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第五十七話 王家の水路

 パペッティアから押収した魔具が消えた!

 武器庫に、押収品の確認をしに来た兵士が気付いて慌てた。

 兵士は急いで、事態を上層部へと報告する。

 すると、たちまち城内は騒然とした。


 兵士達が、城内に異常が無いかを確認して回る。

 すると……。


「大変です!! 地下牢に囚人がいません!!」


 一人の兵士が、叫んだ。

 その声を聞き付けて、王の間の入口からハルが現れた。

 複数の兵士達が、ハルの元に集まる。


「レオンハート隊長! 囚人が脱走しましたっ! 王の間に異常はありませんでしょうか?」


 慌てる兵士達を、ハルは冷静に見つめた。

 そして、きっぱりと告げた。


「この先には、怪しい人物など一人もいない!」


 彼女が言うと突然、中庭の方から誰かが叫んだ。


「脱走者がいたぞ!!」


 ハルの前に集結していた兵士達は、その声を聞いて慌てて中庭へと駆け出す。

 ハルは、走り去る兵士達を見送った。


 王城の中庭には、沢山の兵士達が集まっていた。

 彼らは、古びた井戸を取り囲んでいる。

 そこへ、兵士の群れをかき分けて一人の男が現れた。


「囚人は井戸の中へと入ったのか?」


 兵士の群れの中を、ヤギの頭蓋骨が進む。

 それに赤いフードを被った集団が付き従っていた。

 ハウンドが、騒ぎを聞いて駆けつけたのだ。


 兵士達は突然、緊張した様子で彼に道を開けた。

 そして、一人の兵士が報告する。


「三人の人物が、この井戸に飛び込む姿を確認致しました!」

「三人?」


 ハウンドは不思議そうな表情で、井戸を覗き込んだ。


「うーむ。この先は、王家の水路だ……。この水路の存在を知っているとは、いったい何者だ?」


 ハウンドは口角を下げて、空を見上げた。

 彼は、何かを考えている様子だ。

 すると突然、彼は振り返った。

 そして、天を仰ぎながら言い放った!


「お前達、狩りの時間だ! 獲物の生死は問わん! 存分に楽しむが良い!」


 彼は言うと、笑って背中から倒れた。

 なんと彼は、そのまま井戸の中へと落ちて行った。

 兵士達が驚いて、井戸に駆け寄る。

 すると兵士達を掻き分けて、赤い衣を着た魔術師達が次々と井戸に飛び込んだ。




 井戸の底から真横に、石造りの古い水路が伸びていた。

 ここは王国が建てられて間もない頃に、王家の緊急脱出用の通路として掘られたのだ。

 万が一この街が敵軍に包囲された場合、王はこの水路を使って裏の山へ逃げることができる。

 しかし、時代と共に国が安定していった為、この水路の役目は失われてしまった。

 やがて、人々の記憶からもその存在が消え去ったのだ。


 その為、現在この水路の存在を知る者は王と、その側近のみのはずだ。

 何故、脱走者がこの水路の存在を知っているのだ?

 ハウンドは考えながら、迷路のように複雑に入り組んだ水路を駆けた。


 すると突然、彼は横を向く。

 何かの気配を感じたのだ。

 横に伸びた細い通路の先に、マントで身を包んだ人物が一瞬だけ見えた。

 ハウンドは、ニヤリと笑って叫ぶ。


「奴らがいたぞ!」


 彼は心を躍らせながら、逃げる人物を追いかけた。

 彼の後方には、彼の直属の部下達が続く。


 すると彼らは、少し開けた空間に出た。

 目の前で、道がいくつにも枝分かれしている。

 地面には、足首が浸るくらいの水が流れていた。

 複数の通路から、水の上を駆ける足音が聞こえてくる。


「うーむ」


 ハウンドは、どの通路を進むべきか迷った。

 しかし、すぐに口元に笑みを浮かべる。


「この程度で、巻いたと思われては困るね!」


 ハウンドは、部下達に指示を出した。


「お前達! 必ず見つけ出せ!」


 彼が言うと、部下達はそれぞれバラバラの道に向かって走り出した。

 ハウンドは、真ん中の道へと向かう。


 彼らは、各々の道を走った。

 するとハウンドの走る道の奥から、水を蹴る足音が聞こえてくる。

 ハウンドは、ニヤついた。


「ここが正解か!」


 彼は、楽しくなってきた様子だ。

 興奮気味に、自分の体に魔法を掛けた。

 そして脚力を上げて、水路を一気に駆け抜ける!


