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最弱魔術師のパペッティア  作者: がじゅまる
サブストーリー4
36/94

カミーリャの時間2

 カミーリャは、ローブのフードを深く被って街へ出た。


 彼女が街に出ることは、滅多にない。

 彼女は久しぶりの外出で、内心ウキウキしていた。


 前回外出した時とは、街の様子が少し違うようだ。

 彼女達が誕生した時、この王都はもっともっと小さな街だった。

 しかし、この街は時を経るごとに巨大になっていく。


 彼女は、どんどん活気付いていく街の光景に目を見張った。

 彼女は街を見渡しながら、街角にある木材屋へと赴いた。

 昔、主人と一緒によく訪れた店だ。


 しかし、彼女は店の前に到着すると、突然足を止めた。

 彼女の目の前にあったのは、木材屋ではなかった。


 薬屋さんだろうか?

 以前来た時は、確かここに木材屋があったはずだ。

 彼女は店に入って、店員さんに尋ねてみた。


「すみません。ここに昔、木材屋さんがありませんでしたか?」


 すると店員のおじさんが、答えた。


「ああ、あったよ。でも何十年も昔の事だね。何? あんた、街の歴史でも調べてるの?」

「いえ、木材を買える店を探していて……」


 すると店主は不思議そうな顔をしながら、地図を出した。


「木材屋は、ここに移転したよ」

「ありがとうございます!」


 彼女は礼を述べて、そそくさと店を後にした。


 どうやら随分前に、街の一角に職人街が整備されて、クラフト系の店は全てそこへ移転したらしい。

 大通りにあった店は全て、アイテム屋、酒場、宿屋などに置き換わったのだ。

 彼女は、街の変わり様に改めて驚かされた。


 カミーリャは職人街に来た。

 周囲からは木を切る音や、鉄を打つ音が聞こえてくる。

 彼女は、主人がクラフトをしている音を思い出して懐かしくなった。


 そうしていると、目の前に木材屋が見えてきた。

 随分大きな作業場を備えた店だ。

 近くには、王都の外へ通じる門があった。

 ここから、山で切り出した木材を直接運び込んでいるようだ。


 彼女は、その店の親方に事情を話して木材を幾つか見繕ってもらった。


「嬢ちゃんが自分で直すのかい?」

「はい! ボクこう見えて日曜大工は得意なんです!」

「へぇ~。まあ、無理そうだったら俺が行ってやるからよぉ」


 親方はそう言って、必要な材料を全て用意してくれた。

 しかも、だいぶお値段を安くしてくれたようだ。


 カミーリャは、親方の親切にペコリ、ペコリとお辞儀をして帰ろうとした。

 その時!


 ドンッ


 横から歩いてきた人に、ぶつかってしまった。

 彼女は慌てて、その人物に謝る。


「すみません。前を見てなくて……」


 彼女が顔を上げると、そこにはヤギの頭蓋骨があった。


「街の娘よ! 怪我はないか?」

「!?」


 ヤギの頭蓋骨。真紅の衣。

 この男、王の猟犬だ!

 カミーリャは、恐怖のあまり頭がパニックになった。


 王の猟犬が声を掛ける。


「大丈夫か?」


 彼女は咄嗟に叫んだ!

 そして走った!


「ごめんなさーーーい!」


 王の猟犬は、走る彼女を見送った。

 彼は呆然としていた。


「なんと、落ち着きのない娘よ……」


 カミーリャは、全速力で街を駆け抜けた。

 大通りを駆け、路地を駆け、住宅街を駆けた。

 そして、家に着くと玄関に飛び込み、ドアを勢いよく閉めた。


 何事かと思ったワンが、様子を見にくる。


「おい、何があった?」

「……」


 カミーリャは、その場に木材をばら撒いて、突然ワンを抱きしめた。


「怖かったよ~~~!」

「ンギュ! 苦しい! 死ぬ!」


 彼女は、落ち着くまでワンを抱きしめ続けた。




 トン、トン、トン!


 屋根の上で、カミーリャが金槌を振るっている。

 彼女は、その出来栄えを確認していた。

 どうやら、雨漏り箇所の修繕が終わったらしい。


 彼女は、長い梯子を使って屋根から降りてきた。

 これで一安心だ。

 彼女は家の外観をじっくりと眺めた後、再び日常の業務に戻った。


 お花のお手入れ。

 箒がけ。

 雑巾掛け。

 日光浴。

 洗濯。

 衣服の修繕。

 雨水の管理。

 時々、主人が残した本を読んだり、緊急の買い物に出たり。

 そして、ワンと下らない会話をしたり。


 カミーリャは、そんなことをして長い時間を過ごした。


 ある日の朝、彼女はいつもの様に花壇で水やりをしていた。


「精霊さん。おはようございます!」


 すると、突然どこからか子供の声が聞こえてきた。


「お姉ちゃん待って~」

「わたし先に行くから!」


 両方、女の子の声だ。

 突然、路地から二人の小さな女の子が現れて、どこかへ駆けていった。

 すると、後ろを走っていた一人の女の子が、つまずいて転んでしまった。


「エエエエエンッ!」


 もう一人の女の子は、気づかずに走っていく。


「おねえええちゃああああん!」


 カミーリャは、転んだ女の子に駆け寄った。

 しゃがみ込んで声をかけてみる。


「大丈夫ですか?」

「グスンッ、グスンッ」


 よく見ると、この子は見た事がある。

 モモちゃんだ。

 どうやら、膝を擦りむいて怪我をしてしまったらしい。


 カミーリャは家に戻って、濡れたタオルと、布を持ってきた。

 そして、花壇で薬草を摘んで、すり潰した。


「ちょっと染みるよ」

「ン……」


 彼女は女の子の傷口をタオルで拭き、薬草を塗り込んだ。

 そして、その上から綺麗な布で縛ってあげた。

 女の子は痛いのを我慢している様子だ。


「はい! これで大丈夫ですよ!」

「ありがとう……」


 女の子は、ゆっくりと立ち上がる。

 すると、すぐに歩き出した。


「無理をしてはダメですよ」

「うん。でも、わたしアカデミーに行かなくちゃ!」


 女の子はそう言うと、ゆっくりと歩き出した。

 カミーリャは、女の子の背中を見送って声をかけた。


「モモちゃん! 気をつけてね!」


 彼女が声をかけると、女の子は不思議そうな顔をした。


「わたしは、モモじゃないよ!」

「え?」


 以前会ったモモに、とても良く似ていたので見間違えてしまった。

 モモは、お姉ちゃんの方だったか。


 カミーリャが考えていると、女の子は言った。


「モモはね……私のお母さんの名前!」

「……」


 女の子は笑顔でそう言うと、駆け出してしまった。

 カミーリャは、女の子の背中を見送った。

 女の子が駆けていく光景を見ていると、なんだかとても切ない気持ちになった。


 女の子は道の途中で、同い年くらいの子供達と合流する。

 アカデミーの友達だろうか。

 子供達は、女の子に向かって挨拶をした。


「おはよう! ナデシコちゃん!」


 カミーリャは子供達が去っていくのを見届け、そして静かに家へ戻った。

 彼女は口元に、少しだけ笑みを浮かべていた。

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