第三十一話 特訓
森の中で、砂埃が上がった。
大きな木が、メキメキと音を立てながら倒れる。
クリフは、息が上がっていた。
彼は先ほどから、敵の攻撃を何度も正面から受けていたのだ。
魔力の限界が近い。
しかし……。
「我が体は火炎を宿す!」
クリフは唱えた。
そして、身構えた。
正面から、敵の攻撃が来る!
ドンッ!
クリフは、振り下ろされた巨大な鎌を素手で受け止めた。
物凄い重量だ。
鎌は、クリフの身長よりも何倍も大きい。
その持ち主は……。
「今だ! カマキリの動きを封じたぞ!」
クリフが叫んだ。
そう、その鎌の持ち主は、巨大なカマキリだったのだ。
その大きさは、人間の身長の五倍はあるだろうか。
とにかく、大きい。
突然、カマキリの懐にカトレアが飛び込んだ!
「喰らいなさい!」
カトレアが、カマキリの腹に触れて電流を流し込む!
カマキリは怯んで、仰反った。
そこに、ロゼッタが追撃をする。
「テディ! やれぇ!!」
硬化したテディが、天から急降下する。
テディは、カマキリの脳天に直撃!
カマキリは、その衝撃で頭を地面に打ち付けた。
辺りには、砂埃が舞う。
三人は、カマキリが倒れた事を確認した。
頭が潰れて、再起不能となっている様子だ。
クリフは息を整えながら、その場に座り込んだ。
魔力を使い切ってしまったのだ。
「ハァ、ハァ……ダメだ。今日は、ここで休もう……」
ロゼッタが、冷たい目でクリフを見た。
「日暮れまで、まだ時間がありそうだぞ」
「ロゼッタちゃん。クリフは、もう限界よ」
カトレアが優しく、声をかける。
ロゼッタは仕方なく、この場でキャンプをする準備をした。
ワンが枝を集めてきて、カトレアが火をつける。
ロゼッタは、フライパンを温めた。
周囲は、次第に暗くなっていく。
世界樹の内部だと言うのに、昼と夜がちゃんと存在するのだ。
なんとも不思議である。
「そろそろ、食糧が尽きるぞ……」
ロゼッタが言った。
彼女達は、もう何日もこの森をうろついていたのだ。
最初は道があったので、それに沿って歩いていたのだが、どうやら何処かで道を間違えたらしい。
そうこうしている内に、元来た道へ戻れなくなってしまっていた。
つまり、彼女達は遭難してしまったのだ。
クリフが、倒れたカマキリを指差す。
「最悪、コイツを捌いて食おう」
「ゲッ、わたしは嫌だぞ!」
三人は、残り少ない食料を加熱して食べた。
その様子をワンが、観察する。
彼は食事を必要としない体なので、この時間はする事がない。
彼は、クリフの方に目をやった。
クリフは最近の魔物との連戦で、だいぶ疲れている様子だ。
しかし、この程度で疲れていては、世界樹の頂上になど到底辿り着けないだろう。
これでは先が思いやられる。
ワンは突然、腕組みをして叫んだ。
「クリフ、お前の戦い方はなっておらん!」
クリフが、食事の手を止める。
そして、ワンを見つめた。
「ナフテオワン?」
「ちゃんと、飲み込んでから喋れ!!」
突然、ワンの説教タイムが始まった。
「まず、お前は敵の正面からぶつかり過ぎだ! そのせいで、毎回体力を消耗する」
ワンは続ける。
「そして毎回、一撃に力を入れ過ぎだ! それじゃあ複数の敵や、素早い敵を相手にした時に対処しきれない!」
クリフは、食事をゴクリと飲み込んだ。
そして、考えた。
確かに、彼自身にも心当たりがあったのだ。
魔王教団の王都襲撃の際にも、魔力切れで動けなくなり、カトレアに間一髪で助けてもらった。
また、王都手前の橋の上では、謎の銀髪の男に一方的にやられてしまった。
ワンは、クリフの前へ進み出た。
そして、言い放った。
「俺が戦い方を教えてやる! 特訓だ!!」
「特訓!?」
一同、その言葉に驚いた。
ロゼッタは冷たい目で、ワンをみる。
「わたし達、遭難してるんだぞ……」
ワンが、ロゼッタを睨んだ。
「うるさいっ! 時に男は、乗り越えなきゃならねぇものがあるんだよ!」
「乗り……越える……」
クリフは膝歩きで、ワンに近寄った。
「先生! 俺を鍛えてください!!」
「おうよっ! 任せとけ!」
ロゼッタは、彼らを冷ややかな目で見た。
すると、隣にカトレアが座ってきた。
彼女は、優しく言った。
「まあ、良いじゃない。男達は放っておいて、私たちは狩りに行きましょ」
「……分かった」
こうして、ワンによるクリフの特訓が始まったのだ。
コン、カン、コン、カン!
