第四十三話 翼
町の騎士団支部の個室で、ラークは部下の男からの報告を聞いていた。
ラークはデスクに着いて、真剣な表情で報告書に目を通す。
彼の目の前で、男が報告書を読み上げた。
「魔王教団を追跡していた部隊からの報告です。この部隊は、教団幹部の男の足取りを追跡していました」
「ふむ」
「結果から申しますと、幹部の男がハウンド家に頻繁に出入りしている姿が確認されたとの事です」
「やはりね……」
ラークは、手元を見つめた。
彼の手元には、別の調査報告も届いていた。
差出人は、ハル・レオンハート。
調査書には、王都での彼女による事件の調査内容が事細かに記されていた。
王国各地で、秘密裏に行われている人身売買の流通ルートの調査。
売買された人々の多くが、ハウンド家に集められているとの報告だ。
そして、ラーク達が追跡調査していた魔王教団も、最終的にハウンド家に辿り着いた。
全ての事件は、ハウンド家に繋がっている。
ラークは、考えた。
なぜ、王家に最も近いハウンド家が、王家に敵対する魔王教団を支援しているのか。
クーデターを企んでいるのか?
いや、違う。
王に特権を与えられた立場の人間が、わざわざそんな危険を犯す筈がない。
考えられるとすれば、恐らくは自作自演の為だ……。
ラークは、魔王教団による王都襲撃事件を思い出した。
この事件により、王都は多大な犠牲を払った。
しかし、これによって王家と大魔道士の遠征を支持する声は、一層増す事になった。
国民は打倒魔王の旗印の下に、より強固に結束したのだ。
実は、あの事件以前、王家の威信は失墜しつつあった。
あのまま行けば、近年増加の一途を辿っていた魔物による襲撃、疫病の蔓延、作物の不作等による人々の不満の矛先は、王家へ向かう可能性があった。
しかし、あの事件以降、王家に対して不満を言う者は魔王教団の関係者であると疑われるようになったのだ。
これによって王家が正義であり、それに歯向かう者は悪であるという構図が出来上がった。
もし、この推測が正しければ、ハウンド家の計画はかなり大それたものだ。
しかし、ハウンド家は長らくパペッティアの残党狩りという汚れ仕事を引き受けてきた一族だ。
彼らならば、このような大それた事を画策しても不思議ではない。
ラークは、部下の報告を聞き終えて書類をまとめた。
ふと、窓の外に目をやる。
外は既に日が落ちて、辺りは暗くなっていた。
彼は、部下に声を掛けた。
「随分暗くなってしまったね。遅くまでご苦労様」
部下は、姿勢を正した。
「いえ、職務ですので!」
彼は丁寧なお辞儀をすると、部屋の出口へと下がっていった。
彼も随分と若い。
この町は、本当に優秀な若い人材に恵まれているらしい。
ラークは、部下が部屋を出ていくのを見送った。
そして、羽ペンを取ってインク壺に浸した。
今回の件を、ハルに報告しなければならない。
ハルとラークの捜査網は分断されてしまっていたが、こうやって書簡による報告が続いていた。
魔法による遠距離通話、という手段もあった。
しかし、事が事なので、なるべく第三者に情報が漏れにくい紙での連絡を行なっていたのだ。
ラークは、紙にペンを走らせる。
トン、トン、トン。
突然、誰かが扉をノックした。
夜勤の隊員が、挨拶に来たのだろうか。
ラークは、扉の方へと声を掛けた。
「どうぞ、入ってください」
彼が言うと、扉がスッと開いた。
扉の向こうには、先ほど出て行った部下の男が立っている。
ラークが、心配して声をかけた。
「どうしたのですか?」
次の瞬間!
男は、口から血を吐いてパタリと倒れた。
背後から、フードで顔を隠した三人の人物が現れる。
ラークは、立ち上がって警戒した。
「何者だ!」
彼が叫ぶと、一人の男が進み出てフードを脱いだ。
フードの下からは、ラークの知っている顔が現れた。
以前、ロゼッタ達が倒した魔王教団のメンバーだ。
男は首元の刻印を、杖先で指し示して言った。
「わざわざ、名乗るまでもねぇよな!」
ラークは、驚いて問い詰める。
「お前達! どうやって留置所から脱走した!」
刻印の男は、ニヤリと笑った。
「脱走? いや、勘違いするなよ。俺たちに理解のある看守が出してくれたのさ!」
ラークは、一瞬考えた。
以前、ヘル・ハウンドが留置所を訪れたと言っていた。
もしかすると、その時に何か仕込んでいたのかも知れない。
彼が考えていると、男達はラークに杖を向けた。
「俺達の仲間が、騎士団に随分世話になったそうじゃねぇか!」
男達の構える杖先に、禍々しいエネルギーが集まる。
「今夜は、その礼をしに来てやったぜ!」
男は言うと、ラークへ向けて闇魔法を発射した!
魔法は、ラークへ向かって真っ直ぐと突き進む!
彼は丸腰だ。
バーーーーン!
魔法がラークに直撃!
そして、爆発した。
刻印の男は、口元に笑みを浮かべた。
しかし、次の瞬間!
男の口角が、急に下がった。
爆炎の中から突然、銀色の大きな壁が現れたのだ。
いや、壁ではない。
これは……翼?
男達は動揺した。
目の前に現れたのは、大きな鳥の翼だ。
大きな翼は、ゆっくりと広げられ、その中からラークが姿を現した。
なんと翼は、ラークの背中から生えている様子だ。
彼の黄色く輝く瞳が、男達を睨みつける。
「私は、ハル様の留守を預かっているのです。この場での無礼は決して許しませんよ」




