第六十三話 アジト
ロゼッタ達は、砂漠を歩いていた。
彼女達の先頭をブレイズが歩く。
ブレイズが、三人をヤマネコのアジトまで案内してくれていたのだ。
しかし、いくら歩いても一向にアジトらしき物は見えてこない。
間もなく日が暮れようとしているのだが、夜までに到着できるのだろうか?
ロゼッタは、不安に思いながら歩いた。
すると、突然。
ブレイズが、遠くに向けて手を振った。
ロゼッタは、彼女が手を振る方向を凝視してみる。
しかし、何も見えない。
彼女は一体、何に対して手を振っているのだろうか?
するとカミーリャが急に、驚きの表情を浮かべた。
彼女は、何かに気づいた様子だ。
「なるほど!」
彼女が言った、次の瞬間!
突然、目の前の景色が歪み始めた!
そして先ほどまで何もなかった砂漠の中に、突如として巨大な岩山が現れる!
ロゼッタは驚いた。
「どう言うことだ!?」
彼女が声を上げると、ファングが解説した。
「これは、俺の仲間の能力だ! 敵に発見されないように、アジトを透明化してたんだぜ!」
「能力? 魔法で、こんな大きな岩山を隠していたのか!?」
「そう言うこった!」
ロゼッタとカミーリャは、それを聞いて驚いた。
そして彼女達は圧倒されながら、岩山の中央に開いた裂け目へと進んだ。
岩山はまるで何かで削られたように、中央に谷が出来ていた。
谷の両端は絶壁。
その絶壁の至る所には、人が通れるサイズの穴が複数開いていた。
ロゼッタは、顔を上げてみる。
すると絶壁の上の方にも、穴がポツポツと開いているのが見えた。
その中には、フードを被った魔術師達が立っている。
恐らく彼らは、アジトの見張りだろう。
見張りは、谷底を通るロゼッタ達を見下ろしていた。
しばらく谷を歩いていると、少し開けた場所に出た。
そこは広場になっており、テントが張られていて、沢山の荷物が置かれていた。
荷物の周辺で、何人かの男達が警備をしている。
ロゼッタ達が近づくと、警備をしていた男達が気づいてこちらに注目した。
すると突然、一人の男が声を上げる!
「ファングさん!! 無事だったんですね!」
「おうよ!」
ファングは、男達に手を振った。
男達は、ファングの元へと集まって来る。
彼らは何やら嬉しそうだ。
恐らくずっとファングの事を心配をして、彼の帰りを待っていたのだろう。
ファングは、見かけによらず人望のある奴だ。
ロゼッタは、その事を意外に思いながら彼らを見つめた。
すると、ブレイズが声をかけた。
「これから、客人を交えて話し合いをする。再会を喜ぶのは後にしろ」
「チッ、ブレイズはつれねぇな……」
ファングはブレイズの態度に呆れたが、仕方ないと言った感じで彼女の後に付いて行った。
その後に、ロゼッタとカミーリャが続く。
彼女達は、広場の正面にある洞窟へと入っていった。
すると、洞窟の奥に石の通路が見えた。
人工的に加工されたような、床も壁も真っ平らな石の通路だ。
ロゼッタは以前、これに似た通路を目にした事があった。
ここは、世界樹の頂上付近で通過した通路にそっくりだった。
彼女は、あの時みたいに罠があるのでは無いかと怯えながら歩く。
その後ろでカミーリャは、興味津々に壁に触れて観察していた。
彼女達がそうやって通路を歩いていると、やがて正方形の部屋に出た。
部屋の中央にはテーブルが設置してあり、一人の若い女性が席に着いている。
ロゼッタは、その女性を見つめた。
爽やかな青髪の女性が、笑顔でテーブルを見つめている。
しかしどうやら、女性は目を瞑っている様子だ。
眠っているのだろうか?
ロゼッタ達が部屋に踏み入ると、女性は目を瞑ったまま顔をこちらへと向けた。
そして、笑顔で言った。
「おかえりー、ファングー」
「おうよ! しばらく留守にしてて悪かったなぁトリッキー!」
なんと女性は目を閉じていても、誰が入室して来たのかが分かる様子だ。
彼女は続けた。
「それで? 後ろの二人は?」
彼女は、ロゼッタとカミーリャの存在にも気づいた。
すると、ファングが紹介してくれた。
「こいつらは、一緒に脱獄を手伝ってくれた仲間だ。え~……」
ファングは一瞬悩んだ。
そして、ロゼッタ達を見る。
どうしたのだろう?
