第六十話 作戦会議
ロゼッタとファングは、裏路地を密かに駆けていた。
ファングは、肩にカミーリャを担いでいる。
彼女達は時折、街を巡回する騎士団を見つけては立ち止まって壁に張り付いた。
街には、かなりの数の兵士が見回りに出ている様子だ。
どうやら既に、ロゼッタ達がこの街に隠れている事が知られているらしい。
すると突然、大きな通りを複数の兵士が駆け抜けた。
ファングは彼らが通り過ぎるのを待って、路地から顔を覗かせる。
すると、一軒の民家を騎士団が取り囲んでいるのが見えた。
ファングは、その光景を見て驚く。
そこは、ヤマネコの支部だったのだ。
「やべぇな……アジトの場所がバレてやがる……」
ロゼッタも、路地から顔を出した。
彼女達はヤマネコのアジトを当てにして逃げていたのだが、どうやら望みは断たれたらしい。
彼女は咄嗟に、隠れる場所を考えた。
そして、風車を見上げる。
すると突然、隠れ家になりそうな場所を一つ思い出した。
彼女は、ファンングに告げる。
「なあ、私が一ついい場所を知っているぞ!」
ロゼッタ達は、住宅街へやって来た。
そしてロゼッタは、ある民家の玄関へと向かう。
彼女は前へと進み、扉を強めにノックした。
ドンドンドンッ!
しかし、反応がない……。
すると彼女は、もっと強くノックした。
ドンドンドンドンドンッ!
彼女は、扉を叩きながら叫ぶ!
「マックス!! ここを開けてくれ!!」
すると、建物の奥から音がした。
ドカドカドカドカッ! ガチャ。
突然、扉がスッと開く。
しかし扉は、玄関口と鎖で繋がれていて少ししか開かない様子だ。
その隙間から、マックスが顔を覗かせた。
「誰だ? オイラの名を呼ぶ者は?」
「マックス! 私だ!」
「!」
マックスは、ロゼッタを見て驚いた。
そしてすぐに、扉を閉める。
……。
カチャ。
中で鍵の外れる音がした。
すると突然、扉が開いてマックスが現れる。
マックスは、ロゼッタを見つめた。
「君は確か、フクロウをあげた……」
彼がそう言いかけると、ロゼッタの後ろからファングが進み出た。
彼はカミーリャを担いだまま、ずかずかとマックスの家の中へと入っていく。
「邪魔するぜ!」
「え!? 誰? 気絶した女の人? 何? 誘拐!?」
マックスは、驚いてあたふたとした。
そんな彼に、ロゼッタが声を掛ける。
「少しの間だけで良いんだ、匿ってくれないか?」
「え?」
マックスは困惑する。
ファングはマックスの返事を待たずに、二階へと登っていってしまった。
マックスはその様子を見送ってから、ロゼッタに向き直る。
「分かった。取り敢えず、事情を聞かせてよ……」
彼は言いながら、ロゼッタを家の中へと促した。
ロゼッタは頷き、建物の中へと入った。
二階の部屋は、物が多かった。
しかし、一階ほどではない。
天井からは、風車の回る音が聞こえる。
なんだか素朴で、屋根裏部屋のような雰囲気の部屋だ。
ファングは、ロゼッタの指示で窓辺に椅子を置く。
そして、その上にカミーリャを座らせた。
ロゼッタがカミーリャの体に糸を繋いで状態を解析したところ、どうやら彼女は魔力切れを起こしたらしい事が分かったのだ。
その為、光に当てて魔力をチャージする必要があった。
マックスはその光景を見て、不思議そうな顔をした。
彼はカミーリャを眺めながら、ロゼッタに質問する。
「この人、大丈夫なの?」
「ああ、どうやらちょっと魔力切れを起こしたらしい」
「魔力切れ?」
「そうだ。彼女は私を背負ったまま空を飛んで、魔力を消耗したのだ」
「な!?」
「かなりの高さだったぞ!」
マックスは驚いた。
女性が、空を飛んだというのだ。
彼は混乱しながら、更に尋ねた。
「え!? どうやって! 推進力は?」
「んー……。なんかこう、手から炎を出して飛んでいたぞ」
「炎魔法……」
突然マックスは、膝から崩れ落ちた。
そして両手を床について、落ち込む。
「負けた……風魔法が負けた……」
するとファングが、ロゼッタに声を掛けた。
「おい、赤毛! これから、てめぇはどうすんだ?」
