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第三十三話 新技

 ボスザルが、巨大な腕を大きく振りかぶった瞬間!

 クリフが叫んだ!


「疾風モード!!」


 ボスザルの巨大な腕が振り下ろされ、地面が揺れる。


 ロゼッタとカトレアは、周囲を見渡した。

 クリフの姿がない!

 まさか、叩き潰されたのだろうか?


 ボスザルは、そっと腕を上げた。

 しかし、やはりクリフの姿がない。

 ボスザルも辺りをキョロキョロと見回して、クリフの姿を探す。


「ここだよ!」


 突然どこからか、クリフの声がした。

 ボスザルは、声に気づいて振り返る。

 なんとクリフは、ボスザルの背後をとっていたのだ。


 ロゼッタが、ワンに尋ねた。


「どういうことだ? クリフはいったい何をしたんだ?」

「フッフッフッ!」


 ワンは得意気に笑う。


「あれはクリフの新技、疾風モードだ!」


 ワンの話ではクリフは今、疾風モードと呼ばれる状態になっている。

 今までは、脚のみを重点的に強化する魔法を使っていたが、今は全身を風魔法で包んでいるのだ。

 これによって、全身の動きが一斉に加速されている。


 ロゼッタは、一つ疑問に思った。


「でも、そんな事をしたら魔力の消耗が半端ないんじゃないのか?」


 ワンは質問に答えた。


「良い質問だ。普通は魔力の消耗が増えると思うだろうが、実は逆だ」

「?」

「アイツは単純だからな。今まで、一つ一つの魔法に全身全霊をかけていたのさ」


 ワンは、詳しく説明した。

 クリフは今まで、体の部位ごとに一回一回、魔法を掛けていたのだそうだ。

 脚なら脚、腕なら腕に、毎回全力の魔力を集中させていた。

 しかも一度の戦闘で、それを何度も切り替えていたのだ。

 これが、魔力消耗の原因となっていた。

 しかし、疾風モードを使えば、一度の詠唱で全身に魔法を掛ける事ができる。


 ワンは続けた。


「しかも、アイツは魔力の匙加減を調節出来るようになった。今までの半分の魔力で戦えるぜ!」

「なるほど」


 ワンは更に続けた。


「そして疾風モードには、まだ隠された秘密がある!」

「??」


 ボスザルは、クリフに連続攻撃を加える。

 クリフは風の如く身軽に動き回り、攻撃を難なく回避した。


 クリフは攻撃を回避しながら、橋の上での戦いを思い出していた。

 銀髪の男の、言葉が蘇る。


 (ほら、ほら、どうした? 回避するだけか?)


 あの時は、脚に全力の風魔法を集中していた為、攻勢に回れなかった。

 しかし、今は違う。

 突然、クリフは叫んだ!


「更に唱える! 我が拳は鋼となる!」


 クリフはなんと、疾風モードを維持したまま腕を硬化した!

 二つの魔法を、同時にコントロールしたのだ。

 彼は素早く動き回って、ボスザルの攻撃を回避すると同時に、隙をついて攻撃を打ち込む。


 ボスザルの手に、目にも止まらぬ速さで複数のパンチを打ち込んだ!

 流れるような鋼鉄のパンチが、ボスザルを襲う!


「うおおおおおおおおおおお!」


 ボスザルは驚いて、思わず手を引っ込めた。

 その瞬間!

 隙をついて、クリフが懐に飛び込む!


「鋼の嵐を喰らえ!!」


 ボスザルの体に、クリフの鋼鉄のようなパンチが雨あられと降り注いだ!


 ドドドドドドドドドドドドッ!


 鋼と風の、合わせ技が炸裂した!


 ボスザルは、ボコボコだ。

 クリフが、トドメの一撃を打ち込む!


 ドンッ!!


 ボスザルは、よろける!

