第二十六話 大魔道士
キャンンン
魔物が泣き叫ぶ声が響く。
クリフは、もう何匹の魔物を倒しただろう。
彼は、かなり体力を消耗していた。
倒しても倒しても、次から次に魔物が湧いてくるのだ。
ピイイイイイイイイイ!
突然、空からクリフに向かってトリ型の魔物が突撃してきた!
クリフは息を整え、身構える!
ドーーーーン!
突然、トリが空中で爆発した!
クリフは、後ろに立っていたカトレアを見た。
彼女がスリングショットで撃ち落としたのだ。
クリフは礼を言った。
「ありがとう姉さん」
「ロゼッタちゃんのお陰よ」
彼女が撃ったのは火炎石だ。
爆発を伴うアイテムなので、接近戦主体の今までの戦い方では使い勝手が悪かった。
しかし、今ならば安全な位置から使うことができる。
クリフは一度呼吸を整えた。
「このままじゃマズいな……」
その時、突然もの凄い轟音が響いた!
ゴオオオオオオオオオオオオン!
音のする方向を見ると、広場に巨大な魔物が出現していた。
その魔物は、角の生えたライオンのような姿をしていた。
「アッハハハハハハハハハッ!」
魔物の足元で、邪悪な笑い声を上げている男がいる。
魔王教団のメンバーだ。
「やれえええええ! ベヒーモス!!」
ベヒーモスと呼ばれた魔物は、手当たり次第に建物を破壊して回った。
大通りの商店が、次々に破壊されていく。
ベヒーモスの近くで、男が叫ぶ。
「我々の神聖な計画に祝福を! 魔王様万歳!」
その時、王城の方向から騎士団の中隊が到着した。
横一列に並び、陣形を組む。
後方では何やら赤い光が発せられていた。
あれは連携魔法だ!
クリフ達が以前、湿地で目撃したあの強力な魔法だ。
まさか、市街地の真ん中で発動するつもりなのか!
ベヒーモスを操る男は、連携魔法に気づいた。
「させるか!」
男は突然、指を咥えた。
ピーーーーーーーーーー!
周囲に口笛が響く。
すると、先ほどまで散らばっていた魔物達が一斉に騎士団の方へと向かった。
騎士団は魔物の大群に向かって、魔法の一斉攻撃で弾幕を張る。
しかし、魔物の勢いが凄まじい!
命も顧みずに突進してくる!
一人の隊員が叫んだ!
「空だ!」
次の瞬間、空から無数のトリ型の魔物が飛来した。
トリは空から、風魔法を撃ってくる。
それだけではない。
隊員を鋭い爪で掴み、空へさらって行った。
混乱した騎士団目掛けて、地上の魔物も襲い掛かる!
騎士団の陣形が崩れた。
後方で連携魔法の準備をしていた部隊にも、容赦無く魔物が襲い掛かる!
隊員達は連携魔法を中断し、バラバラに撤退してしまった。
そこへ、ベヒーモスが襲った。
逃げ惑う隊員を、次々に薙ぎ払った。
ベヒーモスの攻撃で吹き飛ばされた隊員が、建物の屋根にへばり付く。
「アッハハハハハハハハハッ!」
魔王教団の男は、その様子を見て笑っていた。
そこへ……。
「我が拳は鋼となる!」
「!?」
クリフの輝く拳が、魔王教団の男を襲った。
男は顔を殴られ、地面に倒れる。
それに気づいた、他の魔王教団のメンバー数人がクリフに向かって杖を向けた。
そして、闇魔法を一斉に発射!
「我が脚は疾風となる!」
クリフは闇魔法を回避し、破壊された建物の影に隠れた。
魔王教団のメンバーが杖を構えて、にじり寄ってくる。
クリフは、魔力の限界が近づいていた。
もう、魔法は使えない。
あとは、カトレアに託すのみだ。
魔王教団の集団が、クリフが隠れる壁に杖を向けた。
一斉に魔法を放って、爆破するつもりだ!
彼らが杖先に魔力を溜めた、その時!
彼らの足元に、何かが転がってきた。
何かの鉱石だ。
何やらビリビリと光っている。
次の瞬間、周囲に電気が走った!
彼らは叫び声を上げた。
「うわああああああああああ!」
電気は、彼らを気絶させるのに十分な威力を発揮した。
彼らは感電し、パタリパタリと倒れる。
カトレアが、クリフの元に駆けつけた。
「もう! 無茶して!」
「姉さんなら、やってくれると信じてたよ」
「バカね」
クリフと、カトレアは周囲を見渡した。
ここらの魔王教団は、全員仕留めたらしい。
しかし、魔物はまだ騎士団を襲っていた。
クリフは、もう動くことができない。
あのベヒーモスと対峙することは不可能だ。
騎士団は、バラバラに王城の方へと撤退していた。
隊員の一人は悲鳴を上げながら逃げる。
しかし、彼は突然足を止めた。
王城の方から、こちらへ向かって歩いて来る者が見えたのだ。
騎士団長だ!
その隣には、なんと信じられない人物が。
隊員達は口々に、希望の声を上げた。
「大魔道士様だ!」
クリフ達は、その声を聞きつけ王城の方を見た。
そこには、一人の若い女性の姿があった。
白い肌。
透き通るような、金色の長い髪。
蒼い装束に身を包んだその姿は、まるで女神様だった。
しかし彼女の青い瞳は、見る者を凍り付かせるかのように冷たかった。
大魔道士はゆっくりと、魔物達のいる方へと近づいた。
そして彼女は、自分の身長と同じくらいある長い杖を地面についた。
次の瞬間。
空が曇りだした。
黒雲が彼女の頭上に現れたのだ。
黒雲の中では、紫色の発光現象が起きている。
突然、一匹の魔物が彼女に向かって走りだした!
魔物が彼女に飛びかかろうとした、その瞬間!
ドオオオオオオオオオン!
雷鳴が響き渡り、紫色の雷が魔物を消し炭にした。
ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ドーン!
黒雲から次々と雷が降り注ぐ!
全ての雷が、的確に魔物に命中した。
地を駆ける魔物、空を飛ぶ魔物を、一匹残らず消し炭にしていく。
そこへ、ベヒーモスが突進してきた!
ベヒーモスは、大魔道士に向かって巨大な腕を振り上げる!
しかし彼女は微動だにせず、ベヒーモスを見つめていた。
突然、ベヒーモスは全身が瞬間凍結した!
いったい何をしたのだろう。
大魔道士は指も動かさず、巨大生物を凍らせてしまったのだ。
そして彼女は杖の先で、地面を静かにカツっと突いた。
すると、凍結したベヒーモスは突如、粉々に砕け散ってしまった。
大魔道士は魔物の全滅を確認すると、身を翻す。
そして、表情一つ変えずに王城へと戻って行ってしまった。
周囲の騎士団は、口々に叫んだ!
「大魔道士様万歳!」




