表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/94

第六十六話 ヘル・ハウンド

 ––ここは、約500年前の王都。


 王城の一室には、六人の男達が集まっていた。

 初代ウィザードの王と、その四人の守護者、そしてドレイクと言う名のパペッティアの若者だ。


 彼らは、部屋の傍らで円を描いて立っていた。

 すると突然、厳つい大柄な男が、大きな布袋を床に降ろした。

 男は袋の紐を解いて、周りの者たちに中身を見せる。

 すると……。


「なんと、おぞましい!」


 一人の気品のある貴族の男が、声を上げた。

 彼はハンカチで口を覆い、気分を悪そうにして袋の中身から目を背ける。

 なんと、袋の中からオオカミ型の魔物の死体が出てきたのだ。

 貴族の男は、大柄な男に告げた。


「ロックウォール! もう十分だ、それを閉まってくれ!」


 ロックウォールと呼ばれた大柄な男は、肩をすくめて貴族の男を見た。

 そして男を小馬鹿にするように、返事をする。


「ウィンドソング家の当主が、この程度で狼狽えるとは情けない」


 そんなロックウォールの言葉に対して、ウィンドソングが反論した。


「お主は、少し野蛮すぎるぞ!」


 ロックウォールはそれを聞いて、仕方なく魔物をしまった。

 そして王と四人の男達は、各々長机の席に着いた。

 机の一番上座には、王が座る。

 次いでレインドロップとウィンドソング、サンフレイムとロックウォールの順で向かい合って座った。

 しかし、ドレイクだけが席がない。

 彼は、部屋の端の方に一人立っていた。


 すると全員の着席を確認して、王が発言した。


「諸君に今見て頂いた魔物は、世界樹から現れたものだ。近隣の村を襲っていたのをロックウォールが仕留めた」


 王は一瞬、ロックウォールを見た。

 ロックウォールは、それに対して軽く会釈する。

 すると、王は続けた。


「恐らくパペッティアどもが、魔物を生み出す何らかの仕掛けを残していったものと思われる」


 王が発言していると突然、一人の男が挙手をした。

 手を挙げたのは、レインドロップ家の当主だ。

 王は、彼に発言を求めた。

 すると、レインドロップが王の発言に補足をする。


「異変は、魔物の出現だけでは御座いません。世界樹のポータルも、途中で分断されてしまいました。現在、次々と世界樹の中に不思議な世界が出現しております」


 他の男達は、静かに聞いていた。

 レインドロップは続ける。


「また頂上の神殿の中では、パペッティアの糸に繋がれた供物の牛が、何かに取り憑かれた様に暴れております」


 王は、深刻そうな顔をして口を挟んだ。


「世界樹の入口からも、大量の水が湧き出ておる。このままでは、頂上へ供物を供えにいく事が出来ぬ……」


 聞いていた男達は、俯いた。

 このまま世界樹に供物を供えられない状況が続けば、いずれ世界樹は枯れてしまうだろう。

 この集まりは、その問題を解決する為の会議だったのだ。


 すると、一人の男が発言を求めた。

 テーブルに着いている者達の中では、一番若い男だ。

 彼は、サンフレイム家の当主である。

 先代の当主が急死した為、まだ若い彼が家督を継いだのだ。


 サンフレイムは、部屋の端にいるドレイクを睨みつけて発言した。


「此奴に、世界樹の防衛装置を解除させればよろしいのでは?」

「……」


 他の男達は、ドレイクに視線を送る。

 するとドレイクは、恐る恐る返事をした。


「……申し訳ございません。……パペッティアの族長が、世界樹の装置に強力な鍵を掛けてしまったようで……申し訳ございません……」


 ドレイクは、男達に平謝りをした。

 その様子を見て、ロックウォールが呆れる。

 彼は、王の方を向いて発言した。


「陛下、このような役立たずを、いつまで飼っておられるつもりですか!」

「うーむ」

「申し訳ございません……申し訳ございません……」

 

 ドレイクは、彼らの力になれないことを必死に謝った。

 すると、再びレインドロップが発言を求める。

 王は、彼に発言を促した。


「陛下、実は私に妙案がございます!」

「ほう、何だね?」

「物語を作るのです!」

「ん?」


 レインドロップは、よく悪知恵の働く男だ。

 また何か、とんでもないことを思いついたに違いない。

 王は、そんな事を考えながら話の続きを聞いた。

 すると、レインドロップは続ける。


「世界樹の頂上には、魔王がおります」

「?」


 彼の発言に一同、呆然とした。

 しかし、彼は続ける。


「地上に魔物が現れるのは、悪い魔王の仕業です。その為、国は魔王を倒す強い魔術師を募るのです!」

「ほう」


 王は、何となく話が読めたようだ。

 しかし、ロックウォールは話が見えないようで困惑している。

 彼は、レインドロップに質問をした。


「どう言うことだ? 強い魔術師に、牛でも引かせようって言うのか?」

「まさか」

「ん?」


 ロックウォールは、意味がわからず天井を見つめる。

 すると、次の瞬間!

