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第四話 テディ

 ロゼッタは、誇らしげだった。

 なんと憎らしい笑顔だろう。完全に一本取られてしまった。


「わたしを、冒険に連れて行ってくれ! そうすれば、毎日こんな料理を作ってやるぞ!」


 クリフは、両手を上げて降参した。


「負けたよ。確かに料理は激うまだった。それに正直、君を仲間に欲しいと思った」


 ロゼッタは、目を大きくして瞳をキラキラと輝かせた。

 しかし……。 


「でも、ダメだ!」

「え!?」

 

 クリフは、ロゼッタの仲間入りをキッパリと拒否した。

 ロゼッタは、どうしてだと言いたげな顔をしている。

 すると、クリフが説明した。


「冒険は危険だ。魔法が使えない女の子を連れ出すなんていう、無責任なことはできない」

「それなら大丈夫だ! 弓を持っていけばいい!」

「ダメだ。確かに君の弓の腕前は大したものだが、あれが魔物にも通用するとは思えない」

「でも……」

「それに、あの矢というやつが切れたらどうするんだ。あんなものは道中で調達できないだろう」

「……」

「残念だが、そう言うことだ。君を冒険に連れていくことはできない」


 ロゼッタは、俯いてしまった。

 可哀想だが、これが彼女のためなのだ。彼女は村で自分の能力を活かす方法を探した方がいい。

 そうだ、その方がいいのだ……。


「お願いです……」

「ん?」

「お願いだから、わたしを一緒に連れて行ってください……」


 ロゼッタは、泣いていた。

 彼女は涙をボロボロと流しながら、クリフを真っ直ぐと見ている。

 彼女は本気で冒険に出たいのだ。その気持ちが痛いほど伝わってきた。


「こんなわたし、こんなわたしでも、世の中の役に立つことを証明したいんです!」

「ごめん……」

「!!」

「他を当たってくれないか……」


 クリフは椅子から立ち上がり、出口へと向かった。


「スープ美味しかったよ。ご馳走様、そして……さようなら」


 クリフは、静かに立ち去った。

 パチパチと火の弾ける音の響く部屋で、ロゼッタは立ち尽くしていた。




 しばらくして、ロゼッタは暖炉の側に近づいた。

 丸焦げになってしまったイノシシ肉が、炉前に刺さっている。もったいない。

 ロゼッタは肉の焦げを削ぎ落として、食べられそうな部分だけをかじった。

 すると再び、彼女の目に涙が溢れる。


「おばあちゃん……わたしどうしたらいいの……」


 ロゼッタは暖炉の前にうずくまり、おばあちゃんのことを思い出した。

 小さい頃は、悲しいことがあると良く、おばあちゃんの膝の上に顔を伏せて泣いていた。

 そういえば、アカデミーでクラスメイトにいじめられた日も、そうやっておばあちゃんに泣きついたっけ。

 その椅子の上で。


 ロゼッタは、部屋の隅にある椅子を見つめた。

 かつての、おばあちゃんと自分の姿が蘇ってくる。


「おやおや……どうしたんだいロゼッタ、そんなに涙を流して」

「うっ……ぐすん……おばあちゃん……みんなが……みんながね、わたしのことをいじめるの……」


 幼いロゼッタは顔をくしゃくしゃにしながら、おばあちゃんの膝の上に顔を伏せていた。


「みんなが……みんなが、わたしのことを気持ち悪いって言うの!!」


 おばあちゃんは、ロゼッタの髪を優しく撫でた。

 ロゼッタは、おばあちゃんの温もりによって少し落ち着きを取り戻す。

 彼女は伏せていた顔を上げて、おばあちゃんを見つめた。


「どうして、わたしは魔法が使えないの! どうしてなの! おばあちゃん」

「ロゼッタや……たとえ魔法が使えなくてもね、お前はとても魅力的だよ」


 おばあちゃんは椅子から立ち上がり、ロゼッタを抱きしめた。

 そしておばあちゃんは、一度隣の部屋へ行き、何かを持って静かに戻って来る。

 おばあちゃんが手に持っていたのは、古びた木の箱だ。

 おばあちゃんは、ロゼッタに木の箱を見せながら言った。


「ロゼッタ……これはね、我が家に伝わる家宝だよ」


