表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱魔術師のパペッティア  作者: がじゅまる
サブストーリー4
35/94

カミーリャの時間1

 カミーリャとワンは500年間、王都の住宅街にある民家で過ごしてきた。

 家の主人は500年前に消息不明となったが、彼女らは主人の言いつけを守って家を守って来たのだ。


 カミーリャは朝日が昇ると、家の前にある花壇に水やりをした。

 大切に育てられたお花は、鮮やかで美しい花をつけている。


 その花の根元には、人間の目には見えない精霊さんが住んでいた。

 カミーリャは水やりの後、決まって彼らに挨拶をした。


「精霊さん! おはようございます!」


 精霊さんは人間の耳では聞こえない声で、カミーリャに挨拶をする。

 カミーリャは毎日、彼らから最新の情報を聞いた。


「うん、うん。えーそうなんですか! それは参考になります!」


 彼女は精霊さんに手を振って、家の中へと戻っていく。


 次は、部屋のお掃除だ。

 まずは、部屋全体に箒をかける。

 毎日必ず箒をかけている為、埃は全くない。

 しかし、たとえ埃がなくても必ず箒をかける。

 それが、彼女のルールなのだ。


 箒の後は、雑巾をかける。

 溜めていた雨水を利用して、部屋全体をピカピカにする。

 そのお陰で、部屋はシミ一つない。


 そうこうしている内に、お昼になる。

 その頃になると地下室から、ワンが登場する。

 そして、二人で窓の側に座って日光浴をするのだ。


 彼女達はパペッティアの魔具なので、食事を必要としない。

 その代わり彼女達は、日光から魔力を摂取していた。

 清潔な空間での日光浴は最高だ。

 しばらく、静かで素敵な時間が流れる。


 カミーリャは突然、窓の外が気になった。

 窓の外で、誰かが動いているのが見えたのだ。

 彼女は確認の為に、外へ出てみた。


 すると、そこには一人の女の子がいた。

 女の子は美しい緑色の瞳をキラキラとさせながら、花壇のお花を眺めていた。


 カミーリャが声をかけてみる。


「こんにちは!」


 女の子は、カミーリャに気づいた。

 そして、花壇を指差した。


「これ、お姉ちゃんが育ててるの?」

「そうですよ。ボクが愛情をいっぱい注いで育てました」


 カミーリャは、女の子の側に寄ってしゃがみ込んだ。

 そして、花の一つ一つの名前を呼んだ。


 これはチューリップ。こっちはネモフィラ。そして、これはラベンダー。


 女の子が、一つの花を指差した。


「このピンクの花は?」

「ああ……これはですね。ナデシコです」

「ナデシコ……」


 女の子は、そのピンクの花に見惚れていた。


「私、ピンク大好き!」


 女の子がそう言うと、カミーリャが静かにささやいた。


「精霊さん、一本もらいますね……」


 彼女は一輪のナデシコの花を、根元で切った。

 そして、それを女の子の髪に刺して上げた。

 女の子は笑顔で声を上げる。


「もらっていいの?」


 カミーリャは笑顔で頷いた。

 女の子は立ち上がり、両手を広げて周囲を駆け回る。


「お姉ちゃん! ありがとう!」


「大切にしてね!」


 女の子は、カミーリャを振り返って叫んだ。


「わたし、モモ! またね、お姉ちゃん!」


 女の子は、通りを駆け抜けて去っていった。

 カミーリャは、それを見届けて建物の中へと戻る。


 窓から差し込む日の光が、床を照らしていた。

 その上にワンが寝ている。


「客か?」

「はい! 小さな、お客様です!」

「そうか……」


 ワンは興味なさそうに、寝返りを打った。


 カミーリャは、早速午後の作業に移る。

 メイド服がほつれてしまったので、縫い直しをしなければならない。

 彼女は小さな裁縫道具を取り出して、服を縫い始めた。


 突然ワンが、ムクリと起き上がる。


「おい、王の猟犬が帰ってきたぞ!」


 カミーリャは、ワンを見て頷いた。


「分かりました。気をつけますね」


 ワンは、そのまま起き上がり、再び地下室へと戻って行った。


 しばらくして、カミーリャが縫い物を終えた頃……。

 突然、窓の外にポツリ、ポツリと雨が降り始めた。

 彼女は、窓の外を眺めた。

 雨が少しずつ強くなってくる。

 どうやら、本降りになりそうだ。


 戸締まりをしなくては。

 そう思った彼女は、二階へと上がって行く。

 すると、なんと階段の上が水で濡れていた。

 彼女は天井を確認する。


「あぁ……雨漏りしてる……」


 彼女は適当なバケツを持ってきて、雨漏り箇所の真下に置いた。

 そして雑巾で辺りの水を拭き取り、バケツの中に絞った。

 ワンが、二階へ上がってくる。


「何だこりゃ! ビチャビチャじゃねぇか!」

「うん……」


 二人は目を見合わせて、地下室へ降りていった。

 地下室には、色々な工具が置いてある。

 この部屋は、かつてこの家の主人が使っていた作業場だ。


 ワンが工具箱を漁る。


「金槌ある。釘ある……」

「木材がないですね……」


 二人は悩んだ。

 ワンは、渋々部屋の奥へと進む。

 そして、彼は部屋の奥から小さなツボを持ってきた。


 中には、金貨や銀貨が詰まっていた。

 この家の主人が溜めていたヘソクリだ。

 二人は緊急事態があると渋々、このツボを取り出して買い物をしていたのだ。

 しかしこの方法は、いつでも使える訳ではない。

 本当に緊急事態の時しか使えないのだ。


 カミーリャは、意を決して言った。


「ボクが明日、街で木材を買って来ますね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