「おお、そうだったな。お前とは、王都を脱出するまでの約束だったな」
「……」
ファングは、聞きながら窓の外を眺めた。
今の所、通りに大きな変化はない。
するとロゼッタは、床に這いつくばっているマックスに声を掛けた。
「なあ、お前の箒は完成してないのか? わたしは、もう一度世界樹の頂上に行かなければいけないのだ」
「箒……?」
マックスは静に立ち上がって、ロゼッタを見た。
「マックス005のことね」
「ん? 前回は、002じゃなかったか?」
「あれから、更に改良を重ねたんだよ」
「そうなのか……。それで? 完成したのか?」
「……」
マックスは、少し俯いて答えた。
「以前よりも、飛行距離とスピードも向上したけど……」
彼は、窓の外を眺めた。
遠くの方に、世界樹の大穴が見える。
彼は、大穴の向こうに見える空を眺めながら呟いた。
「まだ、空は飛べないよ……」
ロゼッタは、それを聞いて残念に思った。
やはり地道に、ポータルを使って上を目指すしかないのだろうか。
しかし、街は厳戒態勢だ。
きっとポータル周辺は、一番警戒されている事だろう。
彼女は、困ってしまった。
その様子を見て突然、ファングが告げた。
「おい、赤毛! もう少しだけ、手を貸してやってもいいぜ!」
「ん?」
ロゼッタは、それを聞いて驚いた。
ファングとは脱獄が済むまでの関係だと思っていたのだ。
しかし彼は、どうやらロゼッタ達を助けてくれるらしい。
何か裏でもあるのだろうか?
それとも……。
ロゼッタは突然、ニヤリと笑ってファングに語りかけた。
「お前、寂しがり屋なんだな!」
「あ!? 違げぇよ! 女子供をこんな状況で放置するのは、どうかと思っただけだ!」
すると、その時!
ファングの叫び声を聞いて、カミーリャが目を覚ました。
彼女は、目をうっすらと開けて周囲を見渡す。
それに気づいて、ロゼッタが駆け寄った。
「カミーリャ!」
「ロゼッタ……さん……?」
そういうと、カミーリャはふらつきながら立ち上がった。
ロゼッタが、カミーリャの体を心配する。
「大丈夫なのか?」
「ええ、何とか……。それにしても……」
「?」
カミーリャは、再び部屋を見渡した。
そして、言った。
「酷い部屋ですね……お掃除しなきゃ……」
それを聞いてマックスは、一瞬肩をすくめた。
「ん? そうかな、結構綺麗だけど……」
「……」
他の三人は、呆れた表情でマックスを見た。
その後、ロゼッタ達は作戦会議をした。
三人で輪になって座り、今後の方針を考える。
まずは全員で、この先にある砂漠を目指すことになった。
ファングの話によると、砂漠にヤマネコの本部があるらしい。
しかし砂漠へ行く為にはまず、この街のポータルに辿り着かなければならない。
ポータルの場所は、街の丘の上にある回廊の先だ。
しかもそこまでの道は、騎士団が厳重に警備をしているはずだ。
それを何とかして、突破しなければならない。
すると突然、カミーリャが提案した。
「ボクがもう一度、空を飛びます。それで突破しましょう!」
「いや、ダメだ!」
ファングが反対した。
「また気を失われたら、かなわねぇ! ポータルに触れて、おしまいじゃねんだぞ。その先も、逃げなきゃいけねぇんだ」
「なるほど……」
「それにあんまし高く飛ぶと、魔法で狙い撃ちにされっぞ!」
ファングの意見は、もっともだ。
カミーリャは、反論できなかった。
すると今度は、ファングが提案した。
「だが、だからと言って隠密行動で突破できる様子でもねぇ。ここは一つ俺が暴れまくって……」
「また、捕まるぞ……」
「あん?」
ロゼッタは、呆れながら反対した。
ファングは、納得がいかない様子だ。
「じゃあ、どうすんだよ! また、ゴーレムで正面突破でもするか?」
「んー……。正面突破か……」
何かゴーレムのように、素早く移動できる乗り物があればそれも可能だが……。
ロゼッタは、天井を見ながら考えた。
すると突然、彼女の脳裏に一つのアイデアが閃いた。
そして彼女は、後方にいたマックスに声を掛ける。
「マックス! お前の発明品、すぐに使えるか?」