「アハハハハハハッ!」


 水路に、彼の不気味な笑い声が響いた。

 段々と前方に、逃げる人物が見えてくる。

 遂に見つけた!

 ハウンドの興奮は、最高潮に達していた。

 彼は満面の笑みで走る。


 しかし、彼は突然違和感を感じた。

 逃げている人物は一人だ……。

 まさか、全員バラバラに逃げているのだろうか?


 しかも、逃げる人物の足取りは随分と軽やかだ。

 まるで、逃げるのを楽しんでいるかのように……。


 ハウンドは訝しがって、前方を走る人物を見つめた。

 何やら、マントの下に緑色の毛が見える。

 それを確認して彼は、急に右手を前方へ伸ばして唱えた。


「エアブラスト!!」


 彼が唱えると突然、強力な突風が発生!

 突風は、真っ直ぐと水路を駆け抜けた。

 そして、前方を走っていた人物に直撃する!

 すると……。


 なんと走っていた人物が、粉々に砕け散った!

 マントが地面に落ち、周囲には土塊や草が飛び散る。

 ハウンドは、崩れ去った人物に駆け寄った。


 彼は、地面に飛び散った土塊を拾い上げて確認する。

 そして、それを握り潰した。


「精霊か!」


 彼が追いかけていたのは、人の姿をした精霊さんだった。

 カミーリャが、精霊さんに頼んで囮になってもらったのだ。

 精霊さんは砕け散ったが、恐らく無傷で帰って行ったことだろう。

 ハウンドは歯を食いしばりながら、土塊を地面に投げつけた。


「クソッ!」




 一方その頃ロゼッタ達は、警備の手薄になった王の間の正面にいた。

 彼女達は、目の前にある巨大な石像を見上げる。

 どうやらこの石像は、初代ウィザードの王を模して造られたもののようだ。

 おもむろに、カミーリャが解説を始めた。


「これは、パペッティアが作ったゴーレムです!」

「ゴーレム!? これが?」


 ロゼッタは、言われて驚いた。

 カミーリャは、続ける。


「はい。元々ゴーレムはパペッティアの主力兵器だったのですが、ウィザードとの友好の証としてここに設置したのです」

「そうなのか……」

「本当は全ての部族を模したゴーレムが並んでいたのですが、随分前に壊されてしまいました……」


 カミーリャは寂しそうな顔で、ゴーレムを見上げた。

 そこへ、ファングが質問をする。


「で? 俺たちは、これから何をするんだ?」


 カミーリャは、爽やかな笑顔で質問に答えた。


「はい! ボク達は今からこれに乗って、正面突破します!」

「正面突破!?」


 ロゼッタとファングは驚く。

 そしてロゼッタが、恐る恐る尋ねた。


「それは、ちょっと無謀すぎないか?」


 しかし、カミーリャは真剣だ。


「すぐに、王の猟犬が戻ってきます。王都を脱出するには、正面突破しかありません!」

「おもしれぇ!」


 どうやらファングは、この計画が気に入ったらしい。

 彼は体の前で、左手のひらに右の拳を打ち付けた。


 ロゼッタは、巨大な石像を見上げた。

 そして、生唾を飲み込む。

 今から、自分がこれを動かすのだ。

 果たして、大丈夫なのだろうか?


 緊張するロゼッタの背中に、カミーリャは優しく手を添えた。


「大丈夫ですよ。ボクが、サポートします!」


 ロゼッタは、カミーリャの顔を見て頷いた。

 そして、自分を鼓舞するために言い放った。


「やってやろうじゃないか!! 正面突破、決行だ!!」


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