早朝から森の中に、木を殴る音が響いた。
「そうだ、そうだ! ワン、ツー!」
ワンが、クリフを指導する。
クリフは、汗を流しながら木を殴った。
「お前は毎回、鋼は、鋼は、と安直に使いすぎなんだ! 魔法無しでも十分戦えるぞ!」
クリフは、体重を乗せたパンチを木に打ち込む!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!
今度は、ステップの練習だ。
「いいぞ、いいぞ! 前、後ろ!」
クリフは、前後左右へのステップ移動の練習をする。
「敵の攻撃を正面からまともに受けるな! なるべく、回避して体力を温存しろ!」
クリフは橋の上での戦いを思い出して、回避の練習をした。
あの時の、敵は素早かった。
魔法で脚力を上げていたのにも関わらず、対応しきれなかった。
クリフは銀髪の狼男を思い出して、ひたすら回避の練習をした。
訓練は休みなく、続いた。
クリフは早速、息が上がっていた。
彼は今まで魔法に頼り切っていたので、ちゃんと格闘の練習をした事がなかったのだ。
本人は体力がある方だと思っていたが、それは魔法のお陰だったと言うことを思い知った。
クリフは、その場にバタリと倒れてしまった。
ワンが、水筒を持って駆けつける。
クリフは水筒を受け取り、勢いよくゴクゴクと飲んだ。
「プハッ〜」
「おう、おう! いい汗かいてるじゃねぇか!」
「はい! 先生!」
「よし! この調子で続けるぞ!」
「はい!」
彼らの特訓は続いた。
日が高くなってきた頃、森の奥からロゼッタとカトレアが帰ってきた。
カトレアは手に、大きな鳥を握っていた。
彼女達は、男どもに声を掛ける。
「お昼ご飯を取ってきたわよ〜」
すると、クリフが全力で駆け寄ってきた。
「待ってたよ! 腹が減った!」
クリフの背後から、ワンも現れる。
「うむ、鳥か。トレーニングの後に相応しいメニューだぜ!」
三人と一匹は火を起こし、鳥を捌いた。
ロゼッタは、ジージの解体作業を隣でよく見ていたので、上手に捌くことができた。
綺麗に解体した鳥は、フライパンで焼いてステーキにする。
しばらくして、油の乗った表面カリカリのステーキが完成した。
ロゼッタの特製だ。
ステーキは、とても美味だった。
特訓で疲れたクリフにとっては、天にも昇る美味しさだった。
「うまい!」
「随分、美味そうに食べるな」
ロゼッタは、こんな幸せそうな顔をしたクリフを初めて見た。
ワンに相当絞られたのだろうか?
カトレアが、ワンに尋ねた。
「それで? 訓練の方は順調なの?」
「おうよ!」
ワンは、何やら自信満々だ。
「この俺様が鍛えてやっているんだ。この短時間でコイツは急成長したぜ!」
ロゼッタは、訝しがるような目でワンを見た。
本当に、こんな短時間で成長できたのだろうか。
ロゼッタがそう考えた、瞬間!
ウィイイイイ!
どこからともなく、変な鳴き声が聞こえて来た。
ガサガサ。
草むらが、何やら揺れている。
バサッ!
突然、何者かが草むらから飛び出して来た!




