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第三十七話 騎士様

 ––ここは、王都の裏路地。


 太陽が西に傾き始めた頃、カミーリャは木材を抱えて裏路地を歩いていた。

 家の雨戸が壊れてしまったので、自分で修理しようと思い、木材を調達してきたのだ。

 彼女は、ローブのフードを深々と被りながら街を歩く。


 今回は、ワンが旅立ってから初めての外出だ。

 なので、カミーリャは少しだけ心細かった。

 ワンは大抵寝てばかりで、特に何かをしてくれるわけではない。

 しかし、今までは彼が家にいると言うだけで、何となく安心感があった。

 彼女は今回、何となく漠然とした不安を抱えて街へ出たのだった。


 しかし、買い物は無事に済んだ。

 あと、もう少しで住宅街だ。


 彼女は一安心して、道の角を曲がった。

 その時!


 ドンッ


 偶然、道を曲がって来た人にぶつかってしまった。

 彼女は慌てて、その人物に謝る。


「すみません。前を見てなくて……」


 彼女が顔を上げると、そこには若い女性の姿があった。

 眼鏡をかけた、黒髪の女性だ。

 とても若く見えるが、随分と大人びた雰囲気をまとっている。


 ぶつかった女性は、ハルだった。

 彼女は、ヘル・ハウンドの推薦により王都の騎士団本部に配属となり、王都警備の任務に当たっていたのだ。

 彼女は、カミーリャに声をかける。


「大変失礼致しました。お怪我はありませんか?」

「!!」


 カミーリャは、慌てふためいた。

 目の前にいる女性は、どうやら騎士のようだ!

 どうして、騎士がこんな裏路地に!?

 自分が、パペッティアの魔具だと知られたら大変な事になる!


 ハルは、慌てるカミーリャを心配して優しく声をかけた。


「大丈夫ですか?」


 カミーリャは、しどろもどろに答えた!

 そして走った!


「怪しい者ではありませーーーん!」


 彼女は、叫びながら住宅街の方へと駆けて行った。

 ハルは、走り去る彼女を呆然と見送る。

 しかし、急に冷静な顔つきになった。


「あの娘……人通りの少ない道を選んで歩いているのか?」




 カミーリャは、路地裏の角で一息ついた。

 後方を確認してみる。

 どうやら、騎士は付いて来ていないようだ。


 彼女はホッとして、再び歩き出した。

 もうすぐ、家が見えてくる。


 彼女は、安心してゆっくりと歩いた。

 いつも使う帰り路を、真っ直ぐと歩く。


 しかし、家まであと数十メートルに近づいた時。

 彼女は不思議な行動をとった。


 どうしたことだろうか。

 彼女は、急に方向を変えて脇道へと入って行った。

 そして、薄暗い路地をゆっくりと歩いた。


 彼女は、しばらく歩き続ける。

 やがて、どんどん家から遠ざかって行った。


 すると突然、彼女は立ち止まった。

 そして、背後に向けて声を掛けた。


「誰ですか? 先ほどから、ボクを付けて来るのは?」


 カミーリャは後ろを振り返り、鋭い目つきで睨みつけた。

 しかし、そこには誰もいない。

 ただ、誰もいない路地が続いているだけだ。

 彼女は、気にせずに続けた。


「隠れていても無駄ですよ。ボクには、あなたの姿が見えています」


 すると突然、誰もいない空間から声がした。


「ハッタリか? んー。まあ、いいや」


 次の瞬間!

 誰もいなかった路地に、一人の女が現れた。

 女は笑顔で、カミーリャに声をかける。


「私の透明魔法を見破れるなんて、すご~い」


 カミーリャは冷静に、質問をした。


「ボクに何か御用でしょうか?」


 すると、女は静かに答えた。


「私! ま・お・う・きょ・う・だ・ん!」


 女は名乗ると、はだけた胸元を杖で指し示した。

 胸元には、魔王教団の刻印が刻まれている。


 カミーリャは、身構えた。

 刻印の女は、悠々と髪をかきあげる。

 そして、カミーリャに杖先を向けた。


「ごめんね……死んでっ!」


 カミーリャは咄嗟に、羽織っていたローブを脱いで女に向かって投げつける!

 女の視界が塞がれた。


 女は構わず、ローブ越しに闇魔法を連射!


