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第五十六話 脱獄


「まあ、こんな所だ!」


 ファングが、この王国と世界樹の始まりについての歴史を全て話し終えた。

 ロゼッタは頷く。


「なるほどな……。だが肝心の魔王は、どうやって生まれたのだ?」

「あん?」


 ファングは天井を見上げて、頭を掻いた。

 そして、雑に返事をした。


「んなもん、知るかよ! パペッティアが起動した、世界樹の防衛反応の影響じゃねぇの?」

「そうか……」


 ロゼッタは、少しがっかりした。

 仲間を解放するヒントが得られると思ったのだが、ファングも世界樹の細かい仕組みまでは知らないらしい。

 彼女が落ち込んでいるのを見て、ファングが補足した。


「話によると、パペッティアの族長は死ぬ直前に世界樹の防衛装置を全て起動したらしい。魔王や魔物も、恐らくパペッティアが用意した防衛装置だ……」


 するとファングは、ロゼッタをしっかりと見つめた。

 そしてニヤリと笑みを浮かべ、続ける。


「つまりパペッティアなら、その防衛装置に糸を繋げて全て解除できるっつう事よ!」

「!」


 ロゼッタは顔を上げて、ファングを見た。

 彼女の目に希望が宿る。


 ファングは、得意気な顔だ。

 そんな彼に対して、ロゼッタは笑顔で言葉を発した。


「お前見かけによらず、頭が良いんだな!」

「おうよっ! ……ん? いや待て、どう言う意味だ?」


 ロゼッタは希望を抱いた。

 そして、牢屋の中をぐるぐると歩き回った。

 パペッティアの力を使えば、もしかすると仲間を救えるかもしれない。

 その為にはこの地下牢を出て、再び世界樹の頂上へ向かわなくては……。


 しかし、問題は山積みだ。

 まず、どうやって王都を出るのか?

 恐らく周囲は厳重な警備が敷かれている。

 しかも、ハウンドもいるのだ。

 彼の追手から、どうやって逃げ切れば良いのか。


 そして世界樹にたどり着いたとして、どうやって頂上を目指すのだ?

 前回は、仲間がいたから何とかなった。

 しかし、あの過酷な旅に一人で挑もうものなら、命がいくらあっても足りない。

 仲間が必要だ……。


 ロゼッタは、ファングを見た。

 彼は頭を掻きながら、大きなあくびをしている。

 何だか怪しい奴だが、仲間にすれば頼りになるかもしれない。

 今は猫の手も借りたいくらいなのだ。

 他に当てもないし、贅沢は言っていられない状況だ。

 彼女はそう思い、ファングに声を掛けた。


「なあ!」

「手を組みたいってか?」

「なぬ!?」


 間髪いれない返答に、ロゼッタは驚いた。

 ファングに、先読みされてしまった。

 ファングは、ニヤリと笑ってロゼッタを見る。


「状況から、普通に予想出来るだろうがよ!」

「お前……本当に、見た目からは想像出来ないくらい頭がキレるな……」

「うるせぇ!」


 ファングは、立ち上がって背伸びをした。

 そして、ロゼッタに告げる。


「ここを出るまでの間なら、力を貸してやっても良いぜ!」

「本当か!」

「ただし!」

「?」


 ファングは、目を閉じて顔を上げた。

 そして、鼻をひくひくと動かす。


「余りにも警備が多すぎるな、命懸けだぜ!」


 ロゼッタは考えた。

 彼女はパペッティアの魔具を、全てハウンドに押収されてしまったのだ。

 自分は戦力にならない。

 もしかしたら、途中でファングに見捨てられてしまうかもしれない。

 どうしたものか……。

 彼女が考えていると、地下牢の出入り口で人の声がした。




 地下牢の出入り口では、騎士団の隊員が一人で守衛をしていた。

 彼は先程まで姿勢を崩していたが、急に姿勢を正す。

 通路の向こうから、誰かがこちらに向かって歩いて来るのが見えたのだ。

 向かってくる人物を見て、守衛は驚きの声を上げた!