まさか、名前が出てこないのではなかろうか。
ロゼッタが、ファングに冷ややかな視線を送った。
すると突然、ファングは考えるのを放棄して言った。
「こいつらは、赤毛とメイドだ!」
「こら! ちゃんと紹介しろ!」
ロゼッタは怒った。
しかし、ファングは悪びれる様子もない。
すると今度は、ブレイズが自己紹介した。
「私はブレイズ、こっちはトリッキー。私ら二人と、そこのファングでヤマネコの幹部を務めている」
「え? ファングが幹部?」
ロゼッタは、驚いてファングを見る。
ファングは、何やら得意げな表情をしていた。
ブレイズは続けた。
「アンタ達は、上で世界樹に飲み込まれちまった冒険者の仲間だろ?」
「知っているのか……」
「ああ、我々は世界樹の様子を常に監視しているからな。パペッティアの少女が、落下したところまでは知っている」
「なぬ!」
ロゼッタは、何もかもを見透かされていて驚いた。
ブレイズ達は、どう言う方法を使っているのかは知らないが世界樹を常に監視しているらしい。
そういえば世界樹の頂上付近で、魔法で空中投影されたブレイズに会った時も、ブレイズはこちらの様子が見えていた。
いったい、どんな手法を使っているのだ?
ロゼッタが考えていると、ブレイズが解説した。
「世界樹の至る所に、トリッキーが監視用の魔法を展開していてね」
「監視用の魔法?」
「そうでーす!」
トリッキーは、笑顔で補足した。
「私は目が見えないんだけど、至る所にトラップ魔法をばら撒いて、それを通じて世界を感じているんだよ!」
「トラップ魔法!」
「そう、トラップ魔法! 私はトラップの上を誰かが通ったり、トラップの近くで何か音がしたらすぐ分かっちゃうんだ! 残念ながら私には見えないけど、本来は遠くの物を目の前に映し出したり、逆にこちらを投影したり、色々出来ちゃう便利な魔法だよ!」
ロゼッタは、驚いた。
トリッキーが先ほどから目を瞑っていたのは、目が見えなかったからなのだ。
しかし彼女は、トラップ魔法を通じて遠くの場所の様子まで確認できるらしい。
ロゼッタは、ワンとフレイヤと共に見たトラップ魔法を思い出した。
あれは、トリッキーが起爆していたのだ。
彼女が驚いていると、ファングが口を挟んだ。
「ほら、さっきの岩山を隠していた魔法があるだろ。あれもトリッキーの魔法よ!」
「えぇ、あれも! トラップ魔法、随分と便利だな……」
「でしょー」
彼女達が和やかに話をしていると、ブレイズが突然、話を遮った。
「自己紹介はこれくらいにして、本題に入ろうか」
ロゼッタ達は、ブレイズに注目する。
すると、ブレイズが続けた。
「アンタ達は、仲間を助けに行くつもりだろ?」
「ああ、そうだ!」
ロゼッタは、ブレイズの質問に力強く頷いて答える。
すると……。
「残念だが、もう手遅れだ」
「え……?」
ロゼッタとカミーリャは、突然の発言に驚いた。
ロゼッタは慌てて質問をする。
「それは、どう言うことだ!?」
彼女の質問に対して、ブレイズは静かに答えた。
「随分前に、追加の火炎石の輸送部隊が出発した。間もなく、世界樹の頂上に到着する頃だろう」
「火炎石……」
ロゼッタの脳裏に、世界樹の頂上付近にあったヤマネコの拠点の光景が蘇った。
あの部屋には、火炎石の詰まった大量の木箱が積んであったのだ。
ヤマネコは、そこに追加で火炎石を送ったらしい。
ロゼッタは嫌な予感がした。
すると、次の瞬間!