 レインドロップは、恐ろしい発言をした!


「強い魔術師を、生贄として捧げるのです!」

「なんと!?」


 一同驚愕した。

 しかし王は、なるほどと頷いている。

 王は感心して、レインドロップに確認をした。


「それであれば、わざわざ手間をかけて供物を運ばずとも、供物が勝手に頂上へと歩いて行ってくれる訳か」

「はい、陛下。左様で御座います」

「なるほど、良い案ではないか!」


 他の守護者達は驚いていたが、王が認めるのならば逆らう理由はない。

 全員深く考えず、レインドロップの意見に賛成した。

 これで世界樹に供物を送り届ける方法は確立され、問題が一つ解決されたのだ。


 王は、満足げに全員の顔を見渡した。

 そして、再びロックウォールの方を見る。

 ロックウォールの後ろには、袋に詰められた魔物が床に置かれていた。

 王は、それを見て静かに告げる。


「魔物についても、大した脅威ではない。魔術師一人でも仕留めることが出来る程度だ。何も恐れる必要はない」


 王はそう言うと、再び全員の顔を見渡した。

 そして、力強く告げた。


「そなたらの知恵と力が有れば、我らが王国の威光は永遠に続くであろう!」


 一同それを聞いて、喜んで頷いた。

 そして、部屋から緊張感が消えた。

 問題が解決されて、全員安心したのだ。


 しかし一人、まだ解決すべき問題があると考えている者がいた。

 サンフレイムだ。

 彼は再び、ドレイクを睨んだ。

 そして、王に提言した。


「恐れながら陛下! もう問題は解決したのですから、此奴は不要で御座いましょう。さっさと始末してしまうべきかと思います」

「そ、そんな!」


 ドレイクは狼狽えた。

 彼は突然、地面に這いつくばって命乞いをする。


「どうかっ! どうか、命だけはお助けください! 何でもしますから!」


 王は髭をいじりながら、床で狼狽えているドレイクを眺めた。

 確かに世界樹の問題も解決した事だし、不要と言えば不要だ。

 下手に生かしておいて、寝首でも掻かれたら敵わない。


 王はそう考えて、ドレイクを処分しようと思った……。

 しかし突然、何か閃いた様子で発言した。


「国内には、未だパペッティアの残党が潜伏しておる……」

「!?」

「貴様には、その残党狩りでもして貰おうか!」

「残党狩り……」


 王の守護者達も、王の発言に対して成程と頷いた。

 同胞のパペッティアを殺させることで、ウィザードへの忠誠心を測る事ができる。

 同時に、国内の危険分子を一掃できるのだ。

 また同胞や国民にも嫌われて、クーデターの心配もなくなる。

 一石二鳥、いや一石三鳥の大変素晴らしい案だった。


 王は、席を立ち上がってドレイクに告げた。


「貴様は、本日よりヘル・ハウンドと名を改めよ!」


 王は言いながら、口元に笑みを浮かべた。

 そして、更に続けた。


「貴様には、パペッティア討伐部隊を付けてくれよう。部隊名はそうよのぉ……」


 王は、髭をいじりながら考えた。

 そして突然、何か良い名が浮かんだらしく、再び笑みを浮かべた。

 王は、ハウンドをしっかりと見つめて言い放つ。


「部隊名は、王の猟犬! 本日より、パペッティアの首を余に献上せよ!」

「……」


 王が言い放った直後!


「ハッハッハッハッハッ!」


 部屋中に、笑いが起こった!

 そして、ロックウォールがハウンドに声を掛ける。


「お主! 遂に、名実共に犬となったか! これは傑作!」

「おぉ、哀れよのぉ」

「紐でも付けた方が良いのではないか?」


 ウィンドソングは目尻に涙を浮かばせて笑い、サンフレイムは首元を指してハウンドを馬鹿にした。

 王と守護者達は、王の猟犬の名前が気に入ったらしく、ずっと笑い続けていた。


 一方、当のハウンドは唖然としていた。

 これから自分は、同胞であるパペッティアを殺して回るのだ。

 自分は、裏切りに裏切りを重ねて生き延びるのだ。

 彼は余りの罪の重さに耐えきれず、おかしくなりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