第五十五話 建国記念日
サンフレイム家の当主は、首都の見回りをする事を日課としていた。
彼は以前、同盟軍とウィザードの架け橋となる大切な役目を担ったのだ。
本人はその事を、大変誇りに思っていた。
その為こうやって、様々な部族が共に暮らす首都の様子を見守る事が彼の喜びだった。
彼はいつものように、二人の従者だけを連れて大通りを歩く。
大通りは日に日に発展し、賑やかになっていた。
その大通りを、様々な部族の住人が行き交う。
彼はその様子を、大変満足そうな表情で見渡していた。
すると突然!
「グッ!」
サンフレイ家の当主の男は、胸部に違和感を覚えた。
彼は、自分の胸に手を当ててみる。
すると、手に生ぬるい液体が付く感覚があった。
彼は、自分の手にこびり付いたものを確認した。
血だった……。
どこからか、攻撃を受けた!
彼がそう思った、次の瞬間!
「死ね!! ウィザード!!」
どこから現れたのか、獣の皮を被った数人の男達が襲いかかってきた!
サンフレイム家当主は、杖を抜くが間に合わない!
男達は、金属製の鉤爪で当主の喉を引き裂いた!
後方にいた従者の二人も、殺される。
その様子を、複数の人間が目撃していた。
辺りには悲鳴が響き渡り、人々はパニックになる。
その混乱に紛れて、獣の皮を被った男達は行方を眩ました。
獣人族が、ウィザードを殺害した。
そんな噂が、瞬く間に首都を駆け巡った。
首都に住むすべての住人は、真偽不明の情報に右往左往した。
街全体が、恐怖に陥る。
これを受けて、各部族の族長は宮殿に集まり会議を開いた。
彼らは円卓に並ぶ。
すると突然、獣人族の族長がテーブルを激しく叩いた!
「ワシらはやっておらん!! 獣人族は、こんな卑怯な真似などせんわ!!」
すると、ウィザードの王が反論した。
「しかし、獣人が犯行に及ぶ姿を複数の人間が目撃しているのですぞ! しかも、遺体には鋭い爪痕がハッキリと残っている。これは、獣人族の仕業としか思えん!!」
「なにを抜かしおる!!」
「それに!」
ウィザードの王は、鋭い目つきで獣人族の族長を睨んだ。
「貴公は、我々ウィザードを恨んでおいでだ。過去に、その様な発言があったと聞いているが?」
「なんじゃとぉ?」
獣人族の族長はテーブルに登り、鼻息を荒くしながらウィザードの王を指差した。
「おう! ワシは本心では、お前らの事が大嫌いじゃ!!」
獣人族の族長は、今にも殴りかかりそうな様相だった。
議場に、殺伐とした雰囲気が漂う。
見かねて、いがみあう二人をパペッティアの族長がなだめた。
「二人とも落ち着くのだ。きちんと証拠を揃えて、真実を明らかにしよう。憶測で物事を語ってはいかんよ」
彼女が言った、次の瞬間!
議場に、男が駆け込んできた。
男は、呼吸を乱して慌てている様子だ。
議場の皆は何事かと思い、立ち上がる。
すると、男は叫んだ。
「た、大変です!! 獣人族の館が燃えております!!」
「何っ!?」
会議は中断され、族長達は獣人族の館へと駆けつけた。
大きな館が、炎に包まれている。
獣人族の族長は、慌てて近くの者を掴まえた。
「お、おい! 何があった!! ワシの妻と子供達は?」
族長に掴まった男は、顔を伏せた。
そして、言った。
「族長、申し訳ございません!!」
族長は唖然とする。
そして、燃え盛る館に目をやった。
館は、音を立てて崩れ落ちていく。
「嘘だああああああああああ!!」
彼は叫びながら、炎に飛び込もうとした!
それを、魔剣士一族の長が止める。
「馬鹿野郎! アンタも死ぬ気か!」
「うわあああああああああああ!!」
周囲には、悲痛な叫び声が響き渡った。
館の火事の原因は、放火だった。
犯人は不明。
恐らく先日の事件を受けて、ウィザードが報復を行なったものと推測された。
ウィザードと各部族の間に、再び亀裂が入り始めたのだ。
首都では疑心暗鬼になった人々が、頻繁に揉め事を起こし始めた。
それをパペッティアや、魔剣士一族が対応する。
ウィザードの王は襲撃を警戒して、厳戒態勢で館に籠ってしまった。
獣人族は、怒りに震えながら一斉に首都を出ていった。
同盟軍の結束も、崩れ始める。
パペッティアは事態を乗り越えるために人々に結束する事を説いて回ったが、残念ながらその言葉は人々の心には届かなかった。
不安に陥った部族達は、次から次へと首都を後にして行ったのだ。
次第に、首都から人が消えていった。
パペッティアの族長は、崩壊を始めた理想郷を哀しみの表情で見つめていた。
ある日、魔剣士一族の長の元に、レインドロップ家の当主が訪れた。
彼らは、テーブルを挟んで対談する。
するとレインドロップ家の当主が、突如言い放った!