ブレイズは、言い放った。
「まもなく世界樹は爆破される」
「なに!?」
「今から上へ向かったところで、間に合わないだろう」
ブレイズの言葉を聞いて、カミーリャが口を挟んだ。
「お願いです! どうか、その爆破を延期してもらえませんか? ボク達の大切な仲間が、捕らえられているんです!」
「残念だが、それは無理だ」
「そんな!」
ブレイズは、理由を説明した。
「新たな魔王は、全員特殊魔法の使い手だ。その為、世界樹が不安定になっている。今が爆破の好機なのだ」
彼女達の話によると、クリフとカトレアとワンが魔王になったことで、世界樹の防衛機能が弱体化したのだそうだ。
ヤマネコはこの十年、ずっと世界樹爆破の機会を窺ってきた。
しかし今までは、魔王の魔力が強すぎて容易に爆破に踏み切れなかったのだ。
以前、強力な魔力を扱うフレイヤを魔王にさせまいとしたのも、世界樹の防衛機能がこれ以上強固になるのを防ぐ為だった。
すると、ブレイズの説明にトリッキーが補足した。
「それに私のトラップ魔法によると、世界樹の下から何やら凄い数の大軍勢が登って来ているからねー。急がなくちゃ!」
ロゼッタは、それを聞いて困惑した。
折角、仲間を助けにきたのに、今から向かったところで間に合わないのだ。
ファングは、落ち込むロゼッタを申し訳なさそうに見た。
そして、静かに告げた。
「仲間のことは残念だったな……。でも、わりぃ分かってくれ。俺らヤマネコにとっちゃ、冒険者の救出より世界樹の破壊が優先だ」
「……」
ロゼッタはそれを聞いて、酷く落ち込んだ。
ブレイズは、落ち込むロゼッタに声を掛ける。
「我々からは以上だ。そちらから、何かあるか?」
「……」
ロゼッタもカミーリャも、元気がない。
ブレイズは彼女達から返事がないのを見て、ファングに告げた。
「おい、客人を部屋まで案内してやれ。きっと長旅で疲れているだろう」
ファングは頷いて、ロゼッタ達を連れて部屋を出た。
その夜、ロゼッタ達はヤマネコのアジトに宿泊した。
彼女達は、かなり簡素な部屋に通された。
小さな洞穴に、壁を削って作られた石のベッドが設置してある。
ベッドの上には何枚か布が敷いてあるが、何だかとても堅そうだ。
部屋の片隅には、何かの鉱石が白く光り輝いていた。
それ以外は何もない、とても簡素な部屋だ。
ロゼッタとカミーリャは、同じベッドに座っていた。
ロゼッタは、落ち込んでいる。
どうして良いのかが分からない様子だ。
そんな彼女を、カミーリャが慰めた。
「ロゼッタさん、きっと何か方法はありますよ!」
「うむ……」
カミーリャは言うと、立ち上がった。
そして腰に手を当てて、何やら自信に満ちた態度でロゼッタを見る。
すると、彼女は言った。
「先ほど、みんなでお話をした部屋ですが、あれは恐らくパペッティアが造った物です」
「……?」
ロゼッタは、カミーリャの言わんとしている事が分からなかった。
ロゼッタが思考を巡らせていると、カミーリャが続けた。
「あの部屋には元々、ポータルが開いていた形跡がありました!」
「なに! ポータル!」
ロゼッタは、驚いた。
驚く彼女に対して、カミーリャは笑顔で告げる。
「もしかしたら、パペッティアが残した緊急用の通路かもしれません。調べてみる価値はあります!」
「おお!」
ロゼッタは立ち上がった。
彼女は目を大きく開いて、カミーリャを見つめる。
彼女の瞳には、希望の光が宿っていた。
するとカミーリャは、ロゼッタの肩に優しく手を置いた。
そして静かに告げる。
「ロゼッタさんは、休んでいてください。ボクが様子を見てきます」
「え? 一人で行くのか?」
「はい。ボクはドールなので、寝なくても平気です! ロゼッタさんはいつでも動けるように、どうぞゆっくりと体を休めてください」
「ん……」
ロゼッタは少し悩んだが、カミーリャに優しく押されて再びベッドに座った。
彼女は、この数日間ずっと逃げ続けて来たので、心身共にかなり疲弊していたのだ。
確かに、世界樹の頂上に行く前に、少し休んだ方が良いのかもしれない。
そう思って、ロゼッタは頷いた。
「分かったカミーリャ、任せたぞ!」
「お任せください!」