 カラン、カラン!


 木材が、地面に散らばる音がした。

 ローブは穴だらけになって、地面に落ちる。

 しかし、ローブの向こう側にはカミーリャがいない!

 いったいどこへ?


「後ろですよ」


 女は、その声に驚いた。

 後ろを振り返ると、顔の正面に手刀があった。

 メイド服姿のカミーリャが、手刀を構えていた。

 手刀の向こうから、彼女の鋭い視線が刺さる。

 刻印の女は、冷や汗を流した。


「抵抗は、やめて下さい!」


 カミーリャが言うと、女はニコリと笑った。


「インビジブル」


 女は呟くと、再び透明になる。

 カミーリャは呆れた。


「だから無駄だって言ってるじゃないですか……」


 カミーリャは突然、右前方に回し蹴りを入れた!


「グハッ!」


 空間から、女の声が響いた。

 カミーリャは、すかさず追い討ちのパンチを二発連続で打ち込む!


「ウッ! なぜ、場所が分かる!」


 声と共に、刻印の女が姿を現した。

 女は、カミーリャの頭に杖先を向けている。


「死ねぇ!!」


 女は叫ぶと、杖から闇魔法を発射!

 しかし、カミーリャはしゃがみ込んで回避した。

 彼女は回避と同時に、右脚を後方に伸ばして体を大きく捻る。

 体の回転により勢いが付いた彼女の右脚が、刻印の女の足元を薙ぎ払った!


 カミーリャの脚が、女の足元をすくう!

 女は、盛大に石畳の上に転んだ。


 カミーリャはすぐに、転んだ女に手刀を向けて言った。


「もう、抵抗はやめて下さい!」


 しかし、女は諦めが悪い。

 再び、杖をカミーリャへ向けた。


「おのれぇ!」


 女が叫んだ瞬間!

 突然、女の杖が弾かれた。

 カミーリャは、触れていない。

 いったい何が起こったのだろう。


 女は慌てた。


「私の杖!!」


 女は、這いつくばって杖を拾いに行く。

 彼女が杖に、手を伸ばした瞬間。

 何者かが、彼女の杖を踏みつけた。


「そこまでだ!」


 女は、顔を上げた。

 すると、そこには一人の騎士の姿があった。

 ハルだ。


 女は、血相を変えてハルの脚に掴みかかる。


「どけっ!! 私はもう、後戻りはできないんだ!!」


 しかし、ハルは動じなかった。

 暴れる女に対して、冷静に催眠魔法をかける。

 女はジタバタとしていたが、次第に静かになって眠ってしまった。


 ハルは女の杖を没収し、カミーリャに声をかける。


「後ろから拝見させて頂きましたが、見事な戦いぶりでした」


 カミーリャは驚く。

 一連の様子を、全て見られてしまった。


「あの……ボク……」


 彼女は、どう説明して良いものかが分からなかった。

 透明人間との戦闘を、どうやって言い逃れしよう。

 こんな事は到底、一般人にできる事ではない。


 パニック状態の彼女を他所に、ハルは魔法で応援を要請していた。

 彼女は杖先を輝かせ、それに向かって喋りかける。


「こちらレオンハート。魔王教団のメンバーを拘束した。至急応援を求む」


 カミーリャは、応援の要請を聞いて焦った。

 彼女は、ゆっくりと後退りをする。

 早く、この場から離れなくては……。

 彼女は、逃げるタイミングを窺った。


 すると突然、ハルが声を掛けてきた。


「何か事情があるのでしょう?」

「え!?」


 ハルは優しい目で、カミーリャを見る。


「どうぞ行って下さい。ここは私が引き受けます」


 カミーリャは、騎士からの思いがけない言葉に驚いた。

 きっと、事情聴取をされるものだと思っていたのだ。

 しかし、黒髪の騎士はカミーリャに何か事情があると察して、気を利かせてくれた。

 カミーリャは、慌てて騎士に礼を述べた。


「あの……騎士様! ありがとうございます!」


 そして彼女は振り返り、木材を拾ってすぐに現場を離れた。

 彼女は薄暗い路地から飛び出し、駆けて行く。

 ハルは、走り去る彼女の背中を見送った。


 しかし、この時。

 カミーリャとハルは気づかなかった。

 実はその場には、もう一人の目撃者がいたのだ……。

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