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最弱魔術師のパペッティア  作者: がじゅまる
サブストーリー8
74/94

ファングの野望


 ––ここは、雪に包まれた白い大地。


 王国の北に位置する雪原だ。

 この一帯は、サンフレイム家が治めている土地である。


 遠い昔、この近辺には獣人族の里があった。

 しかし獣人族に恨みがあったサンフレイム家が指揮を取って、長い年月をかけて彼らを殲滅して土地を奪ったのだ。

 その為か、ここは何となく鬱屈とした暗い雰囲気の漂う土地だった。


 そんな雪原を貫く一本の道を、一人の男が歩いていた。

 アルバートだ。

 彼はレインドロップ家を追放されて以来、ずっと放浪生活を続けていた。

 しかし、ただ歩き回っていたのでは無い。

 彼は、自分の考えに賛同してくれる仲間を探していたのだ。

 そう、共に世界樹を破壊する仲間を……。


 彼が雪原を歩いていると、前方から商人の一行が歩いてくるのが見えた。

 一行は、竜に巨大な荷車を引かせている。

 その様子から察するに、かなりの大商人だろう。

 恐らく彼らは、サンフレイム家が拠点を置く北の町から王都へと向かう途中だ。


 アルバートは、フードを深く被った。

 自分が、アルバート・レインドロップだとバレる訳にはいかない。

 すると突然、商人の一行から声が上がった。


「何者だ!! なぜ、雪原を一人で歩いている!!」


 その声と同時に、商人を護衛していた冒険者が数名近づいて来た。

 アルバートは仕方なく、両手を上げて戦意が無いことをアピールする。

 すると……。


 突然、周囲の雪の中から複数のフードを被った魔術師が現れた!

 彼らは、冒険者たちに向かって杖を向ける!


「動くな! 杖を捨てろ!」


 冒険者たちは、驚いて手を上げる。

 しかし後方の商人達は、竜に鞭を打った!

 強行突破するつもりだ!


 ドドドドドドドドドド!


 氷の上を、竜が引く荷車が駆け抜ける!

 護衛の冒険者たちは、撥ねられそうになって雪に飛び込んだ!

 襲撃者達は、咄嗟に荷車に向かって魔法を発射!

 しかし、商人達は魔法のシールドを張って防いだ!


 アルバートも轢かれそうになり、雪に飛び込む!

 すると突然!

 荷車の先頭で手綱を握っていた商人が、雪に放り出された!


