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第四十一話 奇襲

 クリフは、降りかかる鋭い爪を素手で捕らえた!

 ファングは驚いて、逆の手で追撃する!

 しかしクリフは、そちらも捕らえた。


 ファングは、逃れようとしてもがく。

 しかし、クリフはがっしりとファングの手を握って離さない!

 ファングは、クリフの胴体がガラ空きなことに気づき、蹴りを打ち込んだ!

 岩をも切り裂くような、鋭い蹴りだ!

 しかし……。


 ガンッ


 蹴りが、胴体に弾かれた!

 硬い!

 クリフの体が硬化して、まるで鋼のようだ。

 ファングの攻撃では、歯が立たないほど硬くなっている!


 クリフは戦いの中で、新たな技を編み出したのだ。

 鋼鉄モード。

 全身を一気に硬化して、防御力を極限まで上げる技だ。

 一度、疾風モードを解除するためスピードは落ちる。

 そのため本来、動き回る敵には使いずらいが、この距離まで接近してしまえばこっちの物だ。


 ファングは動揺する。

 クリフは、そんなファングを睨みつけた。

 そして唱えた!


「更に唱える! 我が体は火炎を宿す!」


 彼が叫ぶと、彼の体から蒸気が上がった。

 彼は、ファングの大きな手を握りつぶす!


 グキグキグキッ


 骨が折れたような音がした。


「アアアアアアアアアアアアッ!」


 ファングは、痛みのあまり悲鳴を上げる。

 クリフは、そのままファングを押して後退させた。


 ズリズリ……ズリズリ……。


 ファングは抵抗できずに、後退していく。

 そして、彼は膝をついてしまった。


 クリフは、それを見逃さなかった。

 彼は、今だとばかりに全身に力を込めた。

 そして一気に、ファングの体を持ち上げる!

 ファングの大きな体が、空中に浮いた!


 次の瞬間!

 クリフは、ファングの体を思いっきり地面に叩きつけた!


 ドンッ!


 ファングは、地面に倒れ伏す。

 クリフは、すかさず倒れたファングを横へ引き摺った。

 クリフは、体を回転させる。

 やがて回転の遠心力で、ファングの体が浮き上がった。


 クリフは、グルグルとファングを振り回す!

 だいぶ勢いが付いたところで、彼は両手を一斉に離した。

 するとファングは、勢い良く岩山へと飛んで行った。


 ドンッ!


 彼は岩山にめり込み、項垂れて動かなくなってしまった。




 一方その頃、ロゼッタとカトレアは土砂に埋もれた冒険者達を救出していた。

 ロゼッタが、手作業で岩を払い除ける。

 カトレアは後方で倒れた者達に触れて、魔法による治療を行なっていた。


 周囲に敵の姿は見えないが、土砂の壁の向こうからは爆発音が絶えず聞こえて来る。

 他の冒険者達は、仲間の救出作業に専念していた。

 何人かは土砂を超えて向こう側の応援に行ったが、多くは及び腰だった。

 それもそのはず。

 上空から止めどなく火の玉が降り注いでいる様子が、ここからでも見えたのだ。

 こんな危険な中に飛び込むなんて、恐ろし過ぎる。


 土砂の中からロゼッタが、冒険者を一人救出した。

 彼女は全身の力を振り絞って、救出した人物をカトレアの元まで引きずっていく。


 カトレアは怪我人が運ばれてくると、すぐに治療魔法を使った。

 彼女は治療をしながら、ロゼッタに語りかける。


「空から降ってくる火の玉を止めないと、全滅よ。一度、確認しに行きましょう」


 ロゼッタは頷いた。

 彼女は、周囲を見渡す。


 きっと、攻撃は岩山の上からだ。

 しかし、山が険しすぎて登る事が出来るところが無さそうだ。

 彼女は緩い坂を探してみるが、どこも絶壁だった。


「姉さん、どうやって登ろう?」


 ロゼッタが、困った表情でカトレアを見る。

 するとカトレアは、笑顔でウィンクした。


「任せて!」


 彼女はそう言うと、立ち上がった。

 突然、彼女は荷物から長いロープを取り出す。

 そして、断崖絶壁の方へと歩いて行った。


 いったい、何をするつもりだろう。

 ロゼッタは、不思議そうな表情で眺めた。


 カトレアは、ロープの先端を握る。

 そして、ロープに魔力を流し込んだ。

 すると、驚くべきことが起こった。


 ロープの先端が、まるで蛇のようにクネクネと動き出したのだ。

 ロープは、まるで意志を持ったかのように崖の上を目指して伸びて行った。

 グングン、グングン上へと伸びて行き、やがて崖の上に生えていた低木に結び付いた。


 カトレアはロープを何度か引っ張り、強度を確認する。

 そして、ロゼッタに手を振った。


「これで上に行けるわ!」


 ロゼッタはその様子を見て、感心した。


「やっぱり、姉さんの魔法は便利だな!」

「ふふっ。ありがと」


 二人はロープを使って、崖を登って行った。

 そして、すぐに上に到達する。

 そこからは、戦場が一望できた。


 谷の中は砂塵が舞っていて良く見えないが、沢山の人影がうごめき、魔法の光が飛び交っていた。

 谷に中央では、大魔道士が魔法障壁を張って攻撃を凌いでいる。

 そこへ向けて、崖の上から絶え間なく火の玉を撃ち込んでいる魔術師集団がいた。


 彼らの位置は、ロゼッタ達から遠くはない。

 しかし彼らは、ロゼッタ達の存在に気づいていない様子だ。

 更に、こちらの方が少し高い位置にいるようで、奇襲にはうってつけだ。


 ロゼッタとカトレアは、目を見合わせて頷いた。

 カトレアは、スリングショットを取り出す。

 ロゼッタは一瞬、テディに手を掛けようとした。

 しかし、思いとどまった。


 ここで、パペッティアの力を使うことはできないのだ。

 近くに、王の猟犬がいる。

 魔力の糸を使ったら、パペッティアであることがバレてしまう。

 彼女は役に立てない悔しさで、歯を食いしばった。

 そして、地面を見つめた。


 カトレアが声を掛ける。


「大丈夫よ。私に任せて」


 ロゼッタは、頷く。

 そして、こっそりと岩陰から魔術師集団の様子を窺った。

 五、六人の部隊が三つ展開している。

 彼らは、魔法に集中して周囲の警戒を怠っている様子だ。


 カトレアは、一番近い部隊に向かってスリングショットを向けた。

 彼女は、ビリビリと電気を放つ石を静かに発射。

 石は、魔術師集団の足元に着弾した。


「ん?」


 彼らが石の存在に気づいた時には、既に手遅れだった。

 電撃が広範囲に広がって、彼らを襲う!


「うわあああああああああ!」


 彼らは、パタリパタリと倒れた。

 しかし……。

 一人、攻撃を逃れた男がいた。

 その男は突然の攻撃に驚き、周囲を警戒した。

 そして、すぐにカトレアの姿を発見する。


 男は、カトレアを指差した。


「敵襲! てき……グハッ!」


 突然、男の頭に石が命中!

 男は、気絶した。


 カトレアは、驚いた。

 彼女が放ったのではない。

 男を倒したのは、ロゼッタだ!


 彼女は、素手で石を投げて男の頭に命中させたのだ!

 彼女の精密射撃能力は、伊達では無い。


 他の魔術師部隊は奇襲に気づいたようだ。

 しかし、ロゼッタ達の位置が分からない。

 彼らは谷底への攻撃を一時中断し、周囲を警戒した。

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