「レ、レオンハート隊長!?」


 向かって来たのは、ハルだ。

 彼女は背後に、フードを深く被った女を引き連れていた。

 女は、両手を体の前で縛られている。

 守衛は、緊張した面持ちで声を掛けた。


「レオンハート隊長! いかがなされました?」

「なんだ、聞いていないのか?」

「……」


 守衛は困惑した。

 特に、何も連絡を受けていなかったのだ。

 ハルは、背後の女を守衛に見せて言った。


「囚人を連行して来たのだが?」

「囚人?」


 守衛は、突然の出来事に困ってしまった。

 そして、声を震わせながら答える。


「し、しかし……何の連絡も受けておりません……」

「なに!」


 ハルは、守衛に鋭い視線を向けた。

 守衛は恐怖のあまり、冷や汗を流す。


「私からの連絡が届いていないのか! いったいどうなっている!」

「いえ、あの……はい! 申し訳ございません!」


 守衛は、怖気付いてしまった。

 そんな彼に、ハルが告げた。


「私も忙しいのでね、通してもらうよ」


 ハルは言うと、緊張で硬直してしまった守衛の横を通って地下牢へと入っていった。




 地下牢の扉が開き、一瞬暗い通路に光が差し込んだ。

 しかし、すぐに扉は閉じられ、再び薄暗くなる。

 ロゼッタとファングは、警戒した。


 すると、出入り口の方から誰かが近付いてくる足音が聞こえた。

 そして突然、通路に声が響く。


「ロゼッタはいるか?」

「!?」


 ロゼッタは、声に反応して一瞬驚いた。

 聞き覚えのある声だ……。

 ロゼッタはひとまず、鉄格子から手を振ってアピールした。


「ここだぞ!」


 すると、通路から足音が近づいてくる。

 やがて暗がりから、足音の主が姿を現した。

 ハルだ。


 彼女は、ロゼッタの姿を見て安堵した様子だった。


「ロゼッタ……無事だったか……」

「ああ……」


 ロゼッタは、複雑な表情でハルを見た。


「まさか、お前の姿を見て嬉しくなる日が来るとはな……」

「そう言ってもらえて、光栄だよ」


 ロゼッタは、鉄格子を掴んで少し揺さぶった。


「早速で悪いが、ここから出してくれ!」

「……」


 それを聞いて、ハルは少し俯いた。

 そして突然、彼女はロゼッタを見つめた。


「すまない……それは出来ない……」

「なんだと!」

「私は王国に仕える騎士なのだ……。直接、脱獄に手を貸すことは出来ない……」

「おい! さっきの喜びを返してくれ!」


 ロゼッタは、不貞腐れた。

 すると、ハルが続けた。


「”私は”手を貸せないが、彼女がどうするかについては目を瞑ろう」

「ん?」


 ハルが言うと、彼女の背後からフードで顔を隠した女が現れた。

 女は、静かにフードを脱ぐ。

 すると……。


「ロゼッタさん! お帰りなさいませ!」


 頭にメイドのヘッドドレスを着けた女が姿を現した。

 女の正体は、カミーリャだ。

 ロゼッタは、驚いた。


「カミーリャ! どうしてここに!?」

「話せば長くなるのですが、色々な方のお力添えでたどり着くことが出来ました!」


 カミーリャは言いながら、ポーチからテディを取り出した。

 ロゼッタはそれを見て、信じられないと言った様子で目を丸くした。

 そして彼女は、テディを受け取る。

 カミーリャは、静かにささやいた。


「ボクと隊長さんで、奪い返してきましたよ!」

「二人で!?」


 ロゼッタは、ハルを見た。

 するとハルは、明後日の方向を向いて呟いた。


「さあ……何のことかな?」


 ロゼッタは、テディを見つめた。

 そして突然、叱るようにテディを睨みつけた。


「悪い子だ! わたしの素性をバラしおって!」


 彼女がテディを叱っていると、今度はファングが声を掛けてきた。


「よお! ガールズトークは終わったか? そろそろ、こっから出ようぜ!」


 女子三人が、ファングを見る。

 するとカミーリャが、ロゼッタに尋ねた。


「誰ですか? あの悪そうな人?」

「あ? 誰が、悪そうだって! 噛みちぎるぞ!」


 ハルはその様子を見て、ロゼッタが既にファングと話をつけているのを察した。

 彼女は呆れる。

 そして、ロゼッタに向き直った。


「ロゼッタ……私に出来る事はここまでだ。ただ、これだけは言わせてくれ……」

「……」

「君は、私の大切な友達だ!」


 それを聞いてロゼッタは、ハルに対して舌を出した。


「ベー。敢えて面と向かって言うな、馬鹿者!」

「フッ」


 ハルは、彼女の変わらぬ態度に対して軽く笑ってしまった。

 失笑するハルに、ロゼッタは笑顔で返す。


「ありがとな、ハル」


 ハルは頷く。

 そして少し後方に下がり、全員に対して告げた。


「それでは、私はこれで失礼致します。皆様お達者で!」


 彼女は言うと、一人で出入り口の方へと戻って行った。

 残された三人は、静かに彼女の背中を見送った。




 その後、カミーリャが牢屋の鍵を開けてくれた。

 ロゼッタとファングは、解放される。

 しかし、ここからが大変だ。

 騎士団に見つからないように、慎重に行動しなければ……。


「おいっ!」


 突然、ファングが叫んだ。

 彼の声は、出入り口の外からだ。

 彼は気付かぬうちに、出入り口を開けて外に出ていたのだ。

 しかし、外には守衛がいるはずだが……。


 ロゼッタとカミーリャは、急いでファングに駆け寄った。

 そして、彼の視線の先にあるものを見た。

 なんと、守衛がいびきをかいて眠っている。

 その様子を見ながら、ファングがニヤリと笑った。


「あの女騎士。手を貸せないとか言いながら、ちゃっかり手助けしてんじゃねぇか!」


 ファングは言うと突然、目を閉じた。

 そして、耳を澄ませる。

 彼は、周囲の音を確認していた。

 やがて彼は、静かに目を開けて叫んだ。


「ハッ! コイツはおもしれぇ! どこもかしこも、いびきだらけだぜ!」

「隊長さん、やりますね!」

 

 カミーリャは感心した。

 そんな彼女の言葉を聞いて、ファングは急に真面目な表情になる。

 そして彼は、二人の方を見た。


「まあ、雑魚はどうでもいい。問題はハウンドだぜ……」

「大丈夫です!」

「?」


 突然、カミーリャが口を挟んだ。


「王の猟犬は、ボクが対策をしておきました!」

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