表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/94

第五十話 魔王

 片腕の貴族の男は、膝から崩れ落ちた。


「そんな……計画は失敗だ……」


 騎士達も狼狽えていたが、突然一人の騎士が叫んだ。


「だ、大魔道士様をお守りせよ!!」


 騎士達は声を聞いて、我に帰った。

 そして駆け足で、凍結したフレイヤの前に集まる。

 彼らは陣形を組み、神殿の奥に立っている男に杖先を向けた。


 男は、ゆっくりと騎士達に近づいてくる。

 すると、一人の騎士が叫んだ!


「撃てっ!」


 その掛け声と同時に、騎士達は魔法を一斉発射!

 魔法攻撃が、男の元へと一直線に向かう!

 しかし、次の瞬間!


 先ほどまで男へと向かっていた魔法攻撃が、急に反転して騎士達へと戻ってきた!

 騎士達は、自分自身が発射した魔法に襲われる!


 ドドドドドドッ!


 騎士達は、次々に魔法に撃ち抜かれて倒れていった。

 そして彼らを貫通した魔法が、凍結したフレイヤをも襲った。


 バリンッ!


 フレイヤは流れ弾に撃ち抜かれ、崩れ落ちる。

 片腕の貴族の男が、青ざめた。

 全滅だ。

 自分を残して、部隊は全滅した。


 貴族の男は慌てて立ち上がり、神殿の出口へと走った。

 恐怖のあまり、足がもつれる。


 神殿の奥にいた男は静かに杖を構え、逃げる貴族の男に照準を合わせた。

 そして、闇魔法を発射!

 男が放った魔法は、目にも止まらぬ速さで飛行し、逃げる男の背中を襲った!

 貴族の男は、背中から血飛沫を上げて倒れる。


 それを見て、神殿の奥の男はゆっくりと杖を下ろした。

 その時!


 神殿の入口から、何かが高速で男に接近した!

 男は咄嗟に杖を構えるが、間に合わない!

 何かが男の腹へと突っ込み、男は神殿の奥の壁へと吹き飛ばされた!


 男に衝突した飛行物体は、神殿の天井からゆっくりと降りてくる。

 その正体は、テディだ。

 降りてきたテディを、ロゼッタがキャッチする。


 クリフとカトレアが、倒れた騎士達を確認していた。

 全員、既に息絶えている。

 ロゼッタは、凍結して崩れ落ちたフレイヤを見た。


「そんな……」


 彼女が呟くと、神殿の奥から唸り声が聞こえた。


「ク、クルナ……ウソダ……」


 神殿の奥で、男が立ち上がる。

 男は、全身に禍々しい闇の魔法をまとっている。

 恐らく、この男が魔王に違いない。


 ワンが、ロゼッタの横に進み出た。


「アイツ、騎士達の魔法を反射したように見えたぜ!」


 ロゼッタは頷く。


「うむ。だが、テディの攻撃は通った!」


 カトレアも、ロゼッタの隣に並ぶ。


「つまり、遠距離からの魔法だけを弾き返すってことね!」


 クリフも、彼女達の横に並んだ。


「これは俺達にとって、うってつけの敵って事か! 魔法が効かないのなら……」


 ロゼッタとクリフとカトレアの三人は、同時に言い放った!


「直接殴る!!」


 ワンは、冷ややかな目で三人を見つめた。


「お前達……長い時間、クリフと一緒に居すぎたな……」


 すると、突然!

 魔王が杖を構え、闇魔法を撃ってきた!

 ロゼッタ達は、散開する。


 ドーーーーーン!


 闇魔法が、地面で炸裂!

 爆発地点には、爆煙が立った。

 クリフは魔王の右側に回り込み、ロゼッタとカトレアは左側に回り込んだ。


 魔王は、左右に気を取られる。

 すると突然、正面の爆煙から何かが飛び出した!

 テディだ!


 テディは、魔王に急接近する!

 魔王は、テディに気付き回避。


「疾風モード!」


 テディに気を取られていた魔王に、クリフが襲い掛かった!


「更に唱える! 我が拳は鋼となる!」


 クリフは、魔王に連続パンチを打ち込む!

 だが、魔王の身体能力も高い。

 パンチが、次々に回避される。


 しかし……。


「後ろが、ガラ空きよ!」


 魔王はクリフの攻撃に集中していて、背後を疎かにしていた。

 カトレアが、魔王の背中に手のひらを当てる!

 次の瞬間!

 魔王の全身に、衝撃が走った!

 カトレアが強力な魔力の波動を、直接魔王の体に流し込んだのだ!


「グワアアアアアアア!!」


 魔王は叫んだ!

 そして、フラつきながら周囲を警戒する。

 どうやら、まだ戦えるらしい。


 ロゼッタ達は、すかさず追い討ちを掛けようとした。

 その時!


「ウオオオオオオオオオオオオ!!」


 魔王が再び、叫んだ!

 周囲に衝撃波が走る!

 ロゼッタ達は危険を感じ、一度引いた。


 魔王の周囲には、先ほどにも増して強力な魔力が漂っている。

 魔王は何やら、力を解放した様子だ。


 すると、次の瞬間!

 突然、魔王の姿が消えた!


 ロゼッタ達は、周囲を警戒する。

 魔王はいったい、どこへ消えたのだ。

 ロゼッタが、周囲を見渡す。

 そして、叫んだ!


「クリフ!! 後ろ!!」


 クリフの後ろに、魔王がいた!

 魔王は、瞬間移動をしたのだ!

 魔王はクリフの頭に向けて、杖先を向けている!

 もう、回避が間に合わない!


 その時!


「俺様を忘れてもらっちゃぁ困るぜ!」


 突然ワンが、魔王の頭に飛び蹴りを入れた!

