第五十一話 地上へ
「クリフ……苦しい……」
ロゼッタはクリフの握力で、どんどん締め上げられていく。
彼女は、なんとか逃げ出そうともがいた。
すると、クリフが呟く。
「ロゼッ……ロゼッタ……ニゲロ……」
ロゼッタは、彼の言葉に一瞬驚いた。
その瞬間!
クリフが突然、大きな窓の方へと駆け出した!
彼はロゼッタを連れたまま窓をぶち破り、外へと飛び出す。
そして、叫んだ!
「ウオオオオオオオオオオ!」
クリフは助走をつけて、ロゼッタを宙へ投げ飛ばした!
物凄い力だ!
恐らく彼の体は、闇魔法で強化されているのだ。
ロゼッタの体は、天高く舞い上がった。
そしてやがて、彼女は重力に従って落下する。
下には、雲の海が広がっていた。
なんと彼女は、頂上の広場から投げ出されてしまったのだ!
「うわああああああああああ!」
彼女は、どんどんどんどん地上へと向かって落下する。
物凄い、風圧だ!
このままでは、落下死してしまう!
彼女は一瞬考え、咄嗟に叫んだ!
「ツイスタアアアアアアアアア!」
彼女はツイスターを取り出し、天に掲げる。
すると、ツイスターは大きな翼を広げた。
突然、落下速度が緩やかになる。
彼女はツイスターでグライドしながら、ゆっくりと降下した。
どうやらこれで、落下死は免れそうだ。
しかし残念ながら、どこにも着地できる場所がない。
このまま、地上へ行くしかないのか……。
彼女は、しばらく空中を漂った。
すると、やがて地上が見えてくる。
遠く下の方に、小さな村が見えた。
彼女は、その村を目掛けてゆっくりと降りて行った。
そして彼女は、村の外れに着地。
遠くから村人が、驚いた様子で駆け寄って来た。
その光景を見て、彼女は突然緊張が解けた。
そして、急に気を失って倒れてしまった。
「タスケテクレ! ダレカ、タスケテクレ!」
どこかで、誰かが助けを求める声がする。
この声は……ワン?
ロゼッタは声を聞いて、ハッとして目を覚ました。
目の前には、知らない天井が見える。
彼女は、小さな家のベッドの上に横たわっていた。
どうやら落下後、村人によって搬送されたらしい。
頭が少し、ぼーっとしている。
全身には、疲労を感じる。
しかし、彼女は仲間の事を思い出し、無理矢理起きあがった!
その時!
「やあ、目が覚めたかい?」
ベッドの真横で声がした。
彼女は、声のした方向に顔を向ける。
すると突然、ヤギの頭蓋骨と目が合った。
ロゼッタは動揺した。
赤い衣に、ヤギの頭蓋骨……。
コイツ、王の猟犬だ!
なぜ、王の猟犬がここに!?
動揺する彼女を見て、ハウンドはニヤリと笑った。
「世界樹から女の子が落ちてきたと、村人から通報を受けてね! 急いで駆けつけたよ!」
ロゼッタは警戒した。
ここは、何も知らないフリをして切り抜けなければならない。
しかし……。
ハウンドは続けた。
「フレイヤは残念だったね……まさか、魔王が反射魔法を使うとは……」
「!?」
「まあ、彼女の代わりなどいくらでもいるし、正直私にはどうでもいい事だがね」
どう言うことだ!?
あの場所に、この男はいなかったはずだ。
なぜ、フレイヤと魔王の事を知っている!
ロゼッタは、混乱した。
その様子を見て、ハウンドはニヤリと笑いながら続けた。
「そういえば、自己紹介が遅れたね……私はヘル・ハウンド。言わずと知れた、王の猟犬だ!」
「あの……」
ロゼッタが、言葉を挟もうとした瞬間!
「君はロゼッタだね! ずっと探していたよ!」
ロゼッタは突然の発言に、言葉を失った。
ハウンドは、全てを知っている!
いったいなぜ?
心を読まれているのか?
ハウンドは、動揺するロゼッタの姿を見て楽しんでいる様子だ。
彼は、ロゼッタを見据えた。
「なぜ知っているんだ、とでも言いたげな顔だね!」
ハウンドは言うと、マントの中から何かを取り出した。
彼は、取り出したものをロゼッタに見せる。
「彼が、全てを教えてくれたんだよ!」
ハウンドの手には、テディが握られていた。
テディが、教えてくれた?
いったい、この男は先ほどから何を言っているのだ?
ロゼッタは、ハウンドが言っている事の意味が分からなかった。
彼女は視線を逸らして、咄嗟に言い訳を考えた。
「な、何を言っているのだ……それは、ただのぬいぐるみだぞ……」
ハウンドは、益々笑顔になった。
そして、言った。
「私には分かるよ。これは、パペッティアの魔具だ!」
ロゼッタの全身に緊張が走った!
自分が、パペッティアであることがバレている!
このままでは、連行されて処刑されてしまう。
どうにかして、逃げ出さなくては!
彼女が考えていると、玄関から赤い衣を着た人間が数人入ってきた。
ハウンドの部下達だ。
どうやら、逃げ場はないらしい。
ハウンドも、ゆっくりと立ち上がった。
そして、静かに告げた。
「どうして、テディの言葉が分かるか知りたいか?」
次の瞬間!
彼は、信じられない事実を告白した!
「私も、パペッティアだからだよ」