「あなた方も、この街を出て行くがよい」
「何ですと!?」
魔剣士一族の長の背後で、従者が剣を抜いた。
しかし、レインドロップ家当主は落ち着いている。
「あなた方は、まだ自分達の立場が分かっておられないようだ」
「……」
「既に貴公らは、我々ウィザードに包囲されているのだよ」
「お前……」
魔剣士一族の長が、怒りの表情で立ち上がった。
レインドロップ家当主は、涼しい顔で続ける。
「我々は、もう負けない。世界樹を手中にしたのだ。賢い貴公ならば、これがどの様な状況か分かるはずだ」
「クソッ!」
「命だけは助けてやる。即刻この地を立ち去れ!」
「……」
魔剣士一族の長は、力なく項垂れた。
レインドロップ家当主は、笑みを浮かべてその様子を見る。
「残るは、パペッティアだな……。奴らを追い出し、この街は王都として生まれ変わるのだ!」
彼らが対談をしている頃、パペッティアの族長は世界樹の頂上を訪れていた。
彼女は従者と、数人の仲間、そしてドールを引き連れて供物を捧げに来たのだ。
族長が神殿に近づく。
すると突然、若いパペッティアの男が族長に提案した。
「族長! この世界樹を破壊しましょう! きっと、ウィザードの連中はこの樹を独占しますよ!」
「……」
族長は、空高く生い茂った世界樹の葉を見上げた。
「すべての部族が共に生きる未来……。我々が目指した未来は、来なかったのだな……」
彼女は、提案した若い男を見た。
そして、頷いた。
「分かった。破壊しよう!」
彼女が言った瞬間!
後方から、男の声がした。
「破壊されては困るよ!」
「!?」
族長が振り返ると、後方からウィザードの王が率いる部隊が迫って来ていた。
パペッティア達は警戒する。
すると、ウィザード達が杖を構えた。
「やっと、目障りなパペッティアが消えると思うと、清清するね!」
「なに!?」
パペッティア達も、魔具に手を掛けた。
しかし……。
「無い!?」
全員、全身を確認した。
持って来たはずの、魔具が消えている。
そうかと思うと、今度は……。
バタンッ! バタンッ!
連れてきたドールが、急に意識を失って倒れた!
彼らは、突然の出来事に困惑する。
すると、彼らの背後から弱々しい声が聞こえた。
「……申し訳……ありません……」
彼らが声の主に視線を送ると、そこには族長の従者の男がいた。
彼は、手に沢山のパペッティアの魔具を持っている。
皆が気づかないうちに、こっそりと奪ったのだ。
ドールが活動を停止したのも、彼の仕業だ。
族長が、彼に叫んだ!
「ドレイク! 何の真似だ!」
「申し訳ありません! 脅されたんです!」
それを聞いて、ウィザードの王はニヤリと笑った。
「大義であったぞ! 貴様の身の安全は、私が保障しよう!」
彼が言うのを聞いて突然、パペッティアの族長は神殿の中へと駆け出した!
ウィザードの王が慌てる!
「逃すな! 撃てっ!」
王の率いる部隊は、魔法を一斉発射!
パペッティア達は、次々と撃ち抜かれて倒れた。
ドレイクは、物陰に隠れて震える。
神殿の奥では、パペッティアの族長が魔力の糸を天井に接続していた。
彼女は、世界樹を制御するシステムにアクセスする。
咄嗟に世界樹の防衛システムを全て起動しながら、起爆の指令を送ろうとした。
その時!
「ウッ!」
突然、彼女の体を魔法が貫いた!
彼女は、吐血して振り返る。
すると目の前に、ウィザードの王が杖を構えて立っていた。
族長は、膝から崩れ落ちる。
王は、彼女の額に杖を当てた。
「今日はめでたい日だ。今日を、我が王国の建国記念日としよう!」
「……」
王が言うと、族長が彼を睨みつけた。
そして呟いた。
「我らの恨みが、貴公らの王国を呪うであろう……」
王は彼女の言葉を鼻で笑い、静かに魔法を発射した。