 そして、膝をついて倒れた。




 戦いは終わった。

 辺りには、よろめきながら立ち上がろうとする青いサルが数匹。

 目の前には、巨大なボスザルが倒れている。


 クリフは魔法を解除し、一息ついた。

 これだけ戦っても、まだまだ魔力が残っている。

 息が上がっていない。

 クリフは、自分の成長に感動していた。


 ロゼッタとカトレアが、彼に駆け寄る。

 彼女達は、クリフを称賛した。


「凄かったぞ、クリフ!」

「本当に成長したのね、信じられない!」


 ワンが、彼女達の前へ躍り出る。


「あったりめぇよ! この俺様が、指導したんだぜ!」


 クリフは膝をついて、ワンに感謝を述べた。


「先生! ありがとうございました!」


 ワンは、少し恥ずかしそうに返す。


「おう! 良いってことよ!」


 ゾゾゾゾゾッ


 木の上に隠れていた、コロリン族が降りてきた。

 彼らは、次から次へと降りてくる。

 この一本の木に、どれだけのコロリン族が隠れていたのだろう。

 やがて、広場が丸い毛玉で埋め尽くされた。


 奥の方から杖をついた、少しだけ大きめの毛玉が現れる。

 族長だろうか?


 彼はクリフの前に来ると、深くお辞儀をした。

 それに合わせて、周囲のコロリン族もお辞儀をする。


 族長は、頭を上げて言った。


「ウィウィウィウィウィ」


 ワンが、彼の言葉を翻訳する。


「助けて頂き、ありがとうございました。お礼がしたいので是非、今夜は村に泊まってください。だそうだ」


 ロゼッタ達は、森で遭難していて食糧も残り少なかったところだ。

 これは助かる。

 三人と一匹は、ありがたく族長の提案を受け入れた。


 すると突然、コロリン族達が怯え始めた。

 彼らの頭上に、巨大な黒い影が差す。

 クリフが、影の主を振り返った。

 皆も続く。


 背後で、ボスザルが起き上がったのだ。

 ボスザルは、痛そうに腹をさすっている。


 そしてボスザルは、よろめきながらクリフに近づいた。


 ボスザルは指で自分の顔を指し、次にクリフを指した。

 そして、空中を大きく撫でるような動きをした。


 ワンが解説する。


「強い戦士と戦えて光栄だ。オレ達はもう、この村には手出しはしない。だそうだ」


 クリフは、ボスザルの目を見つめる。

 そして歩み寄り、ボスザルの拳に自分の拳をそっと合わせた。

 ボスザルは口元に笑みを浮かべ、声を上げた。


 ギョエエエエエエエ!


 すると、周囲にいた青いサル達が集まって来る。

 ボスザルは、そのまま振り返った。

 そして、森へと帰って行った。

 他のサル達も、それに続いた。




 その晩は宴だった。

 コロリン族が、豪華な山の幸を振る舞ってくれた。


 村ではキャンプファイヤーが炊かれ、コロリン族が踊った。

 クリフの周りに、毛玉が集まって来る。

 彼らはクリフを持ち上げ、踊りの輪の中へ連れ去ってしまった。


 クリフは、胴上げをされているようだ。


「ウィ! ウィ! ウィ!」


「みんなぁ〜助けてくれ〜」


 クリフは、困ってしまった様子だ。

 彼は、沢山の毛玉に囲まれて身動きが取れない。


 ロゼッタは、そんなクリフを見て笑った。

 彼女は、しばらく腹を抱えて笑っていた。

 しかし突然、キャンプファイヤーの方に目を奪われた。


 キャンプファイヤーの前で、華麗な踊りを披露し始めた者がいたのだ。

 全員の視線が、そちらに集まる。


 彼女は、美しく激しく舞っていた。

 その舞は、背景の炎と相待って、とても幻想的に見えた。


 ロゼッタは、彼女の情熱的な視線と目があった。

 踊っていたのは、カトレアだ。


 そういえば彼女は昔、踊り子をしていたと言っていた。

 しかし、彼女の踊りを実際に見るのは初めてだった。


 次第に、彼女の周りにコロリン族が集まって来る。

 そして、彼らも共に踊り始めた。


 ロゼッタの元にも、一匹のコロリン族がやってきた。

 どうやら、踊りに誘っている様子だ。


 ワンが、言う。


「一緒に踊りませんか? だってよ。行って来な!」


 ロゼッタは、ワンを見た。


「ワンもな!」

「え?」


 ロゼッタはワンの手を掴み、共に踊りの輪の中へと入っていった。

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