「うわああああああああ!」


 商人は、腕から血を流している。

 アルバートは、荷車を見た。

 すると、荷車の上で暴れている銀髪の男を発見した。

 ファングだ。

 アルバートは、ファングの黄色い瞳と一瞬目が合う。

 荷車からは、次々と商人達が逃げ出した。


「う、うわあああああ! 獣人だぁ!!」


 彼らは荷物を捨てて、一目散に逃げ出した。

 アルバートの後方では、商人の護衛をしていた冒険者達が拘束されている。

 アルバートは気にせず、腕から血を流している商人に駆け寄った。

 そして急いで、商人に対して治療魔法を使用する。

 彼が治療をしていると、背後からファングが近づき声を掛けた。


「おい、てめぇ! てめぇも商人の仲間か?」


 アルバートは両手を上げて敵意がない事を示しながら、落ち着いて振り返る。


「いいや。私はただの通りすがりの者だ……」

「あ? ただの通りすがりの者が、盗賊団の横で他人様の治療なんてするかよ!」

「まあ、そうかもな……」


 ファングは、鼻をひくひくと動かした。

 そして告げた。


「俺には分かるぜ! てめぇ貴族の家の者だろ! みすぼらしい格好で隠したつもりだろうが、その身に染み付いた臭いは隠しきれねぇぜ!」

「君、やるねぇ」

「あん?」


 アルバートは、ニコリと笑った。


「君のような人材が、盗賊をしているなんて勿体無い。私と手を組まないか?」

「ハッ! 貴族の戯言なんざぁ聴きたかねぇぜ」


 ファングは言うと、仲間に命じてアルバートを縛り上げた。

 そして、盗賊団のアジトへと連行する。




 アジトは、森の中の古い小屋だった。

 そこに数名の、盗賊団が集まっていた。

 彼らは、先ほど商人から奪った品々を確認している。


 アルバートは部屋の隅で、縄で縛られて床に座っていた。

 商人と彼を警護していた冒険者達も、一緒に縛られている。

 項垂れている彼らに、ファングが近づいた。

 彼は、しゃがんで全員と視線の高さを合わせる。


「てめぇらは人質だ。これから、てめぇらの身内に身代金を要求する」


 彼が言うと、一人の冒険者の男が声を上げた。


「お願いです、うちの家族は貧しいんです! 家に帰らせてください!」


 ファングは、男を睨みつけた。

 男は怯える。

 すると、ファングは静かに言った。


「安心しろ、貧しい奴から搾り取るのは趣味じゃねぇ。てめぇらは、すぐに解放してやんよ!」


 それを聞いて、男は少し安心した。

 するとファングは、アルバートと項垂れている商人を睨みつけた。


「てめぇらからは、絞れるだけ絞ってやるぜ!」


 そう言うとファングは、力なく項垂れている商人に近づいた。


「てめぇ……稼いだ金を、サンフレイムの野郎どもに貢いでたな? あ?」

「ヒッ……」


 すると商人は、弁明をした。


「お前は、何も知らないんだ! 貴族様と懇意にしていなければ、この地で商売なんて出来ないんだよ! 生きる為に金を貢いで何が悪い!」

「てめぇらの事情なんざ、知ったこっちゃねぇ! こちとら、サンフレイムの野郎どもに、ひでぇ目に合わされてんだ! そして奴らを、てめぇら商人が支えてる。だから、てめぇらを潰す。ただそれだけだ!」

「酷い! 勝手過ぎる!」

「ああ勝手だ! てめぇらが貴族を支援するのも勝手、俺らがそれを阻止するのも勝手っつう事だ!」

「クソッ……」


 ファングは、静かに立ち上がった。

 そして、商人に告げた。


「命があるだけでも、有り難いと思いな」

「……」


 アルバートは、ファングの言葉を聞いて察した。

 彼は獣人だ。

 獣人と敵対するサンフレイム家は、獣人に対して徹底的に厳しい仕打ちをしているのだろう。

 それによって、貧しい生活を余儀なくされていると言う事情があるのかも知れない。

 彼は自分達を迫害する貴族と、それに連なる商人を憎んでいるのだ。


 アルバートは、考えながら金品の確認をする盗賊団を見た。

 ファング以外は、全員ウィザードだ。

 この地で苦しめられているのは、どうやら獣人だけでは無いようだ。

 

 ファングと仲間の様子から察するに、ファングの恨みの対象はサンフレイム家のみでウィザードに対しては恨みがないらしい。

 そこは立派だ。

 しかし、彼らがいくらこんな事を続けたところで何も問題は解決し無いのだ。

 ファングは、少し視野が狭い。


 アルバートは、ファングの方を向いた。

 そして尋ねる。


「君が求めるのは、サンフレイムへの復讐か?」

「あん?」


 ファングは、アルバートを睨みつける。

 すると、盗賊団もこちらを見つめた。

 ファングは、ニヤリと笑いながら答える。


「復讐だぁ? くだらねぇ! 俺の目的はそんなもんじゃねぇ!」

「ほう」


 アルバートは、予想が外れて少し驚いた。

 ファングは、後方の盗賊団を一瞬チラリと見て言った。


「俺の目的は、コイツらが何不自由なく暮らせるようにすることだ!」

「なんと」

「その為に、貴族どもから金品を奪ってんだぜ!」

「……」

「いずれ俺らは、一大勢力を作る! そうすれば、二度と貴族は俺らに手を出せねぇ」

「それは、無理だね」

「はぁ?」


 予想は外れたが、やはりファングの視野は狭かった。

 彼は、仲間思いの親分肌の男なのだ。

 どうやら、仲間を食わせるために盗賊をしているらしい。

 しかしこんなことをしていれば、やがて王国が本気で彼らを潰しに来るのは火を見るよりも明らかだ。


 彼は目の前の問題ばかりを見て、この王国が抱えている根本的な闇を見ていない。

 世界樹システムという闇を。


 世界樹がある限り、この王国は人々の命を生贄にして歪な形で延命し続けることだろう。

 世界樹を破壊しない限り、その闇の皺寄せはより弱い人間へと向かうのだ。

 世界樹維持のために、王国による圧政と搾取はこれから益々酷くなっていくのは目に見えている。

 これをなんとかしなければ、ファング達が安心して過ごせる日など永遠に来ない。


 アルバートは、口元に笑みを浮かべながら静かにファングに質問した。


「なあ、君はコイツらの親分なんだろ?」

「なんだ急に?」


 それを聞いてファングは、少し恥ずかしそうに仲間の方を見た。

 そして、頭を掻きながら言った。


「まあ、立場的にはそうだけどよ……」

「君は何人までなら、仲間の面倒を見れる?」

「あ? そんなん知らねぇよ!」

「でも、一大勢力を作るんだろ?」

「……」


 アルバートは、ファングを見つめた。

 そして、にこやかに告げた。


「君、もっと沢山の人の面倒を見る気は無いか?」


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