第三十五話 発明品
太った男は、三人を家の中へと招き入れた。
彼は、発明品がなんとか言っていた。
三人はよく分からないまま、言われるがままに家の中へと入った。
家に入ると、右側の壁沿いにガラクタのような物が沢山並べてあるのが目についた。
左手には、階段が見えた。
上の階からは、風車の回る音がする。
一階の奥には、もう一つ部屋があるようだ。
太った男は玄関のドアを閉め、鍵を掛けた。
そして、三人を奥の部屋へと促す。
「さあ、さあ。どうぞ、奥の部屋へ!」
三人は勢いに押されて、奥の部屋へと進んだ。
奥の部屋も、ガラクタのような物が沢山並べられていた。
本来広い部屋なのだろうが、物が多すぎて狭く感じる。
三人は、各々ガラクタの隙間のスペースに立った。
その間を縫うように、太った男が進む。
突然彼は、全員に握手を求めた。
「挨拶が遅れたね! オイラはマックス。この研究所の所長、兼エンジニア。そして……」
マックスと名乗る男は、部屋の奥へと進んで行った。
そして振り返って、叫んだ。
「いつか人類の限界を乗り越える男だ!!」
……。
三人は、色々と圧倒されてしまい言葉が出ない。
マックスは、ガラクタの間に立ち尽くす三人に尋ねた。
「君たちは、オイラの発明を見に来たんだね?」
クリフが、答える。
「あー、いや、何というか……」
「皆までいうな! 言わなくても分かるよ!」
マックスは一度、姿勢を正す。
呼吸を整える。
そして彼は、静かに話を始めた。
「これは、人類の歴史を変える発明になるでしょう……」
何やら、先ほどとは彼の雰囲気が変わった。
マックスは、真剣な表情だ。
「今まで、誰も目を付けてこなかった領域に人類は突入します!」
マックスは大きく手を広げて、事の重大さをアピールしている。
聞いていた三人の間にも、緊張が走った。
彼は、人類の歴史が変わると言っている。
彼の発明とは、いったい何なのだろう?
全員が彼の発明に、興味を持ち始めた。
マックスは続けた。
「オイラの発明は、既に皆さんの前にご用意しております……」
何と、発明品は目の前にあるらしい。
しかし、それらしきものは見当たらない。
このガラクタの山に、埋もれているのだろうか?
マックスは叫んだ!
そして右手で、発明品を指し示した。
「こちらです!!」
三人は、マックスの示す方向を見る。
しかし、やはり何も変わった物はない。
そこにはただ、一本の箒が壁に立て掛けてあるだけだ。
三人が不思議な顔をしているのを見て、マックスはニヤリと笑った。
そして彼は、おもむろに箒を手に取った。
この箒が、発明品なのだろうか。
ロゼッタは言った。
「それは、お掃除をする道具だろ。昔からあるぞ」
彼女は、マックスが床掃除でも始めるのかと思ったのだ。
しかし、彼は思いもよらぬ行動に出た。
何と、その箒に跨ったのだ。
いったい何のつもりだろう。
三人が驚きの表情を浮かべた、次の瞬間!
突然、どこからともなく強い風が発生した!
風は、マックスの方からだ。
彼の跨る箒が、風を発しているのだろうか。
三人が風に驚いて手で顔を覆っている内に、マックスに信じられないことが起こっていた。
何と彼は、箒に跨ったまま宙に浮いていたのだ。
彼は、そのまま説明を始めた。
「これは空飛ぶほうき……その名も、マックス002!」
三人は驚きのあまり、声が出なかった。
彼は続ける。
「この発明によって人類は、今まで手付かずだった空の領域に進出することになります!」
「おぉ!」
三人は、感嘆の声を上げる。
確かに、今まで空を飛びたいと考える人はいただろうが、実際に行動した人はいなかった。
これは、画期的な発明なのかもしれない。
クリフが、マックスに尋ねた。
「これを使えば、世界樹の頂上まで一気に飛んで行けるんじゃないのか?」
「……」
マックスは、ゆっくりと地面に着地して返した。
「今は無理。でも、いつかは必ず実現できる」
彼の説明によると、この箒は今の所、地面スレスレを飛ぶことしかできないそうだ。
世界樹の頂上まで飛ぶとなれば、もっと改良が必要だ。
彼は、三人に向き直った。
「どうです? 人類の可能性を感じたでしょ? オイラに投資してみませんか?」
三人は困ってしまった。
凄い発明なのは分かった。投資をしたいのは山々だ。
しかし、投資に回せるお金など持ち合わせていない。
だから、残念ながら協力することはできない。
クリフが、彼と話を始めた。
恐らく、やんわりと断るつもりだろう。
突然、ロゼッタの頭の中で声がした。
(おい! 奥の棚から、魔具の反応があるぜ!)
ワンだ。
パペッティアの魔具が、この部屋にあるらしい。
ロゼッタは、部屋の奥にある棚を眺めた。
ガラクタが沢山、置いてある。
これでは、見つけるのが大変だ。
彼女がそう思った瞬間、意外と簡単に魔具を発見した。
意外にも、それは目と鼻の先にあったのだ。
彼女の目に留まったのは、フクロウのぬいぐるみだ。
クリフとマックスは、世間話をしている。
「そう! みんな炎と雷ばっかり使って、風魔法を軽視しすぎなんだよ!」
「なるほど、確かにそうかも知れない……」
「風魔法はコスパも良いし、無限の可能性を秘めているんだよ!」
ロゼッタが、二人の横を通過して奥の棚に近づく。
そして、フクロウのぬいぐるみを指差して、マックスに声をかけた。
「これを見てもいいか?」
「ん?」
マックスが、ロゼッタに近づく。
そして、フクロウのぬいぐるみを棚から取り出した。
「これは古道具屋で見つけたんだ。恐らく風魔法系の魔法道具さ」
彼は、ぬいぐるみの体を確認する。
「でも、使い方が分からないんだよね」
ロゼッタは、その言葉を聞き逃さなかった。
彼女は、ニヤリと笑って提案した。
「なあ。このぬいぐるみを、わたしに譲ってくれないか?」
「え?」
マックスは、不機嫌な顔をする。
「嫌だよ。これはオイラの大切なコレクションの一つなんだ」
ロゼッタは、悪そうな顔で彼を見て言った。
「わたしが、これの使い方を見せてやっても良いぞ!」
「え!?」
マックスの表情が明るくなる。
ロゼッタは続けた。
「ただし、これを譲ってくれるのならばと言う条件付きだ!」
マックスは、一瞬悩んだ。
手元のぬいぐるみを眺める。
これは、彼の大切なコレクションの一つだ。
しかし、これの真の力を見てみたい。
彼は、体を震わせて悩んだ。
何だか、吐きそうな様子だ。
そして彼は悩んだ末、意を決してぬいぐるみを差し出した。
「分かった! 本当に使い方を見せてくれたら譲ってあげるよ!」