 ロゼッタは涙を袖でぬぐい、その箱を丁寧に受け取る。

 何やら、おばあちゃんは家宝を見せてくれるらしい。

 ロゼッタは、その古い箱を慎重にそーっと開けてみた。

 すると……。


「わぁ……かわいい」


 ロゼッタは、少し笑顔を取り戻した。

 箱の中に入っていたのは、可愛らしいクマのぬいぐるみだったのだ。


 おばあちゃんは、ぬいぐるみを静かに取り出して手をかざした。

 直後、おばあちゃんの手が微かに光る。

 そうかと思うと、なんと、おばあちゃんの指先から光の糸のようなものが伸び始めた。


 糸は、ぬいぐるみの頭や手足と繋がる。

 そして、ぬいぐるみは、ゆっくりと空中へと浮き上がった。

 すると、おばあちゃんが紹介する。


「この子はね、テディだよ。ほ~ら、ロゼッタにご挨拶をしてちょうだい」


 テディは空中に浮遊しながらも姿勢を崩さず、紳士のような丁寧なお辞儀をした。

 その後テディは、部屋の中を自由自在に飛び回り、回転をしたり、宙返りをしたりと、アクロバティックな技を披露した。


「すごい、すごい! どうやってるの?」

「ロゼッタにも、テディを動かす才能があるはずだよ」

「本当!? わたしもやってみたい!」


 おばあちゃんは、テディを静かにロゼッタへと手渡した。


「どうやるの? おばあちゃん!」

「ロゼッタの思うように念じれば、きっとテディは応えてくれるよ」


 思うように念じる。どう言うことだろう?

 ロゼッタは試しに、テディに、お空を飛んでほしいとお願いをしてみた。

 すると、テディを握っていた右手が微かに光ったような気がした。


 その直後!

 テディは、フワフワとゆっくりと空中へ浮き上がった。

 ロゼッタの指先から、テディの体へと魔力の糸が伸びている。


「できた! できた、できた、できた!!」


 ロゼッタは嬉しくなって、テディと一緒に部屋を駆け回った。

 初めて魔法が使えたのだ! こんなに嬉しい出来事は初めてだ!

 きっと、クラスのみんなに見せれば驚くに違いない。


 おばあちゃんは、走り回るロゼッタを見て微笑んだ。

 しかし、すぐに真面目な顔つきになる。


「ロゼッタ。ひとつ約束をしておくれ」

「なあに? おばあちゃん」


「この魔法は、他所では絶対に見せないと約束しておくれ」

「え!?」


 どうして他所で見せてはいけないのだろう?

 せっかく、クラスのみんなに魔法を披露できると思ったのに!

 ロゼッタが驚いていると、おばあちゃんが静かに説明した。


「世の中にはね。私達のこの魔法を、心底憎んでいる人間もいるんだよ。だからね、お願いだから人前でこの魔法は使わないでおくれ」

「でも……」

「どうしても使うときは、自分の身に危険が差し迫った時だよ。いいね」


 ロゼッタは、しょぼくれてしまった。

 すると、おばあちゃんは再びロゼッタを抱きしめた。

 そして、優しく言い聞かせる。


「いつか、あなたの魅力に気づいてくれる人が、きっと現れるわ」


 そう、あの日、おばあちゃんはそう言ったのだ。

 ロゼッタは、部屋の隅の椅子を見つめながら、涙を拭っていた。


「ごめん、おばあちゃん……わたし約束を守れない悪い子だね」


 おばあちゃんが亡くなってから、ロゼッタは何度か魔力の糸を人前で使ってしまっていた。

 きっと、悪い子だから報われないのだ。

 きっと、悪い子だから独りぼっちなのだ。


 ロゼッタはそう思いながら立ち上がり、窓の外を見た。

 先ほどから、何やら村の中央が騒がしい。

 何かあったのだろうか……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロゼッタの苦しみが伝わってきて胸の痛む場面でした。お婆さんの死も一緒になって悲しむことのできる良い場面、書き方だったと思います。ロゼッタの魔法を、憎む人がいるというのも、さりげなく有効な伏…
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