第三十六話 ツイスター
ロゼッタは、右手にフクロウのぬいぐるみを握って、天井へ掲げた。
マックスに見えないように、こっそりと魔力の糸を接続する。
彼女は目を閉じて、何やら頷いている。
フクロウのぬいぐるみを、解析している様子だ。
マックスが、緊張した面持ちで見つめる。
突然、ロゼッタは目を開いた。
「これは凄いぞ!」
彼女は言うと、フクロウの名前を呼んだ。
「ツイスター!!」
彼女が呼ぶと、突然フクロウが翼を広げた。
マックスが驚く。
「すげぇ!」
ツイスターは、ゆっくりと大きく翼を動かした。
辺りには、風が発生する。
次の瞬間、驚くべきことが起こった。
ロゼッタの足が、床を離れた。
彼女はツイスターに持ち上げられて、宙に浮いたのだ。
それを見ていた全員が、驚きのあまり息を飲んだ。
浮いている本人ですら、驚いている。
「この子、めちゃくちゃ力持ちだぞ!」
彼女は、ツイスターにぶら下がりながら言った。
マックスは、興奮が抑えられない様子だ。
彼は、ロゼッタに近寄る。
「うそでしょ! どうなってんの!?」
彼は、ツイスターを念入りに観察した。
前から、横から、後ろから、隅々まで観察する。
ロゼッタが、怒った。
「こらっ! あんまり近寄るんじゃない!」
マックスは、彼女の声が聞こえない様子だ。
ツイスターを観察しながら、何やらブツブツと呟いている。
「なるほど……本体に予め装置を……」
「……おい、聞いているのか?」
「そうか……流線型のフォルムか……」
「……」
ロゼッタが呆れて、床に降りようとした瞬間。
「分かったぞ!!」
マックスは叫んだ。
そして、奥の作業机へ行ってしまった。
彼は慌ただしく、紙に何かを書き込んでいる様子だ。
ロゼッタは着地し、彼に声を掛けた。
「なあ……」
「……ここをこう! いや、ダメか……」
「これ、貰って行くぞ!」
「ん? OK! 気をつけて!」
マックスは、どうやら忙しいようだ。
仕事の邪魔をするなとでも言わんばかりの、雑な返事が返ってきた。
彼はひたすらブツブツと呟きながら、手を動かしている。
クリフが玄関を指差して、みんなに出発しようと促した。
ロゼッタとカトレアは頷く。
そして三人は、無事に目的を果たして玄関から出て行った。
その日の夜。
ロゼッタ達は、街の宿に泊まった。
三人と一匹は宿の一室に集まって、これからの旅の話をしていた。
クリフが、皆の姿を見ながら言う。
「俺たちは、この短期間でだいぶ成長した。この先も危険な旅になるだろうが、俺達なら必ず魔王を倒せると信じているよ」
ワンが、割り込んだ。
「あたり前だ、べらぼうめ! この俺様が付いてるんだからな。百人力よ!」
カトレアが、ワンの頭をポンポンと撫でる。
「よろしくね。先生」
ワンは、少し照れた。
ロゼッタは、そんな皆を微笑ましく眺めた。
とても頼りになる仲間だ。
それに彼らと一緒にいると、とても楽しい。
彼女は、この素敵な仲間達を守りたいと思った。
「なあ!」
ロゼッタが、片手を上げる。
他のメンバーが、彼女に注目した。
「もし魔王を倒したら、みんなで盛大な打ち上げがしたい! 全員で」
他のメンバーは、笑みを浮かべて返した。
「是非やろう!」
「やろうぜ!」
「賛成よ」
クリフは、再び全員を見渡した。
「よし! 俺達で必ず魔王を倒して、絶対全員で打ち上げをするぞ!」
「おー!」
宿の一室からは、しばらく笑い声が絶えなかった。
翌朝、ロゼッタ達は市場で必要な買い物を済ませた。
ここを出ると、もう街はないだろう。
なので、買い忘れが無いか何度も確認をした。
買い物を終えて三人は、街の長い坂道を登った。
この坂の頂上に、ポータルへの道があるらしい。
坂の途中では、街の警備に出ている騎士団の隊員が暇そうに歩いていた。
この街は、随分と平和なようだ。
世界樹の中だと言うのに、魔物の一匹も現れない。
三人が坂の頂上へ着くのには、随分と時間がかかった。
とても長い坂だったのだ。
坂を登り切った正面には、巨大な絶壁があった。
絶壁には、巨大なアーチ状の横穴が空いている。
どうやら、この穴は随分と奥まで続いている様子だ。
三人は、穴の方向に歩みを進めた。
ロゼッタは、穴の天井を見上げて観察する。
これは明らかに、自然にできた物ではない。
人工物だろうが、こんなに巨大な物を作るなんて想像を絶する作業だろう。
神様が作ったのだと言われても、信じてしまいそうだ。
そう言えばポータルだって、あれは自然にできた物ではないだろう。
誰かが、魔法で作った物に違いない。
そんな物が果たして、魔王の元まで続いているのだろうか。
ロゼッタは、色々と細かいところが気になり始めた。
その時。
「おい、ロゼッタ! 置いていかれちまうぞ!」
荷物の中から、ワンが声をかけてきた。
ロゼッタは、歩くペースが落ちていたことに気付き駆け出す。
そして旅の一行は、ポータルを目指して奥へ奥へと歩みを進めた。