 魔王はよろめき、クリフに向けた魔法を外す!


 クリフはすかさず、よろめいた魔王の胴体に重いパンチを打ち込んだ!


「グハッ」


 魔王は血反吐を吐き、後退する。

 クリフが、ワンに声を掛けた。


「助かったよ!」

「おうよ! スピード勝負なら任せな!」


 ロゼッタ達は一度、集まって再び魔王に対峙した。

 クリフが、魔王に告げる。


「能力を上げても、俺達のチームワークには勝てないぞ!」


 魔王は、聞く耳を持たない。

 再び、瞬間移動をした。

 ワンが魔力の痕跡から、魔王の移動先を予測する。

 そして叫んだ!


「上だ!!」


 三人は、天井を見上げる。

 すると、魔王が空中からこちらに杖先を向けているのが見えた。

 次の瞬間、魔王が闇魔法を発射!

 先ほどよりも、速い!


 三人は再び散開し、攻撃を回避した。

 魔法の着弾地点に、魔王が着地する。


 ロゼッタは、テディを構えて魔王を見た。

 すると突然、カトレアが声を掛けてきた。


「ロゼッタちゃん! 私たちが、最初にやった連携技覚えてる?」

「連携技?」


 カトレアは、レイニーを指し示している。

 ロゼッタは、カトレアの考えを察した。

 そして彼女は頷き、レイニーを掲げた。


 すると、レイニーが魔王の足元に向けて高圧放水を開始!

 魔王を中心に、周囲が水浸しになる。


 そしてすぐさま、カトレアが膝をついて水に触れた。

 その瞬間、水溜りが一気に凍りついた!


 魔王は足元が凍りついて、動きが封じられる。

 そこへ、クリフが襲い掛かった!

 クリフは、ツルツルに凍った床を滑っている!

 速い! 彼は足も動かしていないのに、高速で氷の上を滑っている。

 彼の背後で、ツイスターが背中を押していたのだ!


 クリフは、助走をつけて魔王に体当たりする!

 

 「我が体は岩をも砕く!」


 しかし!

 魔王は、再び瞬間移動をした。

 なんと、易々と氷から脱出してしまったのだ。


 魔王はクリフの背後に現れ、床を滑り去って行くクリフの背中へと杖を向ける。

 その時!

 急に目の前を、燃え盛るサニーが横切った。

 炎の幕で、魔王の視界が遮られる。


 魔王が炎の幕に気を取られている間に、彼の脚に攻撃が入った!

 ワンの、飛び蹴りだ!


 しかも魔王の足元は、ツルツルの氷。

 魔王は盛大に滑って、強く背中を打ち付けた!


 それを見てすぐに、ロゼッタが叫んだ!


「今だ、テディ!! やれぇええええええええ!!」


 彼女が叫ぶと、高い天井からテディが急降下してきた!

 キラキラと輝くテディが、流星の如く魔王を目掛けて落下する!


 ドーーーーーーーン!


 テディは、魔王の腹へとめり込んだ。

 そして魔王は吐血し、そのまま再起不能となった。




 ロゼッタ達は、倒れた魔王の近くへと集まった。

 魔王の体は、蒸発するように少しずつ消えていく。


 クリフが言葉を発した。


「やったのか……俺たち……」


 カトレアが頷く。


「ええ、私たち魔王を倒したのよ!」


 ロゼッタは、消えていく魔王を見つめて立ち尽くしていた。

 なんだか信じられない。

 本当に、自分達は魔王を倒してしまったのだ。


 ワンが、ロゼッタの肩に乗る。


「やったな! これで俺様たち英雄だぜ!」


 ロゼッタが、笑顔で頷いた。

 その時!


 ワンが、急に天井を見上げた。


「何だ? 何かの魔力を感じるぜ……これは……」


 他の三人も、天井を見上げる。

 しかし、特に変わった様子はない。

 ワンには、何が見えているのだろうか。

 ワンはしばらく天井を見つめ、驚いた表情で続けた。


「これは! パペッティアの魔力の糸!」

「え?」


 三人が、驚きの声を上げた瞬間!

 突然、天井から禍々しいエネルギーを帯びた魔力の糸が伸びてきた。

 魔力の糸は高速で動き、クリフを襲う!


「ウッ!」


 複数の糸が、クリフの体に繋がった。

 クリフの体が、操り人形のように強制的に動かされる。

 クリフは、自分の意志で体を動かせない様子だ。

 彼の体は、糸に乗っ取られてしまったのだ。

 カトレアが、後退りをする。


「え? 何?」


 彼女が言った瞬間!

 今度は別の糸が、カトレアを襲った!

 カトレアも、体の自由を奪われてしまう。


 そして天井から、更に別の糸が降りてきた。

 その糸は、ロゼッタを狙って突き進む!

 ロゼッタは、動揺して転んでしまった。

 怯える彼女を、糸が襲う!

 その時!


 ワンが、彼女の前に飛び出した!

 するとなんと、彼が身代わりとなって糸に繋がれてしまった!


 ロゼッタはパニックに陥り、声が出せなかった。

 ただただ、体の自由を奪われた仲間の様子を見せつけられる。


 糸に繋がれた二人と一匹は、項垂れたまま立っていた。

 そして、彼らの周囲に闇の力が漂い始める。

 彼らは、次第に闇の魔法に飲み込まれていった。


 ロゼッタは立ち上がり、恐る恐る声を掛けた。


「……クリフ……姉さん……ワン?」


 二人と一匹は声を聞くと、ロゼッタの方を向いた。

 そして、突然!

 クリフが、ロゼッタに向かって突き進んでくる!


「ウグッ!」


 クリフはロゼッタの喉元を掴み、彼女を持ち上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