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第七話 わたしが守ってやる!

 魔物は、虫の息となっていた。

 改めて見ると、なんという巨体だろう。

 こんなバケモノを、ロゼッタとクリフは倒したのだ。

 クリフは、ロゼッタの方に向き直った。


「ロゼッタ! すごいじゃないか! 何でこんなに、すごい魔法を隠していたんだ?」


 クリフは言いながら、宙にフワフワと浮くテディに視線を送った。

 ぬいぐるみが、魔物を仰け反らせるほどの力を発揮するなんて信じられない。

 驚くクリフに、ロゼッタが返事をした。


「わたしもさっきまで、こんな事ができるなんて知らなかったぞ!」

「え!? でも、何か考えがあるって言っていたじゃないか!」

「あれは、身近にあるものを投げつけて隙を作ろうとしただけだ」


 何と言うことだ……。

 今回の勝利は作戦ではなく、偶然によるものだったのだ。

 ロゼッタは、テディの戦闘能力を先ほど偶然に知ったらしい。

 クリフは唖然とした。


 すると宙に浮いていたテディが、クリフの元へとやって来た。

 突然、ロゼッタが尋ねる。


「持ってみるか?」

「?」


 クリフは、テディをそっと手で掴んでみた。

 すると突然!

 腕に、かなりの重力が掛かった!


「重い!!」


 ぬいぐるみの可愛らしい見た目からは、想像もできない重さだ。

 しかも、重いだけではない。凄まじく硬い。まるで、岩のようだ。

 腰を沈めてテディを抱えるクリフに、ロゼッタが解説した。


「テディは、土属性の魔法を秘めていたんだ。今は魔法によって硬化しているところだ」


 ロゼッタは言いながら、テディに手のひらを向けた。

 すると先ほどまで重かったテディが、みるみるうちに軽くなっていく。

 クリフは、段々と軽くなっていくテディを不思議そうに眺めていた。


 すると今度は、ロゼッタが訝しげにクリフを見た。


「お前こそ、なんであんな魔法を使えるんだ?」

「俺もロゼッタと同じく特殊体質なんだ。正直この魔法について、詳しいことは良く分からない」

「ふ~ん」


 ロゼッタは腑に落ちない様子だったが、それ以上追求はしなかった。


 ンンンンンンンッ


 突然、魔物がうめき声を上げた。

 ロゼッタとクリフは、警戒する。


「セ、カ……イ……」

「!?」


 なんということだ! 

 ロゼッタとクリフは、驚いた。

 聞き間違いでなければ、今確かに魔物が人間の言葉を発したのだ!


「セカイ……ジュ……」


 魔物は最後に、そう言い残して息を絶やした。




 その後すぐに、町の方から援軍が駆けつけた。

 彼らは、火傷を負った村人たちの救助活動を行なった。

 村の至る所で、治療魔法による白い光が輝いているのが見えた。

 

 ロゼッタとクリフが、その様子を眺めていると、突然誰かが声を掛けてきた。


「あなたが、魔物を倒したのですか?」

 

 声の主は、若い女性のようだ。

 二人が振り向くと、眼鏡をかけた黒髪の女性が近づいて来るのが見えた。

 見た目はかなり若く見えるが、雰囲気は大人びている。

 クリフは答えた。


「ああ、俺と、こちらにいる娘で……」


 クリフが言いかけた時、ロゼッタがクリフの袖を掴んだ。

 自分の事は言わないでくれ、と言っているようだった。

 よく分からないが、今はロゼッタのことは伏せておいた方が良いようだ。


 すると黒髪の女性は、クリフの後ろに隠れていたロゼッタを見つけた。

 彼女は、笑みを浮かべてロゼッタを見る。


「ロゼッタ! 無事だったのだな!」

「よう、ハル元気そうだな……」


 ロゼッタは、黒髪の女性をハルと呼んだ。

 どうやら、ハルとロゼッタは、アカデミーで同級生だったらしい。

 ハルは優等生で、大変優れた魔法の才能を持っていた。

 そのため、若くして王立魔法騎士団の小隊長に抜擢されたのだ。


 ハルは、クリフに向き直った。


「騎士団を代表して、お礼を申し上げます。この村を守ってくれたことを感謝致します」

「いや、俺一人の力じゃないよ。俺は、大したことはしていない」


 ハルの話では、怪我人は町へ運んで本格的な治療を行うそうだ。

 その間ハルの小隊が村に駐留して、村の復興を支援するらしい。

 的確な判断を下し、きびきびと指示を出すその様子から、ハルは仕事のできる人物だということが分かる。

 しかし、ロゼッタはあまり彼女のことが好きではないらしい。


 まあ何はともあれ、ハルに任せておけば村の復興は、すぐに行われるだろう。

 あとは、ロゼッタがこれからどうするかだ。

 クリフは、ロゼッタに声をかけた。


「ロゼッタ、ごめん」

「……」

「俺は、君のことを誤解していた。君は強い女性だ」

「……」


 クリフは、ロゼッタが冒険の足手まといになると思い込んでいたことを深く反省していた。


「今さら遅いかもしれないけれど……俺と一緒に冒険に出てはくれないだろうか……」

「馬鹿者!」

 

 ロゼッタが突然、叫んだ!

 彼女は怒っていた。いや笑っていたのか。

 彼女は、笑顔でクリフを叱った。


「まったく、人を見る目がないやつだ! イノシシから救ってやった時点で気づくべきだぞ!」


 ロゼッタは、喜びが隠しきれない様子だった。


「まあ、わたしのサポート無しでは、お前は何度死んでいたか分かったもんじゃないからな!」


 ロゼッタは突然、真っ直ぐとクリフを見た。

 そして、告げた。


「これからも、わたしが守ってやる!」


 それを聞いてクリフは、ロゼッタに手を差し出す。


「これからも、世話になるよ。よろしく頼む」

「うむ」


 二人は固い握手をした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 偉そうに、でも大喜びしているロゼッタが可愛いですね。力のことを隠してあげるクリフも良い人柄が感じられて楽しく読めました。テディもすごい魔法が籠められていたということで、この先が楽しみになる…
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