼らを出迎える。
そして、彼らは村の中央にある大きな木の根元まで二人を導いてくれた。
大きな木の下では、コロリン族達が何やら慌てている。
その様子を見て、男がマックスに解説をした。
「この木の根に、耳を当ててくれって言ってるぜ」
「おい、フィーリングすげぇな……」
マックスと男は、コロリン族に言われた通りにして木の根に耳を当ててみる。
すると、木の根から声が聞こえた。
「タス……テクレ……」
「??」
「タスケテクレ……」
「!?」
二人は、聞き覚えのある声に驚いた。
そして二人同時に、声の主を思い出して声を上げる!
「あの時の、お客さんだ!」
二人の脳裏には、クリフの姿が思い浮かんでいた。
驚いている二人の周りに、コロリン族が集まってくる。
そして、全員が天を指差して叫んだ。
「ウィウィウィウィ!」
彼らの言葉を、男が解説する。
「友達は、世界樹の頂上にいるらしい。それで、箒を使って助けに行きたいそうだ」
「頂上か……」
マックスは、困ってしまった。
マックス006の性能では、地道にポータルを使って頂上を目指すしかない。
しかし、コロリン族がポータルを使った長旅に耐えられるのかは疑問である。
箒が大空を飛んで、一瞬で頂上にいければ良いのだが、現状の技術力では無理だ。
彼はそう考えながら、申し訳なさそうにコロリン族へと声を掛けた。
「ごめんよ……この箒は、まだ完成していないんだ……」
マックスの言葉を聞いて、コロリン族達は肩を落とした。
すると、隣で聞いていた男が声を掛ける。
「だったら、完成させようぜ!」
「え!」
男は言いながら、笑みを浮かべた。
マックスは、驚く。
「完成させるって? 君とオイラで?」
「いいや」
男は突然、周囲を見渡した。
「ここにいる、みんなでさ!」
「ウィウィウィ!」
コロリン族は、それを聞いて喜んだ。
彼らは、力こぶを作っている。
どうやら、やる気に満ちている様子だ。
すると、突然!
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
地面が振動し始めた。
それと同時に、森の木々が揺れる。
コロリン族は、怯えた。
マックスと男は、揺れる木々の方を警戒する!
すると……。
ギョエエエエエエエエ!
森の中から突然、巨大な青いサルが現れた!
巨大なサルは、沢山の子分たちを引き連れている。
サル達は、マックス達の元へとゆっくりと進んで来た。
そして巨大なサルは、マックス達の前に立ち、右腕で自分の胸を一度ドンと叩く。
すると、それを見ていた男が笑みを浮かべた。
そして彼は、マックスに向き直り、告げた。
「彼らも、一緒だ!」
「ウィウィウィ!」
「ウキーウキー!」
コロリン族とサル達は、全員一斉に喜びの声を上げた!
マックスは、何が何やら状況が飲み込めなかったが、取り敢えずその場の勢いに乗る事にした。
「よし、分かった! マックス007号を作ろう! みんなで!」
彼が言うと、広場は大いに盛り上がった!
全員、物凄い熱量だ!
そして彼らは、早速開発に乗り出した。
材木を切り出し、加工。魔石を集めて、組み込んだ。
そして肝心の風魔法発生装置には、ウルトラ・トルネード・バーストが採用された。
各々が、上質な素材や知識、新技術を持ち寄って開発に挑んだのだ。
それらを、マックスがまとめて形にする。
やがて、全員の想いがこもった一本の箒が完成した。
よく晴れていて、風もない日。
風神のテラスには、沢山の人が集まっていた。
彼らは、突如として街に現れた不思議な集団を見る為に集まって来たのだ。
群衆の中を、コロリン族、青いサル、筋肉隆々の日に焼けた男が進む。
その先頭には、マックスの姿があった。
全員、手には不思議な箒を握りしめている。
街の人々は、その様子を奇異の目で見た。
するとマックス率いる集団は、広場の中央で突然立ち止まった。
彼らは、世界樹に開いた大穴から空を眺める。
そしてマックスが、振り返って言った。
「みんな、行こう! 友達を助けに!」
「よし!」
彼の隣で、男が頷いた。
マックスは一度、共に箒を携える友人達を見渡す。
彼らは、やる気と自信に満ち溢れている様子だ。
それを確認してマックスは、再び背後の大空を睨みつけた。
そして、静かに語り出す。
「オイラは……いや……」
マックスは、言いかけて考え直した。
そして箒を握りしめて、叫ぶ!
「オイラ達は! これから、人類の限界を超える!」




